ダイキン工業が新しくスタートした「The Art Line(ジ・アートライン)」。誰もが持つ自分の好みや感性に合わせ、自由な発想で空間をデザインできることをコンセプトにしたブランドです。薄さを訴求したルームエアコン「risora(リソラ)」や「加湿ストリーマ空気清浄機(70タイプ)」の正面パネルに、伝統工芸品やアート作品、自然素材などのビジュアルや質感が表現されています。そこに込められたメッセージと開発のプロセスをデザイナーの森本和喜が語りました。
空調のデザインによって空間を心地よくする
家は、日々の暮らしを営むだけでなく、仕事場や遊び場、おもてなしの場にも変化します。そんな空間を、空気の質だけではなく、ビジュアルからも彩りを添えるエアコンをつくりたいという思いから、「The Art Line」は生まれました。
例えば、こだわり抜かれたアートのように、そこにあるだけで気持ちが前を向くというものがあると思います。ダイキンのエアコンも、そのような空間を彩るアートのような存在に進化したいと考えました。
色・デザイン・質感の異なる3つのライン
「The Art Line」には、カラーやテクスチャーの違い、デザインのバリエーションの異なる3つのラインがあります。
●BLEND Line
厳選されたカラーとテクスチャーを自由に組み合わせることが可能なライン
●NATURE Line
自然由来の素材感を微細な凹凸まで表現し、インテリアに取り込めるライン
●ART Line
暮らしの中にアートを取り込み、自分だけの至極の一品を見つけられるライン
特に「risora」は、Custom Styleという約600色ものカラーバリエーションを塗装色として選べるオプションを提供しています。今回はさらに、色合いだけでなく凹凸も作れる特殊な印刷技術を用いることで、より多様な質感表現ができるようになりました。これまでの「色」に加えて「質感」を掛け合わせることで、私たちがめざす「空間との調和」というコンセプトをより強められると考えました。
アーティストとコラボした「ART Line」
3つのラインの中でも「ART Line」では、クリエイティブカンパニーのヘラルボニー様とコラボレーションをしています。同社が掲げる「障害のイメージ変容を目指す」というビジョンと、「The Art Line」に込めた、家電のイメージを変え、アートを選ぶようにエアコンを選ぶという新たな考え方を創っていきたいという想いが合致したためです。ヘラルボニーがライセンス契約を結んでいるアーティストの方々の作品を採用し、オリジナリティの高いデザインが完成しました。
人の感性を大事に、素材の質感までも表現
今回、特に難しかったのは、素材が本来持つ表情をいかに精度高く再現するかという部分です。いくら高精度な印刷技術をもってしても、単にスキャンして出力しただけでは「そのものらしさ」が伝わらないのです。そのため通常のものづくりであれば傷や汚れと認識されるようなノイズもあえて残しつつ、製品として美しく見えるバランス調整に時間をかけました。
特に「BLEND Line」は、同じ色でも5種類の質感から選べるようになっていますが、質感が変わると色の見え方も変わってしまいます。デジタル上では同じ色なのに実際の見え方は違うということが何度も発生しました。最終的にはデザイナーの感覚を大事にして、人の目でより自然な風合いに見えるよう、何度も調整を重ねました。
日々の暮らしになじむデザインを
私にとって、「人の暮らしになじむものづくり」は、プロダクトデザインの大きなテーマの一つです。私たちが扱う空調機器は、日々の生活になくてはならない、文字通り空気のような存在。だからこそ、「自由な発想で、感性のままに空間を創る」というキーメッセージに掲げた「The Art Line」は、これまでの業界の常識とは大きく異なる新しい取り組みになり得ます。
ものと暮らしの関係性を見つめ直し、デザインに落とし込むことで、顧客体験価値を高める仕事を続けていきたいと思っています。