大阪・関西万博で出店されるレストラン「水空SUIKU」。ただのレストランではありません。現実ではあり得ない空間を演出する「未来のレストラン」です。一体どのようなレストランが創られたのでしょうか?「水空SUIKU」の舞台裏をレストランの空調を担当した関康一郎が明かします。
高原での食事体験が味わえるレストラン
2025年大阪・関西万博で、サントリーホールディングス株式会社(以下、サントリー)が出店するレストラン「水空SUIKU」。「水と空気の水上スペクタクルショー」でご縁のあったサントリー様と議論を重ねた結果、このレストランでもコラボレーションをすることに決まりました。
標高ゼロメートルの場所で、高原のような澄んだ空気を味わいながら食事を楽しんでいただけると面白いのではないか。そんな発想から生まれたレストランのコンセプトが「高原のレストラン」です。海辺にいながら爽やかな高原で食事をしているような体験ができる。そんな逆説的な組み合わせがベストと考え、満場一致で企画を進めてきました。
澄んだ空気を演出する独自技術
しかしながら、「高原のような澄んだ空気」と言っても、空気は目に見えるわけではありません。高原の空気を体感できるかどうかも説明なしでは難しい。そこでまずは技術的なアプローチから考えてみました。高原のような澄んだ空気を実現するために辿り着いたのが、新規開発した「エアフォール空調」です。
「エアフォール空調」は、レストランホールの天井からフロアに向かって低速で落下させた空気が、ウィルスや花粉などの粒子状物質や、VOCなどのガス成分とともに中央の天井に吸い込まれていく新しい換気空調です。2つの高性能フィルター(低圧損中性能フィルター、ガス吸着フィルター)が空気をきれいにしてくれるため、隣席のニオイを感じさせず、エアコン特有の横風も感じさせない工夫をしています。
また、澄んだ空気の可視化についても、店舗の入口にIAQセンサーにより計測した温度や湿度、CO2濃度といった情報をリアルタイムに反映する「IAQモニター」を設置することで実現させました。店舗内が快適な空間であることをお客様がいつでも確認することができます。
さらに、通常の換気システムでは、空気と一緒に大量の冷熱が屋外に排出されてしまい、大きなエネルギーロスになるという課題があります。そこで「水空」では、空調を屋外に排出する空気から冷熱(冷たさ、暖かさ)だけを回収して、屋内の空調に再利用する排熱回収換気を実現させました。
「空気で旅するダイニング」の秘密
もう一つ、今回のポイントとなったのが「空気で旅するダイニング」というコンセプトの個室です。世界各国の最高の空気環境の中で食事が味わえたら、今までにない食体験が提供できるのではないか。例えば、温度が少し高いけど湿度が低く風のある草原。あるいは温度は低いけれど、湿度が高く、風のない竹林など。温度・湿度・風の組み合わせを変えることで、快適な空気スポットを維持しながら、空気の体験を変えていく仕組みです。
それだけではなく、映像や音などの情報も同時に加えることで、体感を向上させることを実験の中で見出してきました。映像と音の組み合わせのイマーシブ体験は他にもありますが、空気が主役となっているイマーシブ空間は他にはありません。個室の壁いっぱいに高原や草原を映し、その景色に調和した空気環境と環境音を合わせることで、まるで自然の中で食事をしているような体験ができます。
空気で食体験をエンターテインメント化
ダイキンデザインは「愛される空気」を目標にしており、365日24時間ふれている空気を介して人々に価値のある体験を提供することが私たちのミッションです。「空気を旅するレストラン」はその具体的な事例になるでしょう。
今回の「水空」での試みで、食体験に空気のイマーシブ体験が足し算されたら、さまざまな飲食店で喜ばれると考えるようになりました。例えば、日本国内でインドの「空気」を体験しながらカレーを食べられるお店など食の体験が空気で高められれば、レストランの付加価値も高められますし、お客様の満足度も高まります。つまり、食体験のエンターテイメント化が新たにもたらされるのです。この食体験のエンターテイメント化は、非日常を提供するホテルなど様々なシーンへも展開できると考えています。
空気の中の花粉や有害物質の除去などマイナスをゼロにする取り組みが大切な一方で、人々が感動するようなゼロをプラスにする「空気」の体験の創造も、私たちダイキンデザインのクリエイティブが活かされる分野と考えています。