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空調機の故障診断が進化する。ダイキンの開発したハイブリッドAI故障診断とは?
FEATURE
2026.01.26

夏の暑い時期にオフィスの空調機が故障すると、そこで働く人は快適な空間で仕事ができません。そのため、現場に駆けつけたサービスエンジニア(以下、SE)は、顧客の期待に応えるべく、早急に原因解明と修理が求められます。

 

そこで、ダイキン工業(以下、ダイキン)が開発した「ハイブリッドAI故障診断」を利用すれば、故障原因をすぐに解明でき、空調機が復旧するまでの時間を短縮できます。

 

今回はハイブリッドAI故障診断の開発に携わった富永 盾氏と、田邉 雄亮氏に、システムの内容や社内外に与えるインパクトについて語っていただきました。

センサーだけでは分からない故障の原因

――顧客の「快適」を支える現場の苦悩

富永:ダイキンでは、お客様に快適・安心を届ける保守サービスを実現するため、保守契約の内容に応じてさまざまな機能やサービス、体制を作っています。

さらに高い品質を実現するために、次の4つの課題があります。

 

  ● 気温が高くなる夏に複数のお客様の故障が重なり、通常時に比べ修理対応に時間を要する

  ● 原因究明や修理を行う技術力がSEの経験値によりばらつきがある

  ● 経験豊富なSEの高齢化

  ● 故障内容によっては、現場で原因究明をするため、部品を手配して後日改めての修理になる場合がある

 


従来、空調の異常検知では、事前に設定したルールに基づく異常検知(故障診断)を行っていました。しかし、空調機は外気温や運転状態によって、「正常値」が変わるという特性を持っています。例えば、「あるサーミスタの温度が60℃以上ならガス欠(冷媒ガス欠)」というルールを作ったとします。しかし、そのルールに合致したとしても、実際にガス欠になっていることもあれば、外気温や圧縮機の回転数によっては正常な運転の範囲内ということもあるのです。

 

そのため、ルールベースの故障診断はごく一部の範囲にしか適用ができなかったり、広い範囲に適用しようとすると運用コストが嵩むという問題がありました。ちなみにルールベースで故障診断をするには、機種ごとに異なるルールが必要です。

――エラーコードを読み解くSEの経験と知識

 

田邉:空調機には、エラーの内容を示してくれる「エラーコード」というものがあります。しかし、これはあくまでも特定のセンサーの値が閾値から外れていることを示すものです。実際に起こっている現象と原因の究明は、SEが行わなくてはなりません。

 

例えばサーミスタがエラーコードを発しているとします。ここから得られるのはサーミスタの値(温度)が正常範囲から外れているということだけです。サーミスタそのものが故障している場合もあれば、ガス欠など他の故障によってサーミスタがエラーコードを発していることもあります。

 

このように、異常の原因が症状と異なる部分にある場合や、一つの異常が複数の原因により発生する場合もあります。SEは経験と知識によって故障の原因を特定しなければなりません。

 

 

特性を補完し合う2つのシステム。「ハイブリッド」にしなければならなかった理由

――開発の第一歩は市場に眠る膨大なデータ

富永:ダイキンでは、業務用空調機の遠隔監視サービス「エアネットサービスシステム」を提供しています。契約されている機器の運転データは、サービスが開始された30年以上前からダイキンに蓄積されています。私たちは長年データと向き合うことで、各センサーの情報と実際の故障を関連付けられるだけの知見(ドメイン知識)を積み上げてきました。しかし、それらすべてをルールベースで表現して自動化しようとすると、運用コストが非常にかかるという問題があります

――突破口は機械学習。ルールベースと特性を補完し合う関係性

田邉:そこで「ルールベースと機械学習のハイブリッドモデルなら適切な処理ができるのではないか?」と考えました。例えば診断の解釈性や知見の反映性はルールベースのほうが高い一方、診断精度は機械学習のほうが高いという関係性にあります。そのため、一方の短所をもう一方の長所によって補えるのです。

 

ルールベースには知見をすぐに判断基準(ルール)に反映できる、必要なデータ量が少ないという長所があります。一方、短所は複雑な判断には適さないことです。反対に機械学習は、診断精度は高いものの、アルゴリズムがブラックボックス化されており人間がロジックを完全に理解するのは容易ではありません。

また、ルールベースでは実測値から得られた知見を反映させるときに人間が基準値を操作できます。しかし、機械学習の場合は正解のデータを読み込ませても、機械学習のモデルのなかでどのように活用されるのか人間が把握できません。そのため、ルールベースと機械学習を組み合わせたハイブリッドAI故障診断を考えました。

複数のテンプレートの組み合わせによるデータベース

 

3つの差別化ポイントを生み出したハイブリッドAI故障診断の仕組み

――強みを活かし役割を分けた2つのシステム

田邉:故障診断の流れは次の通りです。

 

  ● STEP1:機械学習を用いた正常時のセンサー値予測

  ● STEP2:実測値と予測値の比較による故障診断の実行

 

まず、STEP1として機械学習により正常値を予測し、実測値と比較して乖離度を取得します。このモデルは正常データを教師ラベルとして作成する回帰モデルで、正常データはこれまで蓄積したエアネットのデータを使いました。そしてSTEP2として各センサーの乖離度のバランスから、ルールベースで故障の原因を判断します。このルールを決める際には、これまで蓄積されてきた冷媒制御のドメイン知識を大いに活用しました。

 

富永:今回のハイブリッドの方法ではなく、正常データと異常データを教師ラベルとして利用する分類モデルを構築する方法もあります。この場合、機械学習の特性として正常、異常データ共に多数のデータが必要となります。しかし、市場では正常データは膨大に存在しますが、異常データはそれほど多くありません。

 

異常データを人工的に作成するという方法も検討しましたが、ガス欠、サーミスタ、圧縮機、電動弁など多様な故障モードをカバーする必要があり、教師あり学習に必要な量を作成しようとすると膨大な工数がかかります。そのため、膨大に存在する正常データを活かしつつ、かつ少ない異常データで高精度な故障診断を行うことができる今回のハイブリッドの方法を考えました。

機械学習とルールベースの役割を分け、組み合わせることで、
故障診断のアルゴリズムを構築

――高精度、広い診断対象、横展開という3つの差別化ポイント


富永:ハイブリッドAI故障診断の開発に成功した私たちは、2025年2月にこのアルゴリズムをリリースしました。運用実績は4か月ほどですが、社内での成果が着実に出てきています。

 

これまでのルールベースの故障診断では、外気温や運転状態の変化に完全には追従しきれませんでした。しかし、ハイブリッドAI故障診断なら、機械学習がそれらの変化に追従してくれるため、故障診断の網羅性が向上しました。

田邉:他にも診断対象を広げやすいというメリットがあります。ルールベースの故障診断では、機種ごとにルールを決める必要がありました。しかし、機械学習のモデルが機種ごとの差を吸収して判断してくれるため、機種ごとにルールベースを分ける必要もなくなりました。

 

ハイブリッドAI故障診断は今後の展開にも期待できるものです。もとはVRVシリーズという業務用マルチ空調機に向けて開発したものですが、モデルの汎用性は高く横展開ができるものです。そのため、VRVシリーズより小さく店舗向けのスカイエアシリーズや家庭用空調機への展開も可能です。

複数のテンプレートの組み合わせによるデータベース

 

海外展開の可能性も秘めたハイブリッドAI故障診断の存在意義

――ハイブリッドAI故障診断が現場にもたらすメリット

富永:ハイブリッドAI故障診断のメリットはいくつかあります。まず、故障の原因を明確にしてからSEが現場に出動するため、修理にかかる時間が非常に短縮されます。また、部品を適切にストックしておけば、1回の出動で修理が完了します。

また、ハイブリッドAI故障診断が見据えるのは、短期的ではなく長期的な手間やコストの削減です。そのため、ある部品の交換のために出動した際に他の部品の劣化も検知し、同時に交換することで、故障を未然に防ぐだけでなく出動回数削減にも役立ちます。

 

ダイキンの空調機を利用されるお客様は、保守品質の高さを評価してくださっています。ハイブリッドAI故障診断により、より顧客満足度を高められると思います。

――インドでも普及が期待されているハイブリッドAI故障診断

田邉:ハイブリッドAI故障診断は、インドでも展開する予定です。インドの環境を簡単にお話すると、気温が40℃を超える日が多く、空調機が故障するとその影響は日本よりも大きい傾向にあります。

 

また、その気温の高さに加え、砂塵が多いことも相まって故障のリスクが高く、そのため保守契約を結ぶお客様の割合が日本に比べて高いことが特徴です。もともと保守について積極的なお客様が多いため、ハイブリッドAI故障診断も受け入れてくれることを期待しています。

 

ゼロからの挑戦で作った「社会的インパクト」を与える可能性

――学生時代との専攻と全く異なることを学んだダイキン情報技術大学

富永:私は学生時代、電気回路や材料の勉強や研究をしていました。そのため、ダイキン情報技術大学(以下、DICT)に入るまでAIについて学んだことがなく、プログラムを書いた経験もそれほどありませんでした。DICTでは機械学習やAI、統計学やアルゴリズムデータ分析、それにクラウドやプログラムと広く学びました。DICTで学んだことは、まさに今回の開発に活きています。また、社内の関連部署(事業サービス本部)にも、DICTの卒業生で情報系の人材が増えているため、スムーズな連携も得られるようになりました。

 

田邉:私は学生時代、石油や天然ガスなどの資源エネルギーと、金属材料について学びました。他には細胞の培養をした経験もあります。富永さんと同様にDICTで学んだ内容がそのまま今の仕事に活きています。また、社内の困りごとを見つけてビジネスを企画し、システムを作るという実習も経験しました。学生時代はビジネスについて学ぶことがなかったため、利益を考慮して開発を学べたのは貴重な体験だったと思います。

 

 

――ハイブリッドAI故障診断が社会に与えるインパクト

富永:昨今、あらゆる業界で人材不足が叫ばれています。空調機器の業界も例外ではなく、当社の保守品質をこれまで保つことができたのは、現場を支えるSEの方たちのおかげです。しかし、今後市場で空調機の数が増えていき、さらに人材が不足していくと品質担保が難しくなる可能性があります。そのとき、少人数であっても高品質な故障診断ができるハイブリッドAI故障診断の真価が問われると思っています。


田邉:私も労働力不足は深刻な問題で、解決すべき喫緊の課題だと思っています。開発したハイブリッドAI故障診断はこの状況を打破できるものだと信じています。

社内SEの負荷を下げられるだけでなく、予防保全や省エネ改善、法対応など、空調機の総合的な運用改善提案するといった、より付加価値の高い業務に取り組む時間を確保できるようになり、お客様の満足度がますます上がると考えます。

「出る杭を認め、前向きな失敗をとがめない社風」で、一緒に挑戦する仲間を待つ

――テクノロジー・イノベーションセンターの魅力と今後の展望

富永:ダイキン当社は世界各地にR&Dセンターを持っていますが、テクノロジー・イノベーションセンター(以下、TIC)は研究開発のグローバルコントロールタワーです。そのため、さまざまな国と連携をしたり、実際に現地に行く機会もあります。それがTICの魅力です。現在TICでは情報系の人材をはじめ、多くの開発人材を育成しています。私もその一人として、積極的に海外の仕事をしていきたいです。

田邉:グローバルで大きな仕事をできるのがTICの魅力です。また、私たちのように情報系の人材もいれば、機械系やシミュレーション系など豊富な人材がいます。今後はより多くの人と積極的につながりを作るようにして、ダイキンならではのシナジーを発揮していきます

――今後、入社する仲間へのメッセージ

富永:現在、全社をあげてデジタル領域への投資を積極的に行っている段階です。デジタル領域でデータを活用して何かにチャレンジしたい人にとっては、最高の環境が整っています。また、ダイキン当社には「出る杭を認め、前向きな失敗はとがめない」という文化があります。与えられる業務はありますが、それをこなしたうえでやりたいことを上司に提案して積極的に取り組めます。

田邉:与えられた仕事をこなすだけでなく、プラスアルファの自分らしさを出すことが大切です。上司に提案して学会や海外出張に行かせてもらったこともあります。TICには若い方もどんどん増えてきているので、チャレンジ精神あふれる人と一緒に挑戦できることを楽しみにしています。

 

 

※記載内容とプロフィールは取材当時のものです。
Jun Tominaga
テクノロジー・イノベーションセンター

2019年4月入社。兵庫県出身。
IoTやAI技術を活用した故障診断技術。空調のIoTデータを活用し、世界のお客様、現場から最も信頼されるサービス作りに挑戦したい。
Yusuke Tanabe
テクノロジー・イノベーションセンター

2021年4月入社。岡山県出身。
IoTやAI技術を活用した故障診断技術。データから新しい価値を生み出し、常に快適な空気を提供する「止まらない空調」の実現に貢献していきたい。

 

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