ページの本文へ

 

NEWS
新着情報

人工知能(AI)による空調の省エネを実現|熱負荷予測を活用した自動エネルギーチューニング
FEATURE
2025.05.07
ダイキン工業(以下、ダイキン)はAI技術を活用した新たな空調サービス「遠隔自動省エネ制御」を開発しました。基本的な仕組みとしては、空調機に備わるセンサーのデータと気象情報に基づき学習したAIが空調機の処理すべき熱負荷の予測を行い、それに基づき効率的な空調機の運転方法を導き出します。本記事では、ダイキン テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)の由良嘉紀氏、吉田孝太郎氏に、本プロジェクトの背景、開発の目的、エピソードなどについてお話を聞きました。

空調機の省エネ対策

ーー空調機の消費電力削減は、カーボンニュートラル実現に大きく貢献

 

由良:省エネが重視される背景には、昨今の大きなテーマとしてエネルギーの安定供給と地球温暖化防止の推進、更にはカーボンニュートラルの実現があります。その中で、エネルギーを多く消費し、環境負荷が高いものの1つに空調機があり、建物(オフィスなど)の消費電力の大半は空調機で占められていることから、政府や企業が掲げる環境目標の達成には空調機の省エネが特に重要となっています。

ーー空調機の省エネ課題は、実運用環境にある

吉田:空調機が運用される環境は建物・用途によって異なります。例えば、病院や事務所などに納入された場合、大きなロビー、小さな個室などの多種多様な部屋に室内機が設置され、設定温度や運転時間も様々です。そのような状況において、空調機が処理すべき熱負荷は、外気温や気象、室内の設定温度等に応じて、日ごと時間ごとに変化します。その中で、空調機は現状の室温を設定温度に近づけようと汎用的なフィードバック制御で空調能力の調整を行っています。


しかし、建物ごとに、あるいは時々刻々と変化する熱負荷に合わせてうまく調整しきれず、結果として室温が変動を繰り返し、人に不快感を与えることや、余計なエネルギーを消費することがあります。また、設備設計時点ではよく利用されると想定されていた部屋が実際はあまり利用されていないケースや、設備管理が十分にできず、空調機を消し忘れているケースなどが見られます。

空調機を含むビル全体のエネルギー消費を効率化し、省エネルギー化を進めることは喫緊の課題となっており、その対策としてBEMS(Building Energy Management System)の導入が重要視されています。BEMSとは、エネルギーの使用状況を含む設備機器の運転状況を一元管理し、エネルギー消費実態の「見える化」や機器制御/運用の最適化を図るビル管理システムです。取得したデータやIT技術を駆使して機器運転の改善点を洗い出し、お客様ごとの状況に応じた最適な省エネ対策を行うことで、CO2削減に大きな貢献が期待されています。

省エネに対するダイキンの取り組みとは?

由良:ダイキンでは、ビルや商業施設、病院などの業務用空調機の導入や運用、保守、更新といった空調機のライフサイクルにおいて、顧客ごとの異なるニーズに応じた快適性向上やエネルギー消費量削減、管理工数削減を実現するクラウド型空調コントロールサービス「DK-CONNECT(ディーケーコネクト)」を2021年に発売しました。

DK-CONNECTの省エネサポートとして、エネルギーの見える化や、削減ポテンシャルを示す省エネシミュレーション機能、機器間の連携制御やデマンド制御等のサービスがこれまでありました。これらに加えて、空調メーカーでしかできないきめ細かな省エネ技術として、空調機の制御を遠隔かつ自動で最適化する遠隔自動省エネ制御を新たに開発しました。

AIによる遠隔自動省エネ制御の開発

ーー空調機制御の基本は、熱負荷と空調能力のバランスが重要

由良:今回開発した遠隔自動省エネ制御には、3つのコア技術が活かされています。


   ● 建物の熱負荷予測モデル自動構築/更新技術

   ● 熱負荷予測技術

   ● 先回り制御(フィードフォワード制御)技術


この遠隔自動省エネ制御では、運転データに基づき空調空間の熱負荷を予測し、空間の熱負荷と空調能力がバランスする最適な制御設定値を先回りして自動でチューニングします。これにより実運用条件下の空間の熱負荷に合わせた空調能力を供給することができ、機器単体よりも更に省エネな運転を実現しました。

図1:熱負荷モデルを搭載した「遠隔自動省エネ制御」
――高精度な熱負荷予測と徹底した省エンジ化が技術のキーポイント

吉田:実際の熱負荷を物件ごとに考える際、まずは図2のような部屋を想定します。部屋の内外での熱の出入りに関連する主な要素は次の通りです。


   ● 窓から入る太陽光による熱

   ● 室温と外気温の差によって出入りする熱

   ● 隙間風や換気装置によって出入りする熱

   ● 人やオフィス機器から発生する熱


これらを総じて空調機が処理すべき熱負荷として考慮することで、高精度な熱負荷予測を実現します。これらの熱負荷要素を計算するには、窓や壁のスペックを把握する必要がありますが、こういった情報を建物図面等から調査し、システムへのデータ登録を行うには多くの工数がかかるため、事業化の大きな障壁でした。また、入手できた図面情報も、その後のレイアウト変更や改修工事等が反映されていないこともあり、正確性に欠けるといった課題もありました。


これら課題の解決のため、手間をかけずに熱負荷モデルを構築する新たな方法を検討しました。実運用条件下の空調機の空調能力を正解データとして蓄積し、正解データとの誤差が小さくなるように窓や壁のスペックを学習する方法です。この方法は全自動のため、定期的にモデル更新を行うことで、モデルの性能劣化を防ぐことも可能です。その結果、人手をかけずに熱負荷モデルを構築/更新することに成功しました。結果、運用工数を約9割削減することができ、事業化に繋がりました。この徹底した省エンジの追求が、ブレイクスルーの要因だと考えています。

図2:「遠隔自動省エネ制御」の詳細

実際のお客様でのテスト運用の結果

――ヤマハ様では21%、BMW(タイ)様では16%の省エネ性能を発揮

由良:開発技術の評価のためにダイキン社内の物件だけではなく、事業部門と協力し、実際に弊社の製品をご利用いただいているお客様の物件でもテストを実施しました。そのうち、ヤマハ様のテストマーケティング(検証期間:2023年4月~2024年3月)では、これまで計測した物件の中でも特に削減率が高く、20%を超える良い結果が得られました。また、国内だけではなく、タイのBMW様でもテストマーケティング(検証期間:2024年1月~2024年6月)を実施しており、消費電力量16%削減を達成しています。

また、本技術導入による快適性の評価としては暑いや寒いなど、実施有無による快適性の変化は感じられなかったとの報告を受けております。快適性を犠牲にすることなく、効果的に省エネを実現できる技術との評価をいただいております。

図3:国内外での「省エネ性」の事例紹介

ダイキンでの仕事のやりがい

ーーダイキン情報技術大学で学んだエンジニアがゼロから遠隔自動制御システムを構築

由良:今回の技術開発では、ダイキン情報技術大学(DICT)でクラウドなどICT教育を学んだ吉田氏が、専門知識を駆使し、有識者も交えて試行錯誤しながら、ゼロから膨大なシステムを構築しました。


吉田:私は入社してから2年間の研修期間で、ダイキン情報技術大学でAIや情報処理技術の専門知識をじっくりと学びました。その後、TICに配属され、遠隔自動省エネ制御の開発に従事しました。ダイキンはこれまで空調機の売り切り型の事業モデルで成長してきた企業のため、ソリューションの基盤となるクラウドに関する知見が多いとは言えない状況でした。そのなかで、ソリューションをゼロから開発することに対して不安もありましたが、逆に大きく成長できる機会になると士気が上がったことを覚えています。そこで、挑戦的な気持ちになれたのは、ダイキンの「積極的な失敗を咎めない風土」のおかげです。

ダイキン情報技術大学で培った知識を手がかりにクラウドの知識を習得し、試行錯誤しながらシステムを構築しました。入社3〜4年目の若手にも責任のある仕事を任せていただき、非常に学びのある時間を過ごせたと感じています。

今回携わった技術開発テーマでは、幸運にも社内外の物件についてPoC(概念検証:Proof of Conceptの略)を実施して製品化できたことで、シーズから社会実装までの開発プロセスを一気通貫で経験できました。良い技術を開発できても、それを社会実装しなければ意味がありません。良い技術を事業に繋げるために、研究フェーズから事業イメージを思い描くことが大事だと学びました。この経験を活かし、今後も良い技術を継続的に社会実装していきたいと思います。

今後の展望について

ーー多様な空調機器を更に省エネ化~カーボンニュートラルの実現

 

由良:今回開発した技術は、業務用マルチエアコン向けにエアネットサービスシステム(※1)として2024年秋に、DK-CONNECT(※2)として2025年春に正式にリリースしています。

このようなAIやIoT技術を活用した省エネ技術を、ルームエアコンのような小規模のものから、ターボ冷凍機のような大規模な領域まで適用していきたいと考えております。このような展開を通じて、グローバル全体で空調機の省エネ化を行い、カーボンニュートラル実現に貢献していきたいと考えています。

※記載内容とプロフィールは取材当時のものです。

※1. 業務用エアコン遠隔監視サービス「エアネットサービスシステム」

※2. DK-CONNECTにおける遠隔自動省エネ制御

Yoshinori Yura

テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師

2009年4月入社。大阪府出身。
IoTやAI技術を活用したエネマネ・デマンド技術開発をご担当。
地球規模で空調機の省エネを実現し、社会に貢献していきたい。
Kotaro Yoshida

テクノロジー・イノベーションセンター

2018年4月入社。大阪府出身。データ活用による空調機の省エネ技術開発をご担当。
空調専業メーカーだからこそ実現し得る省エネ技術開発に挑戦し、カーボンニュートラルに貢献したい。
関連記事
関連採用情報
ページの先頭へ