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ダイキンの半導体開発、最前線~ダイキン東京ラボの開設と挑戦~
FEATURE
2025.02.28
ダイキン工業(以下ダイキン)では、テクノロジー・イノベーションセンター(以下TIC)東京ラボでダイキン独自の半導体開発に取り組んでいます。今回は、東京ラボ開設の企画推進を担当した岩田彩氏と、半導体開発に携わる堀之内悠哉氏、松井爽斗氏に東京ラボ開設に至った背景や狙い、また実際に東京ラボで働く技術者視点からの開発の進め方やそこで働くモチベーション、ダイキンの魅力について伺いました。

また、インバータ用カスタムマイコンの開発、半導体評価方法の導入、協創の取り組みなど、具体的な技術要素に加え、半導体開発エンジニアとしての成長要因についても語っていただきました。

東京ラボ設立の背景と体制

――東京への進出でコア技術開発のスピードを加速

岩田:ダイキンは関西企業とのイメージが強く、関東、とくに東京に集中する当社関連の顧客や大学、企業との距離感で「開発テーマが前に進みにくい」という問題があったのです。

そこで思い切って東京支社(東京都中央区八重洲)にTIC東京分室を設置し、技術リサーチ活動・ベンチャー協業を行うとともに、実験ができる技術開発拠点として東京ラボを設置しました。これにより、大学との共同研究やベンチャー企業との連携、新卒・中途採用でも大きなメリットを得ています。

 

 

――東京ラボの役割と大阪拠点との連携

岩田:東京ラボでは関東で取り組んだほうが効率的なテーマに注力しており、大阪拠点と役割を分担した2拠点体制で進めています。それぞれの強みを生かしながら、研究開発のスピードアップと最適化を図っています。現在、東京ラボは16名体制で「モータ&インバータ技術リサーチ」と「マイコン半導体開発」の2つのテーマを進めています。モータ&インバータリサーチの人員を増やしたい思いはあるものの、大阪の開発部隊とのバランスを踏まえ、現状の体制としている状況です。今後、圧縮機の実験装置も設置し、圧縮機の技術者も駐在する予定です。

――共同研究用から一般展示エリアまで多用途に対応

岩田:東京ラボには複数の用途に応じたスペースを用意しています。たとえば、「コワーキングラボ」はダイキン社員が実験するだけではなく、共同研究を行っている大学の先生や学生も一緒に実験できるスペースです。一方、マイコン開発など機密性の高い作業を行う「プロジェクトルーム」では、開発関連の企業にも出入りしてもらい、各種試験を実施しています。

また、ダイキンを紹介するエリアとして「オープンルーム」と「ディスカッションルーム」を設けています。「オープンルーム」は誰でも自由に出入りでき、レンタルラボを訪問した方々へ幅広くダイキンを紹介する場、「ディスカッションルーム」では空調機の要素部品の実物を使った議論の場を提供しながら、新しい協創テーマ立案の促進を図っています。
東京ラボの多用途に対応できるエリア設計

ダイキンの半導体開発への取り組み

ーー空調機を差別化するカスタム半導体

松井:ダイキンが半導体開発を進める最大の強みは、空調機全体を俯瞰しながら進められることです。高効率の空調機を実現するためには、「独自の制御方式をいかに半導体上で具現化するか」が重要になります。とくにモータ制御においてはダイキンならではのノウハウがあり、それを半導体として実装することが他社との差別化の鍵になると考えています。

TIC東京ラボではインバータ他主要部品の半導体開発に取り組む
―半導体メーカーと協創が不可欠

松井:当社にとって、半導体の本格的な開発は2020年からの新たな試みでした。当初は「半導体開発とは具体的にどのようなものか」を理解する段階からスタートし、半導体メーカーさんと協力しながら、新しい半導体を作るプロセスを学びました。その中で、「まずは半導体そのものをより深く知る必要がある」と気づき、情報収集を重ねてきました。現在では、当社のエンジニアも半導体設計やデジタル回路の技術を身につけつつあり、「メーカーとともに新しい半導体を共同で作り上げる」という意識に変化してい
ます。
――東京進出の理由は「必要な半導体を自分たちで作りたい」という想い

松井:2020年にカスタム半導体の開発を始めたきっかけは、コロナ禍で汎用品の調達が困難になったことでした。調達難が開発着手の直接の理由でしたが、今では「必要な半導体は自分たちで開発したい」という強い思いが、空調機のさらなる差別化と技術力の確立を後押ししています。実は2020年以前、カスタムマイコンの開発経験はほとんどありませんでした。しかし、パワー半導体ではいくつかカスタム品を手掛けてきた実績があります。近年は空調機に搭載するソフトウェアが増え、従来のマイコンでは制御が難しくなってきたため、カスタムマイコンの開発にも本格的に乗り出しました。

開発現場で求められるデジタル技術・他社との協業

――ダイキン情報技術大学の経験が生きるデジタル回路設計

松井:私は入社してから2年間はダイキン情報技術大学(以下DICT)に所属し、AI・IoTをはじめとするプログラミングスキルを幅広く学びました。ここでのスキルは、半導体開発でのハードウェア用プログラミング言語を使ったデジタル回路設計にも役立っています。

DICTでデジタル人材として育成されたことで、会社から求められる役割や自分が果たすべきことを常に意識しています。実際の半導体設計業務でも、「デジタル技術をどう活用できるか」を常に考え続ける姿勢が欠かせません。

 

 

――半導体メーカーに主体的な技術提案

松井:カスタム半導体開発は、メーカーにただ任せるのではなく、互いに協力し合って技術を作り上げる意識が大切です。たとえば、半導体のなかでもインバータを制御する機能ブロックの設計プロセスでは、モータ制御に必要な機能を考えながらメーカーと仕様を詰めています。しかし、ダイキン独自のエアコン制御には機密情報が含まれるため、すべてをオープンにできない場面もあります。そうした制約下であっても、必要な機能を正確に伝え、設計仕様に反映させることが重要です。主体的な提案や明確な情報共有がスムーズな協業を支えています。
――東京ラボで広がる半導体関連企業との交流

松井:拠点を東京ラボに移したことで、半導体関連企業との交流が格段に増えました。半導体メーカーだけでなく、半導体設計に必要なツールや設計資産を提供している企業とも連携が強化できたのは大きな成果です。関東には多くの半導体関連企業が集まっており、東京という立地のメリットを実感しています。また、社外への情報発信の機会も増え、「ダイキンの半導体開発」や「学生との交流」の取り組みをアピールしやすくなりました。東京ラボを活用することで、業界内外とのつながりがさらに広がり、研究開発や人材確保の面でも多くのメリットを得られています。

東京ラボでの技術開発の取り組み

――東京ラボで実現した、念願の半導体

堀之内:私は東京ラボへ赴任する前、大阪のTICにて空調機のEMC(機器内外のノイズ)評価を担当し、4年間にわたって評価設備の運営管理や試験業務に携わっていました。現在は東京ラボで、念願だった半導体の評価と評価環境の構築を担当しています。ダイキンが半導体開発を始めると決まったときから、「社内で半導体のEMC規格を作りたい」という強い思いがあり、東京ラボへの赴任によってそれが実現しました。

――ゼロから環境を築く「楽しさ」と「やりがい」


堀之内:大阪のTICでは既存の評価フローに沿って空調機評価を行っていましたが、東京ラボでは半導体評価の方法や設備をゼロから構築しています。たとえば、オシロスコープの設定方法や自動測定用アプリケーションの作成など、評価手法そのものを自分たちで考え、工夫しています。


入社当初に配属された部署では、EMCの評価環境がすでに整っていたので、改良はあっても大まかな手順や装置が備わった状態でした。しかし東京ラボでは、何もないところから自分たちの使いやすいように設備を導入し、アプリケーションを開発できるため、大きなやりがいを感じています。半導体評価技術の立ち上げは大変でしたが、ゼロから取り組む分、完成したときの達成感は格別でした。 

 

――評価技術の確立と将来を見据えた問題対応

堀之内:評価技術を確立する際は、常に作業者の作業性と安全性を意識しています。具体的には、作業がスムーズに進められる環境を整えるとともに、事故を防ぐための細心の注意が欠かせません。さらに、現在評価している半導体は数年後に製品へ搭載され、市場に出回ります。万が一トラブルが発生した場合、私たちが解析や原因究明を行うため、5年後、10年後を見据えてその時点での解析方法や対策、調査手段を事前に検討し、必要な情報を収集・記録しておくことが重要です。
――カスタム半導体がもたらす差別化と模倣防止

堀之内:汎用品では実現できない機能を組込んだカスタム半導体を開発すれば、他社との明確な差別化が可能になります。空調機へのカスタム半導体導入はまだ一般的ではありませんが、自動車や産業機械では既に活用が進んでいます。半導体を自社開発することで内部構造や動作を深く理解し、半導体メーカーと対等に議論できるようになれればと思っています。

 

東京ラボの未来と技術開発の展望

――エリア拡張でインバータ・モータ・圧縮機の一括開発を推進

岩田:今後は東京ラボの開発エリアを拡張し、圧縮機の評価設備を新設して技術開発を加速させます。空調機の主要部品であるインバータ・モータ・圧縮機を社内で同時に開発できるのは、ダイキンの強みです。社内開発によりエネルギー変換全体の効率を最適化し、高い製品力を実現していきます。さらに、関東の3拠点(ダイキン東大ラボ・東京支社・東京ラボ)もテーマ共有会や進捗会議を通じて連携を強化していきます。

――カーボンニュートラルとウェルビーイングへの貢献

松井:カスタム半導体開発は、インバータの性能向上による省エネや機器の小型化、材料費の削減など、カーボンニュートラルにつながる取り組みです。

岩田:世界ではまだインバータを搭載していない空調機が多く稼働しており、2050年までに電力需要が3倍に増えるという予想もあります。その中で、高効率なインバータ搭載空調機の普及が強く求められています。

堀之内:東京には多数の大学や企業が集まり、情報交換や協業の機会が豊富です。そうしたネットワークを活かし、より優れた素材の採用やさらなる小型化をめざして、エネルギー効率の向上に取り組んでいきたいと考えています。

ダイキンが求めるエンジニア像

――挑戦を恐れないエンジニアを歓迎

松井:私自身が、新しい技術や未経験の領域に強い興味を持ち、挑戦することを好むタイプです。そういったチャレンジ精神を持っている方なら、半導体開発に限らずダイキンの精神に合っていると思います。

堀之内:私も以前は半導体評価と縁がない分野にいましたが、電気系の知識をベースに評価へ挑戦しています。自分の専門外のことでもやり切る力のある方に、ぜひ入社していただきたいですね。どんなテーマでも挑戦してみる意欲が重要だと感じています。

――挑戦的な開発プロジェクトを成功に導く仲間を求めています

松井:ダイキンでは半導体開発だけでなく、さまざまなチャレンジングなテーマにも取り組んでいます。経験の有無に関わらず、新しいことに挑戦したい方は、ぜひ飛び込んできてください。

岩田:空調機は自動車のように目で見て動きが分かるわけではありませんが、その内部ではモータが毎分8,000回転するなど非常に高度な技術が活かされています。しかも、空調機は世界中、幅広い産業分野で使用されていることから、空調機ならではの技術課題もあります。だからこそ、エンジニアとして力を伸ばしたい方には最適な環境です。一緒にカーボンニュートラルやウェルビーイングの実現を目指しましょう。

堀之内:空調専業メーカーとして、空調分野に特化した半導体開発を行えるのはダイキンの強みです。また、挑戦的なプロジェクトもメンバー全員でやり切る風土があります。新しい機能や技術を生み出す未来の半導体開発に、ぜひ多くの方の力を貸していただきたいです。

 

 

 

※記載内容とプロフィールは取材当時のものです。

 

Aya Iwata 

テクノロジー・イノベーションセンター

2017年4月入社。岐阜県出身。
関東におけるR&D戦略企画と運営を担当。
技術視点だけでなく、戦略的・包括的な切り口含めて、グローバルに勝ち続ける企業のR&Dの在り方を追求し実現したい。
Yuya Horinouchi 

テクノロジー・イノベーションセンター 

2019年4月入社。鹿児島県出身。
カスタム半導体の評価技術開発を担当。
ダイキン独自の半導体評価技術を確立し、これからの空調事業に貢献していきたい。
Akito Matsui

テクノロジー・イノベーションセンター 

2022年4月入社。福井県出身。
カスタム半導体開発、デジタル回路設計・評価技術を担当。

ソフト/ハードにこだわらない横断的な設計技術を磨き、世の中のニーズに応えていきたい。

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