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ダイキンが挑戦するToyota Woven City(トヨタ・ウーブン・シティ)での2つの大実験とは?
FEATURE
2025.07.17
2025年2月、静岡県裾野市においてToyota Woven Cityと呼ばれる街の竣工式が行われました。これはトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)が進める実証都市のプロジェクトであり、ダイキン工業株式会社(以下、ダイキン)もインベンターズ(発明家)の一社としてこのプロジェクトに参画し、空気によって価値ある生活空間を創出する新技術の実証実験を行います。

今回はToyota Woven Cityにおいて「花粉レス空間」に挑戦するテクノロジー・イノベーションセンター(TIC)の堀翔太氏と王羽峰(うほう)氏、同じく「パーソナライズされた機能的空間」に挑戦する中川京佑氏に、それぞれの取組みについて語っていただきました。

実証都市「Toyota Woven City」とは?

ーーToyota Woven Cityの概要

堀:Toyota Woven Cityとは「ヒト中心の街・実証実験の街・未完成の街をコンセプトに、幸せの量産を目指してトヨタさんが主体となって作られた街です。そこでは、インベンターズとウィーバーズ(住民、ビジター)が、ヒト・モビリティ・社会インフラが連携する街の形をしたテストコースで、生活をしながら様々なプロダクトやサービスを実証することができます。我々ダイキンは、これまで取り組めていなかった実際に人が生活する中で、インベンターとして、今回2つの実証実験に挑戦します。
図1:Toyota Woven Cityの全景

 

空調メーカーのダイキンが Toyota Woven City に挑戦する理由

堀:ダイキンの強みの1つとして、長年の空調専業メーカーならではの高品質なモノづくりがあります。おかげさまで、これまで多くのお客様に信頼いただき、空調機器事業売上高で世界ナンバーワンの売り上げを達成しております。しかし、社会や市場の変化が急激なため、これまでの延長線では勝ち続けられない、という強い危機感があります。

私たちは、これまでの機械の性能評価に加え、どれだけ人を幸せにできたか、という観点でヒト中心の研究開発を行うことで、新たな空気価値を創造できると考え、様々な社内外協創を実施してきました。その結果、いくつか成果が出てきつつありますが、実際の生活環境とのギャップがあったり、短い期間での評価しかできなかったり、とまだまだ途上です。

 

そこで、Toyota Woven Cityの話を聞いたところ、長期間に渡り実際に生活している中で、欲しいデータを取得・分析し、それをデジタルにもリアルにも反映していけるフィールド、という正に理想の環境でした。これはやるしかない、と思いました。

花粉レス空間。花粉に苦しむ人が快適に安心して暮らせる空間を目指す新技術

ーー花粉レス空間を実現する技術

王:当社はこれまで、高性能フィルタで花粉の侵入を防ぐ換気装置や、吸い込んだ花粉をストリーマ放電で酸化分解する空気清浄機等を商品化してきました。しかし、これらは、機器を通る空気への対策であり、機器を通らない空気には当然ですが対策できません。特にレンジフード使用時など、機器を通らずに建物のすき間から花粉などが侵入してきてしまうこともあります。

 

そこで室内を陽圧にすることで花粉の侵入を極力防ぐ技術を採用しました。屋外からの空気の取り入れと、屋外への排気を換気装置でコントロールすることにより、屋内の圧力が屋外の気圧(大気圧)より少しだけ高い状態(=陽圧)を常に保つようにします。レンジフード使用時など、局所的に大量の排気が行われた場合には、それに連動して屋外から空気を取り入れることで気圧のバランスを保ちます。これにより、機器を通らない空気を減らすことができ、花粉の侵入をある程度抑制できると考えています。

 

花粉は30μm程度の大きさのため、空気を取り入れる際に通過する高性能フィルタでほとんどが取り除かれます。中には砕けて非常に細かくなったものや、居住者の衣服等で持ち込まれるものもあるので、それらは空気清浄機でキャッチすることで、快適に過ごせる環境に整えます。

ーー従来の花粉対策に比べて期待できる効果

堀:具体的な効果(数値)については実証実験を行わないと分かりませんが、これまでに十分なシミュレーションを行っており、効果を期待できるものだと考えています。これは一般的なデータですが、室内には1日2,000万個の花粉が侵入し、その原因の約60%が換気によるものだといわれています。換気による花粉を極力ゼロに近づけることが、今回掲げている開発目標です。

ちなみに残りの40%は洗濯物への付着や、着ている衣服への付着による持ち込みです。これについては、空調機だけではできない部分ですので、Toyota Woven Cityの住民の皆様のライフスタイル、例えば洗濯物の干し方、外出のタイミングなど、についてコミュニケーションを取りながら無理のない対策を考えていきたいと思っています。

パーソナライズされた機能的空間。快適性と機能性を両立する空間とは

ーーパーソナライズされた機能的空間とは何か

中川:リラックスや集中、あるいは快眠など、人にはさまざまな状態があります。「パーソナライズされた機能的空間」は、そのような状態を空気と他の要素を組み合わせて作るパーソナルな空間です。

まず、空気は当社が得意とするところです。温度や湿度、気流、それに清浄度といった空気の要素を組み合わせて、日々の生活シーンに合わせた空間を作ります。一例として、過去には「point 0 marunouchi」という東京・丸の内にあるコワーキングスペースにおいて、他社様との協創で軽井沢の心地よい自然風を再現する気流コントロール技術を開発しました。

さらに、Toyota Woven Cityの実証実験では空気の要素に加えて、映像や音、それに香りや照明などを組み合わせて最適な空間になるような調整を行います。例えばリラックスしたいときには軽井沢や尾瀬をイメージするような高原の映像や音、それにリラックス効果があるとされるラベンダーの香りを組み合わせます。

 

もちろん個人差は考慮しますが、人に共通するパラメータもあります。共通部分をきちんとおさえたうえで、パーソナルに調整できる仕組みを、実証実験を通して構築していきたいと考えます。

――効果の評価方法

 

中川:リラックスや集中などの感想は個人差が大きく、一つの数値のみで評価するのが難しい分野です。アンケートを実施したり、多感覚な機能空間の内外においてタスクの遂行時間を測定したりと、様々な側面から評価したいと考えています。

 

一方、空気の要素の効果については社内で蓄積したデータがあります。これらのデータを活用しつつ、空気要素だけの場合と、その他の要素を組み合わせた場合の有意差についても評価し、空気が持つ価値を明らかにしていきたいと考えています。

 

 

Toyota Woven Cityだから得られる実生活からのフィードバック

――Toyota Woven Cityで実証実験をする意義

 

堀:Toyota Woven Cityという実際に人が住む環境で、長期間にわたってデータを得られるのは非常に大きなメリットです。花粉症は季節性があるのはもちろん、黄砂やPM2.5など他の要素によっても症状の度合いが変化することもあります。こうした状態(データ)を連続的に取得できるのは非常に良いことです。データが多すぎて分析が難しいところもありますが、ウーブン・バイ・トヨタさんの力も借りつつ、ダイキン情報技術大学出身のメンバーにも入ってもらい、数式モデルに落とし込みたいです。

 

――Toyota Woven Cityの住民

 

王:Toyota Woven Cityには、発明家マインドを持つ住民が集まります。その住民の方々からは、実証であることを前提とした様々なフィードバックや思いもよらない提案が期待できます。それを商品開発に展開することにより、スピーディーかつ確かなビジネスを構築できると考えています。

 

中川:パーソナライズされた機能的空間の実証実験を進めるうえでも、Toyota Woven Cityの環境はとても重要です。リラックス、集中、快眠といった求める効果や、それを実現する要素の組み合わせはさまざまあり、ターゲットによっても変わります。技術者だけでなく立場の異なるご家族の方がいることで、多方面から率直なフィードバックが期待できるのではないかと考えます。

 

――Toyota Woven Cityだからこそ実現できるデジタルツイン

 

堀:Toyota Woven Cityはリアル空間の実験と、デジタル空間のデータが非常に強く結びついた場所だと理解しています。その場で起こっている現象を自分の目で見られるだけでなく、どのようにデータに表れるのかすぐに分かるため、カイゼンのサイクルを早められたり、シミュレーションの精度を向上したり、などさまざまなメリットが期待できます。

 

 スギ花粉だと飛散時期の約2か月が勝負です。分析から実装のサイクルを早めて、この間に勝負できる回数を増やすことで、開発にかかる時間が年単位で変わってきます。また、既にデジタルのToyota Woven City(※1)が存在しているようですので、各所に設置予定のセンサー情報と掛け合わせることで、少ない手間で、高精度に花粉がどう侵入してきているかなどをシミュレーションできるようになると、期待しています。

社会実装に向けて

 ――協創の可能性

 

堀:「花粉レス空間」の開発において、現時点において協創は考えていません。しかし、私たちが提案するソリューションを世の中に広めるためには、ハウスメーカーさん(戸建住宅)やデベロッパーさん(マンション)など人の暮らしに近い業種との協創は将来的に必要だと考えています。

 

中川:「パーソナライズされた機能的空間」においては、空気以外の要素の構築には他企業様との協創が必要であると考えています。今後に期待していただければと思います。

 

――今後のビジョンと、海外も含めた展開の可能性

 

堀:さらなる事業貢献に向けて社会実装する計画のもと「花粉レス空間」のプロジェクトを進めています。今後の展開として、花粉症の多い国内だけでなく国外もターゲットとして考えています。そのときは花粉レスではなく、別の◯◯レスかもしれません。

 

空調は各国で文化が異なりますし、空間となると建物側とのすり合わせも必要なので、これまで以上に社内外の協創による地域に合わせた形での実装が求められます。技術開発のコントロールタワーとしては国内外の戸建て住宅やマンションに導入しやすい花粉レス空間の基準を確立し、機器単体の販売から、システム販売、空間提案にまで広げていきたいと考えています。

王:花粉症というと、薬、マスク、メガネが一般的な対策ですが、今回の実証実験を通じて、実は空調システムも重要であるということを広めていきたいと思っています。ですが、実証で良い結果が得られたとしても、換気装置って建物を建てるときぐらいしか考えないので、多くの人にすぐに届けるのが難しいんですよね。

まずは、空調システムによる花粉対策に感度が高いお客様をターゲットに今回の花粉レス空間を実装し、その効果を世の中に認めもらいつつ、他の多くのお客様が自宅に簡易的に導入できるような新たな花粉レス空間の開発にもつなげていきたいです。

中川:「パーソナライズされた機能的空間」も2030年を目処として社会実装を目指しています。住宅やビルといった建物だけでなく、様々な空間に対する価値の拡張を実現したいと考えています。

Toyota Woven Cityそのものが海外からも大きな注目を集めているプロジェクトであり、そこに参画する当社のソリューションも同時に注目されることを期待しています。

 

開発にかける意気込み

――Toyota Woven Cityの実証実験を通して成し遂げたいこと

 

堀:花粉症に悩む方は多くいらっしゃり、もはや社会問題にもなっていると感じています。そのため、まずはToyota Woven Cityに暮らす人々が幸せになれるように、責任を持って高品質な当社のソリューションを作り上げ、広く展開していきたいです。

 

また、Toyota Woven Cityという大きなプロジェクトに参画して多くの人と接することによって、技術だけでなく、様々な考え方や文化を吸収し、社内で展開することで、ダイキン全体の成長につなげたいです。

 

王:私自身も花粉症のため、花粉症に苦しむ方のお気持ちはよく分かります。春はとても良い季節ですが花粉症に苦しむ季節でもあるので、現在のところ春は嫌いな季節です。「花粉レス空間」はあくまでも室内のソリューションですが、効果を検証して花粉症で苦しむ方が少なくなる世の中にしたいと思っています。

 

中川:ダイキンはエアコンの普及を通じて、皆さまの快適な暮らしに貢献してきました。さらに私たちは、「空気価値の創造」というミッションを掲げています。そのため、このミッション通りのイメージが広まるようにToyota Woven Cityでの実証実験をはじめ、さまざまな取り組みを進めていきます。

 

※記載内容とプロフィールは取材当時のものです。


※1. 現実世界をデジタル空間に再現し 「困りごと」の解決を加速する
Shota Hori

テクノロジー・イノベーションセンター

2016年5月入社。愛知県出身。
住宅向け空調システムを担当。ヒト中心の研究開発を通して、健康に寄与する空気質を実現し、世界中の老若男女に届けたい。
Yufeng Wang

テクノロジー・イノベーションセンター

2019年4月入社。中国の安徽省出身。
住宅向け空調システムを担当。様々な空気環境の研究開発を通して、一人一人にとって最適な空気を提供し、人々に幸せを届けたい。
Kyosuke Nakagawa

テクノロジー・イノベーションセンター

2020年4月入社。大阪府出身。
空気価値の新事業開発を担当。空気で答えを出すダイキンとして、新たな空気価値の開発に挑戦し、人々の暮らしをより豊かにする空気を届けたい。
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