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【後編】空調メーカーであるダイキンが独自の半導体を開発する理由
FEATURE
2024.05.16
ダイキン工業は、モータやポンプ、フィルタなど、エアコンの要素技術を独自開発してきた。そして同社は、インバータ回路で使用する半導体までも自社開発に踏み切った。前編の記事では、その頭脳にあたるカスタムマイコン開発に当たるTICのメンバーを中心にお話を伺った。今回はインバータ性能を劇的に向上させるパワー半導体モジュールの開発に挑む永久雄一氏、酒井伸次氏、吉本昭雄氏の3人に、現時点での開発の進捗状況から、開発の苦労話や醍醐味、今後の展開などについて尋ねた。

パワー半導体の新規プロジェクトが始動

――カスタムマイコン開発メンバーの部隊インタビューに続き、今回はパワー半導体モジュールの開発メンバーということで、まずは皆様のご経歴から教えて下さい。

吉本:私は1993年にダイキン工業に新卒で入社し、半導体製造装置向けの空調機やウェハ搬送ロボットなどの組み込みソフトの開発を10年ぐらい経験した後にインバータまわりの放熱や実装技術を担当しました。TICに異動してからは、フロンなどの冷媒を使わない「磁気冷凍」という新しい冷凍技術の開発に携わっていましたが、過去にパワーモジュールの内作化検討を行った経験があったことから、今回のパワー半導体のプロジェクトに参加させてもらうことになりました


酒井:私はダイキンに2023年7月に中途入社しました。前職は総合電機メーカーで15年ほどパワー半導体モジュールの設計に携わっていましたが、この先のパワーモジュールの技術や価値創出を検討するにあたり、顧客の実情や技術やその動向を新たにインプットすることが必要だと考えていました。ダイキン工業というまさにこれまでの顧客に当たる会社の中で空調機のインバータの一部として新しい機能や技術を取り込んだパワーモジュールや電装品の設計に携われるという期待感から、思い切って転職しました。


永久:私も転職組で2023年4月入社です。大学時代から半導体デバイスの研究に携わり、前職でも総合電機メーカーで、次世代パワー半導体と期待されるSiC(シリコンカーバイド)半導体デバイスの開発を担当していました。パワー半導体メーカーのデバイス開発の方向性は、市場全体のニーズの真ん中あたりを目指して、市場が拡大していくとその中心から外れないものを大量生産するフェーズになっていきます。私はSiCデバイスなどの先端パワー半導体の性能を引き出すことにより、半導体素子単体というよりも最終製品における価値を高めたい思いがありました。ちょうどダイキンでパワー半導体の開発を始めるということを聞いて転職を決めました。

――そもそも、なぜダイキンで半導体デバイスを開発しようとしているのでしょうか?

酒井:ダイキンは、エアコンの要素技術の一つであるインバータ回路の重要部品であるマイコンとパワー半導体の技術開発を進めています。マイコンは頭脳としてモータやポンプの制御信号を生成し、パワー半導体はこの制御信号に従ってモータやポンプを動かす役割を担います。昨今のパワー半導体の市販品は、市場を牽引するEVなどの大きなニーズに引っ張られており、エアコンに最適とは言えません。そこで自分たちで開発しようということになりました。

自社のエアコン駆動に特化したパワー半導体モジュールを開発中

――パワー半導体の開発にあたり、どのような点が重要になるのでしょうか?

吉本:今回の開発では、インバータのキャリア周波数を高周波化するという狙いがあります。キャリア周波数(制御を行う周波数)を高くすると、コンデンサやリアクタなどの大物部品を小さくでき、更にモータにキレイな波形の電流(疑似正弦波)が流れ、効率が良くなって消費電力が抑えられます。しかし、キャリア周波数を高くするとスイッチング回数が増えてこれによる損失(スイッチング損失)が増えてしまいます。スイッチング損失はスイッチング速度が速いほど小さくなりますが、従来のSiパワー半導体ではスイッチングの速度に限界があるため、更に高速にできるSiCパワー半導体を使ったモジュールを開発しようとしているわけです。

これまでは自社設計した回路とその基板に市販のパワー半導体モジュールを載せていました。スイッチングを高速化すると、サージやノイズが発生して電気的に暴れるため、モジュールが耐圧を超えて壊れてしまう恐れがあります。そこで回路設計から見直し、基板とモジュールの両方に配慮しながら、高周波に対応する全体設計する必要があるのです。






カスタムパワー半導体モジュールによるキャリア高周波化と基板とモジュールのトータル設計によりサージの低減が今回の開発の狙いである。
――現在のパワー半導体モジュールの開発状況についても教えてください。

酒井:仕様を決めてプロトタイプを作り、評価して大量生産に向けてブラッシュアップを重ねているところです。世の中で使われているパワー半導体モジュールの技術をダイキン内に定着させつつ、将来的に当社独自のコンデンサレス技術(プリント基板上の電解コンデンサ容量を小さくして電力を抑えたりコストダウンを図ったりする技術)や高周波抑制技術(正弦波に乗る高周波成分を抑える技術)などにマッチした製品を作り込んでいく方向です。インバータの損失を抑えるためにSiCチップを導入したり、サイズが小さいSiCチップを効率よく冷却するための技術も取り入れようとしています。
――これまで開発を進めてきて、ご苦労やハードルはありましたか?

永久:ダイキン内にパワー半導体モジュールを作る環境自体がなかったので、そこからスタートしなければならない点が大変でしたね。私も酒井も、すでに環境が整っている職場で半導体を開発してきたのですが、ダイキンではゼロベースで必要なものを取りそろえ、どのパートナーと組んで、どう開発を進めていけばよいのかというところから決めなければなりませんでした。いまは、必要な場合はパートナーに外注したり、半導体モジュールの製造や評価に必要な装置も買いそろえたりして、開発体制も整いつつあります。
――パワー半導体モジュールについて、今後の展望をお話しいただけますか。

吉本:世の中にないダイキン独自の機能をパワー半導体モジュールにどんどん取り込みたいと考えています。いまはプリント基板とモジュールを別々に設計しているのですが、いろいろな技術を吸収しながら、一体化した設計になっていくと思います。


永久:今の国内メーカーのパワー半導体モジュールは、そのほとんどがEVに視線が向いています。こういった視線をいかにこちらに向けるかという点も大切なポイントですね。

なんでも言い合える職場で、協創しながらアイデアのヒントをもらう

――キャリア組の方にお尋ねします。TICの職場環境はいかがでしょうか。入社されてから何か気づいた点はありますか?

酒井:私は電気電子関係にずっと携わってきましたが、ダイキンはエアコンを作るという点で方向性が決まっているので、異なる分野の開発者と議論するにしても、一つにまとまりやすいと感じています。良しあしはありますが、言いたいことを遠慮なく主張できる雰囲気なので、他の社員のいろいろな考え方を取り込み、新しいものを生み出せるプラスの環境があると思います。


永久:ダイキンは経営トップとの関係が近くて、何かするにも意思決定の判断が早いという印象があります。前職は事業部ごとに縦割りで他部署の情報が伝わらないことも多かったのですが、ダイキンでは必要な人を全員集めて議論して決めるという風土があるように思います
――プロパーの吉本さんにもTICの雰囲気についてコメントをいただけますか?

吉本:ずっとダイキンにいますので、他社とは比べられませんが、もともとTICは複数の研究所の所員と事業部の技術者が集まった組織として発足しました。私も別の研究所にいたのですが、TICになってから「協創」に重点が置かれ、しかも将来を見越してビジネスとして成立するものを研究・開発する理念に変わりました。まさに本プロジェクトも同様です。この理念に沿って利益を出せる開発を行えるように心がけています。

空調メーカーのダイキンで行う半導体開発の魅力とは

――――最後になりますが、技術者としてダイキンで半導体開発を行う魅力について教えて下さい。

吉本:ダイキンには半導体開発者がほとんどいないため、いま入社すれば大活躍できますよ(笑)。実際に社内で使ってもらえる立場でパワー半導体モジュールを設計できる機会は他社にはないことですし、これからインバータが劇的に変わるタイミングにきているため、ご自身の能力を思う存分に発揮したい方は、ぜひ我々に加わって下さい!

永久:そうですね。やはり何か尖ったことをやりたいと思っているなら、この職場はすごく面白いのではないでしょうか。汎用品の開発では、どうしても枝葉を切った丸いものになってしまいます。ここで一味違うものを作ってみたいと考えている方なら、技術者としての満足度も高いでしょう。大きな変化を迎える開発の時期に、自分の可能性を最大限に追求することは何物にも代え難い経験になり、自己成長にもつながると思います。
酒井:ダイキンのように空調機に特化した技術を集約させながら、最終製品として世に送り出している企業は他にはありません。自分が持つ技術やアイデアを発信することに一つの価値を置いている会社なので、尖ったこともできますし、そのメリットを引き立たせながら、他のところで全体的なバランスを考慮して最終製品を他部門と作っていくことができます。我々TICは事業部間をつなげるハブにもなっているため、いろいろな技術を融合させて、新しいことにチャレンジできる方々をお待ちしています。
※記載内容とプロフィールは取材当時のものです。
Yuichi Nagahisa 

テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師 

2023年4月入社。神奈川県出身。
パワーモジュール要素技術開発、先端パワー半導体探索 を担当。
ユーザー目線を取り入れ、新しいパワー半導体の性能を最大限生かす技術開発に挑戦したい。
Shinji Sakai 

テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師 

2023年7月入社。埼玉県出身。
パワーモジュールの設計、新規要素の取り込み を担当。
世の中の半導体、インバータをリードする技術に挑戦していく。新しい技術を取り込んで半導体を成長し続けさせる。
Akio Yoshimoto

テクノロジー・イノベーションセンター

1993年4月入社。兵庫県出身。
パワーモジュールのパッケージ技術、磁気ヒートポンプ技術を担当。
新しい技術やまだ実現されていない技術を形にして世の中に出したい。



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