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【前編】空調メーカーであるダイキンが独自の半導体を開発する理由
FEATURE
2024.03.29
ダイキン工業はこれまで、モータやポンプ、フィルタ、インバータ回路など、エアコン関連の要素技術を独自に開発してきた。そしてついに、エアコン制御の中枢部といえるインバータ回路に使う半導体までも自社で開発することに踏み切った。TIC インバータ技術グループで新たな半導体開発プロジェクトに携わる外山浩昭氏、中山智子氏、宮島孝幸氏、篠原規将氏にお話を伺った。

技術開発拠点において、新たに半導体部門を立ち上げる

――ダイキンにとって新分野のプロジェクトということですが、まず皆さんの経歴を教えて下さい。

篠原:私は2020年4月に入社し、空調のオプション機器の開発をしていました。前職は半導体開発メーカーにいたため、2023年1月にインバータ技術グループに異動し、カスタムマイコン開発のチームリーダーとして業務を進めているところです。


中山:私は2023年1月に入社したばかりですが、カスタムマイコン開発の全体マネジメントを担当しています。もとは電機メーカーで画像処理や空調向けの半導体などに関する設計・開発に30年以上携わってきました。


外山:私も2023年5月に入社しました。中山と同様に半導体メーカーで30年ほどマイコンを開発してきました。当時は最大公約数的な汎用マイコンが中心でしたが、ダイキンではカスタムマイコンとパワー半導体の両方をマネジメントしながら全体戦略を立案しています。


宮島:このメンバーのなかでは、私だけがダイキン生え抜きです(笑)。ダイキンに新卒で入社して2024年で10年目になります。もともとはファンモータの解析技術やインバータのソフトウェア開発に携わっていたのですが、2年前にこの半導体プロジェクトの立ち上げを担当しました。まったく異なる業界のため、いろいろと本音ベースで直談判して、人脈を築いてきました。おかげさまで、外山さんや中山さんたちに入社していただいたので、私は2023年5月にTICから東京支社に異動し、次世代インバータ技術をリサーチしているところです。また東京に新施設を作る活動も担当しています。

――皆さんがダイキンで半導体開発に取り組もうと考えた理由について教えて下さい。

外山:前職では関東の会社で役職定年の時期に来ており、その後の人生をどうすべきかと考えていたところ、ダイキンが半導体事業を始めるという話を聞き、最初は半導体開発をしたことがないダイキンが半導体事業を本当にできるだろうか? と半信半疑でしたが、TIC見学や、テーマに取り組んでいる人々からいろいろと話を伺ううちに本気度が伝わってきました。ならば自身の経験を生かし、もう一度チャレンジしてみようと決心して、東京から大阪にやってきました。


中山:私も外山と同じようなスタンスでダイキンに移ってきました。今後の会社人生を考え、半導体産業で自分のキャリアが生かせる設計開発を続けたいと考えていました。空調メーカーが半導体に挑戦するのは、かなり難易度が高いと感じていましたが、むしろ逆に他のメーカーよりも、まったく予測ができない異分野のダイキンで働くことに面白さと可能性がありそうだし、自分の知見を若い世代に伝承していけるのでは? とも思いました。


篠原:私の場合は、空調機器をやりたくてダイキンに転職したのですが、前職で半導体開発に携わっていた経歴を見たTICから声がかかり、気づいたら半導体を担当することになっていました(笑)。前職よりもフットワークが軽く、自由にやらせてもらえる点に魅力を感じています。

一層の省エネとコストダウンを目指してインバータ用の独自マイコンを開発

――そもそも、なぜダイキンで半導体を開発することになったのでしょうか? その経緯と目的について教えて下さい。

宮島:空調の省エネにおいてはインバータ技術が大きなポイントになります。ダイキンは電解コンデンサレスインバータなどの低コストのインバータを開発し、グローバルでのインバータ空調機の普及に貢献しています。電解コンデンサレスインバータは電源高調波規制対策をハードウェアではなく、ソフトウェアで代替してコストダウンする技術です。今後もソフトウェアでの機能を代替、もしくは追加を続けるためは、高性能なマイコンが必要です。マイコンには市販品もありますが、高価格であったり、ダイキンの空調機用モータの制御にマッチしなかったりしました。そこで、半導体メーカーさんと協業を続けながら、我々が欲しい半導体を自分たちで開発しようということになりました。

外山:まずは空調の省エネに大きく関わるインバータ回路の半導体を最優先で開発しようとしています。さらに省エネ化を進めるには、IoTやAIの技術も活用し、もう一段上の技術展開もあり得ると思います。現時点で、やるべきことがたくさんあるため、その知見を蓄えつつ、次を見据えて進めているところです。我々はマイコンだけでなく、パワー半導体もセットで開発していますが、例えるならばマイコンは空調機の頭脳であり、パワー半導体は筋肉のような存在です。両方の開発が相まって強靭な体になると考えています。
――半導体開発の組織体制について教えて下さい。

外山:現在、カスタム半導体関係では、マイコンの開発チームとパワーデバイスのチームが存在し、それらを私が全体統括しています。ただし、今の体制では開発業務すべてはカバーできないため、設計作業は外部にお任せしています。我々は、ダイキンの空調に求められる独自マイコンを作るための仕様を主に策定しています
―――具体的にどのようなカスタムマイコンを開発されているのでしょうか?

中山:お伝えできる範囲で申し上げると、2025年に向けてインバータの省エネ化とコストダウンを目標にしたカスタムマイコンの開発を行っているところです。具体的には、従来使用しているマイコンと比較してクロックを1.5倍に高速化したコアを使っています。またマイコンに、空調に必要なIPを追加しています。特にタイマーなどを一から設計し直し、モータ制御やPWM制御を高度化(演算性能を数倍に向上)することで、インバータの効率を向上させようとしています。
――ダイキン自身でカスタムマイコンを開発するメリットや強みとは?

宮島:これまでダイキン自身で自社の空調機の要素技術はすべて開発してきたという経緯があり、空調機の機能や動きを知り尽くした我々なら、最もインバータに適したマイコンの仕様を策定できるという点が大きな強みになっていると思います。
中山:通常の半導体メーカーとは異なり、空調に特化した機能を実現していくなかで、製品開発部隊と一緒に高機能化とコストダウンの方策を考えていける点が強みになっています。また我々自身も、こういった半導体の設計のノウハウを獲得することで、次のIPにつなげて、さまざまな空調機器へ展開ができる点もメリットになると考えています。

新しいこと、未知の領域にチャレンジするなら、ダイキンに集まれ!

――ダイキン社内の開発環境は他社とどのように違うのでしょうか?

篠原:以前の会社と比べると、自由に動けますね。特に個人の裁量が重視されています。そのため自分が提案したことが通りやすい気がします。例えば新規で評価用基板を起こすなど新しいことにチャレンジしやすい環境です。またプロジェクトを進める上で何かハードルがあっても、どうすれば問題を解決できるのか? という前向きな姿勢で物事を進めていける点も有難いですね。
中山:私はマイコン開発ということで入社しましたが、第一印象として活気がある職場だなと感じました。何もない状態からの立ち上げなので、いまは我々の裁量でかなり自由にやらせてもらっています。やりたい仕事が明確なら、すごく働きやすい環境ですね。またTICはトップとの距離も近く、その理解が得やすい点もよいところだと思います。
外山:TICは、未知の領域を開拓していくミッションがあるため、常にいろいろな課題に直面します。しかし、それらの解決策を多角的に検討し、なんとかして目標を達成しようという社員のエネルギーや風土がありますね。開発に対する投資の面でも、未来を見据えて利益をしっかり出すために必要な投資は積極的に行っていると思います。
宮島:転職されてきた皆さんがおっしゃるように、フットワークの軽さや部門間の壁の低さが強みになっています。よく他社さんから「ダイキンは自由な会社ですね」と言われます。ただし自身で考えるだけでなく、行動することが必要な会社です。決して相手任せで指示を待つのではなく、自ら取りに行って、協創していく姿勢が求められます。
中山:そうですね。確かに協創していけるような環境があります。例え業務委託の立場であっても、開示できる情報はしっかりと開示して、ひざ詰めで議論し合える点もダイキンの大きな強みになると思っています。組織も大切ですが、そこで働くヒトを中心に置いて信頼してもらえる点も素晴らしいですね。
――ダイキンの半導体開発に関して、今後の展望はいかがでしょうか?

外山:TICでは、省エネやコスト削減だけでなく、ソリューションの観点からも開発を進めています。TVCMで「空気で答えを出す会社」とうたっているように「快適な空間を生み出す、空気の品質を高める、そのためにどうすべきか?」を追求するため先行技術開発にも取り組んでいます。今後はセンサー制御用半導体デバイスの開発も必要かもしれません。コストやデリバリーなども含めて、最適なものを開発していけるようにしたいですね。

中山:確かにダイキンは、空調以外でもまだまだお話できないような多くのものを開発しています。今後、そういった価値を社員同士で共有して、新しい半導体の開発に挑戦していけるだろうと思っています。
――最後に、ダイキンで働く魅力について教えてください。

篠原:プロジェクトに途中から参加しても、すぐに仲間として受け入れてくれますし、メンバー同士で和気あいあいと自由に仕事できる、とても仕事しやすい環境です。ご自身で何か新しいものを作りたい方々は、ジョインしていただければ嬉しいですね。

中山:やはり実際に開発をしているメンバーと、技術を持ち寄りながら新しいものを提案できる点はダイキンならではですね。自分の技術の幅も広がりますし、製品に近いところで話を聞けることにも大きな意味があります。部署間の壁もなく、自ら手を上げた人に対して仕事がしやすい環境ですから、志のある方はぜひ一緒に仕事をしましょう。
外山:今回のように会社として初めてチャレンジするプロジェクトでも「とにかくやりきろう!」とメンバー全員が同じ方向で動いています。これから目標を完遂したときの達成感もひとしおだと思います。我々とダイキンの新たな歴史を拓いていきましょう!

宮島:これまでダイキンの技術開発というと、関西中心でしたが、いま関東でもインバータ・半導体関連の技術者を集めています。これからはリサーチだけでなく、設備も整えながら技術開発を進めていく予定です。それと同時に関東周辺の大学と連携しつつ、ヒトもモノも情報も集約している東京との距離を縮めて、テーマの進捗を一気に加速させていきたいと考えています。関東方面でやる気のある方をお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
※記載内容とプロフィールは取材当時のものです。
Hiroaki Toyama 

テクノロジー・イノベーションセンター 主席技師 

2023年5月入社。東京都出身。
カスタム半導体技術戦略 を担当。
ダイキンのインバータ技術と半導体技術を融合させたサステナブルな空調で、世界中の人々を笑顔にしたい。
Tomoko Nakayama 

テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師

2023年1月入社。熊本県出身。
カスタムマイコン開発を担当。
地球環境を守る「インバータ技術」を世界に届けるため、カスタム半導体に挑戦する。
Takayuki Miyajima

テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師

2014年4月入社。新潟県出身。
モータ・インバータ制御技術、インバータの技術リサーチ担当。
これまでの枠に嵌まらずに挑戦し、お客様、製品開発に役立つ成果創出にトコトン拘り続けていきます。
Noriyuki Shinohara

テクノロジー・イノベーションセンター

2020年4月入社。長野県出身。
デジタル回路設計を担当。
「面白いものを世の中に!」をコンセプトに新規技術を獲得しながら、空調機で活躍できる半導体を作りたい。
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