ペットを飼っている方の多くは、ペットが快適に生活するための適温が何℃なのかが分からず、室内の温度管理に困っているようです。
飼い主 に「ペットが室内で暮らす上での適温を知っていますか」と質問したところ、84.3%の方が「知らない」と回答しました。
意外にも、ペットの飼育年数との相関関係は、全く見られませんでした。多くの人が、「人が快適ならペットは大丈夫」「外でも飼えるのだから、室内はそれよりも過ごしやすいはず」という意識を持っているのかもしれません。
また、「適温を知っている」と回答した方の5割が「夏場は25℃以下が適温」と回答するなど、やや低めの温度をイメージする傾向が見られました。
8割以上が適温を知らないと回答、
室内温度への関心の低さを裏付ける結果に
ペットと一緒に生活する室内の空気に関して、気になることを聞いたところ、「ペットの毛」が1位(67.7%)となりました。「ペットの毛が毛布に付く」「毛が細いので舞ってしまう」「抜け毛が服に付く」など、ペットの毛自体が視覚的に目に付きやすく、存在を意識する機会が頻繁にあるため、どうしても気になってしまうようです。
ペット自身のニオイや、ペットのトイレのニオイに困っている方も多いようです。改善のために、消臭剤や芳香剤である程度対策をしている飼い主もいますが、不満が解決しない状況が続き、「ニオイは仕方ない」「とくに何もしない」という、半ばあきらめ気味な方もいるようです。
ウイルスやカビ、ダニ、花粉といった、ペットの健康に関わる空気の課題に対しても、多くの人が感心を持っています。
では、ペットにとって適切な室温を保ち、熱中症を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。
ペットと住宅の専門家の金巻先生に解決法を教えてもらいました。
一級建築士事務所
かねまき・こくぼ空間工房
金巻 とも子 先生
多くの犬種が暑さに弱いので、人が少し肌寒く感じ、羽織り物が欲しくなる程度が丁度いいぐらいです。特に幼齢期・高齢期は、犬猫とも自分で体温調整できませんので、室温管理に気をつけましょう。 人間と同様、犬にも急激な温度変化によって身体に影響を受けるヒートショックがあります。猛暑や真冬に散歩で外出するときや、窓を開けるときなどは仕方ありませんが、お家の中はなるべく温度差を作らないようにしましょう。できるだけ 4℃以上の差を作らないのが望ましい室内環境です。
犬や猫には、夏と冬のそれぞれの気候に合わせて毛が生え変わる換毛期がありますが、1年中温度が一定の室内環境では、毛が生え変わらずに冬でも夏毛のままのこともあります。その場合には、洋服で対応するのもひとつの方法ですが、自然な状態ではありませんので、着用は家の中ではなく外出時だけにするなど調整しましょう。
また、温度に関係のある注意点として、ペットの寝床は窓際に置かないようにしましょう。窓から入り込む日差しや冷気によって、窓際は短時間に寒暖の差が生じます。目安としては1m程度は離した方がよいでしょう。 夏の日差しでフローリングが熱くなり、床面が42℃以上になることもあるようです。しつけの面でも、窓に近いと外からの音に反応して「吠え癖」がついてしまうことがあるので、窓から離すことをおすすめします。 また、自分で体を温めたり冷やしたりして体温調節できるよう、暖かい毛布や冷たい床を必ず用意しましょう。
湿度が70%になるとカビ・ダニなどの微生物が繁殖しやすいので気をつけましょう。また、猫はひげに湿気が溜まると感覚が鈍ります。視力が良くないのを補うため、ひげに触れる風や湿気、物の配置などを感覚的に感じているので、湿度の高すぎには注意しましょう。
湿度を調節する方法として、天井・壁に調湿建材を使用することをおすすめします。日本建築では、塗装していない柱やふすま、たたみが、湿度が高いときは湿気を吸収し、湿度が低いときは含んでいた湿気を吐き出し、呼吸するように湿度を調節していました。しかし、近年の住宅で使われている壁紙やフローリングには調湿機能が優れていないものも多く存在します。調湿効果を持つ建材を使うことによって、湿度をコントロールすることができます。
また、室内にカーテンやマットなど布の家具を活用すると、湿気を留めるだけでなく、滑り防止・毛の舞い散りの防止にもつながります。ただし、床全面をカーペットにしてしまうとお掃除が大変になり、ニオイが定着してしまう可能性もあります。
温度が高い真夏は、エアコンの冷房運転をすることで、温度だけでなく湿度も下げることができます。梅雨などの「湿度」が高いときには、設定温度を高めにした冷房運転か、寒くなりすぎない除湿運転がおすすめです。
除湿機を使う場合には、温度が低くなる北側の部屋がおすすめです。日差しが入りやすい南側の部屋に比べ、北側の部屋の室温は低くなります。湿気はどの部屋でも均一の量になろうとするため、温度が低い北側の部屋ほど空気中に含むことのできる水分量が少なくなり、相対的に湿度が高くなるからです。
一方、冬場は乾燥しやすく、特に暖房で温度が上昇した室内は、相対的に湿度がさらに低くなりますので、加湿空気清浄機を活用しましょう。また、ダイキンのエアコン「うるるとさらら」は、暖房しながら給水なしで加湿することができるのでおすすめです。
り、洋服に付着したりしていると、見た目にも良くありません。ペットの毛にはどんな対策法が有効なのでしょうか。
マンションの場合、気密性が高く、なおかつ開口部がバルコニーと開放廊下など、対面する2方向にしかないケースが多く、風の強い日などに窓や玄関を開けると一気に風が抜け、毛が移動しやすくなります。
フローリングの場合、リビングに落ちた毛が別の部屋まで移動してしまうこともありますので、部屋の入り口の前にマットを敷いておくと毛の侵入を防ぐことができます。玄関も同様に、ドアを開けると近隣の家まで毛が飛んでしまうこともありますので、玄関マットを敷いて対策すると良いでしょう。部分的に着脱ができて、メンテナンスしやすい敷物を活用して、こまめにお手入れするのも効果的です。ただし、ペットがいる部屋の床を全てカーペットにするのは、お掃除が大変になり、ニオイも定着するのでおすすめしません。
大きな家具の周りや、部屋の角などの風通しの悪い場所には、毛がたまりやすくなります。室内の空気の流れを良くして、こまめに掃除するように気をつけましょう。
エアコンを使用している場合には、エアコンが設置されている場所の反対側に空気清浄機を設置することで、部屋全体の空気に流れが生まれ、溜まった毛を効率的に集めることができます。
空気清浄機のフィルターにペットの毛が溜まっていると、運転効率が悪くなりますので、掃除機で床を掃除するついでに少なくとも2週間に1回程度はフィルターも掃除をしましょう。
窓や換気扇の位置などを確認して部屋の空気の流れを把握し、家全体にまんべんなく空気が流れていることが大切です。トイレは、排気の最終ポイント近くに置くことが重要です。また、天井面にニオイが溜まっていないかも確かめましょう。天井に汚い空気が定着してしまうと、ニオイのかたまりになります。天井から室内の空気をかき回すシーリングファンを活用すると、天井面の空気が流れるので効果的でしょう。夏のエアコン冷房は冷風が天井に沿って流れますので同様の効果があります。また、空気の流れをつくるサーキュレーターや空気清浄機も有効です。ただし、動物は音を気にしますので、ハウスのすぐ近くに置くのはやめましょう。また、サーキュレーターのファンや空気清浄機のフィルターには毛が溜まりますので、メンテナンスが必要です。
壁に吸着されたニオイは、分子が水蒸気と同じくらいの大きさなので、湿気が多い日は壁に染み込む水蒸気に押し出されて、室内に放出されてしまいます。これが梅雨のイヤなニオイの原因でした。
この原理を利用して、湿気が高いときにきちんと除湿をすれば、壁に染み込んだニオイまで除去することができます。つまり、梅雨などの、湿気が高く室内からニオイが発生する時期は、壁を脱臭するチャンスと言えます。天気にあわせて、換気や除湿、エアコン除湿を使い分け、ニオイと一緒に湿気を追い出しましょう。
ウイルスや菌の活動が活発になる、温度・湿度が低い状態にならないように気をつけましょう。一方、湿度が高すぎるとカビ・ダニなどの微生物が繁殖しやすくなります。適切な湿度の目安は50%~60%です。
寝室は快適と感じる湿度が他の部屋より少し高めで、温度・湿度ともに変動が少ない場所という特徴があります。布素材の家具も多く、カビやダニが繁殖しやすい環境です。そのため、日常的に犬や猫が出入りすることが多いと、抜け毛やフケなど、カビ、ダニの栄養源になるタンパク質を増やしてしまう恐れがあります。犬や猫と寝室を一緒にしている方は多いかもしれませんが、別にする方が良いでしょう。
猫や犬の花粉症は、口・眼の周りや肛門など、毛があまり生えていない、皮膚が弱いところに出やすいという特徴があります。花粉症を防ぐには、家の中から花粉を排除する必要があります。犬の場合は散歩から帰ってきた時に、外から室内に持ち込んでしまいます。花粉を強く払うことで花粉がつぶれて、アレルギーの原因となるアレルゲンが露出してしまうこともありますので、花粉をつぶさずにブラッシングしてから家に入れるのがよいでしょう。
玄関周りには、リードやブラシ、ジャケットなど、動物のグッズを置いてあるケースが多いので、十分なスペースがあれば、空気清浄機を置くのも有効です。なるべく、屋外からウイルスや菌、カビ・ダニ、花粉などを持ち込まないように心がけましょう。
厚生労働省のデータ※1によると、2013年に全国の自治体に登録された犬の数は675万頭。飼育されている犬がすべて登録されているわけではありませんが、 1960年の約3.5倍と、大幅に増加しています。
また、矢野経済研究所の調査結果によると、2013年度のペット関連総市場規模は、小売金額ベースで1兆4,288億円でした。
ペット関連総市場には、ペットフードや、ペット用品、ペット美容室・ペット医療・ペット保険・ペットホテルなどの各種サービスなどが含まれ、市場規模は年々拡大しています。
今後は、ペットの老齢化やペットの健康維持・管理への関心が高まり、これらに関連する製品やサービスの需要が伸び、引き続き市場の拡大は続くと考えられています。
ペットフード協会の「2014年全国犬猫飼育実態調査」によると、猫の飼育場所の約86%が室内(室内のみ、もしくは散歩・外出時以外は室内)、犬の約81%が室内(同) となっています。
昔は屋外の小屋で犬を飼っていた家庭も多くありましたが、近年では室内での飼育率が高くなっています。都心部では集合住宅で生活する人が増え、室内でしか飼えないという事情も、室内での飼育率が高くなった原因と言えます。
不動産経済研究所の「首都圏におけるペット飼育可能な分譲マンション」の調査によると、1998年に首都圏で販売された新築マンションのうち、ペット可のマンションは1.1%だったのに対し、2007年にはその割合が86.2%にまで達しました。
ペット飼育が可能なマンションの急増にともない、ペットと同じ空間で生活する家庭が増えているのです。
ペットと一緒に生活する上で、住人は「空気環境」をどれぐらい意識しているのでしょうか。
2013年、ダイキンはペットを飼っている人を対象に「人とペットが一緒に生活する室内環境と空気の課題」についての調査を実施しました。
「ペットと一緒に暮らすようになって気になっていること/関心があることは何ですか」という質問をしたところ、
1位 「ペットの食べ物・飲み物」(27.3%)
2位 「ペットの病気」(19.2%)
3位 「室内の空気の質(抜け毛、清潔度など)」(13.8%)
4位 「ペットのトイレ」(10.8%)
5位 「ペットのニオイ」(9.2%)
6位 「ペットのダイエット/運動」(8.7%)
という結果になりました。
ここで注目すべきは、ペットの健康・日常生活に関する課題とともに、「空気の質」や「ニオイ」といった空気環境への関心が高い、ということです。
また、夏場はペットの熱中症を心配する人も多いようです。犬や猫は、体温を調節する機能を持つ汗腺が鼻や足の裏の肉球など限られた部位にしかないため、熱中症を防ぐためにも温度管理が重要です。
品種改良によってつくられた鼻の短い犬種、たとえばフレンチブルドッグやシーズ、ボストンテリアなどは、呼吸効率が良くないため、特に暑さに弱く、柴犬、秋田犬など毛が密生している犬種も、暑さには注意が必要と言われています。
長いマズル
スムーズな鼻呼吸で空気の温度を下げる
咽頭気道が広く、効率よく熱を発散できる
短いマズル
鼻孔や鼻腔が狭く鼻呼吸の効率がよくない
咽頭気道が狭いので、熱の発散効率が低い
空気の可能性を信じ、追い求め、
新しい価値をくわえて
これまでになかった空気を、世界へ届けます。