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空気を可視化する

コロナ禍で空気に益々関心が深まっている中、見えない空気の状態をどのように伝えるのか。空気のスペシャリストとして、「空気の状態の可視化」に挑んだ2名のデザイナーが語ります。

今回のプロジェクトの概要を教えてください。

安達:
今回はやオフィスを人々が安心して利用できるように、ダイキンの技術を使って「空気の今の状態」を可視化してほしいというニーズがありデザインしました。
カフェならば、客席フロアでお客様が空気の状態を知るという面もあれば、バックヤードで店のスタッフが空気の状態を知るという面もあり、いろいろなシチュエーションを想定して表現を考えました。

吉川:
数値でダイレクトに表現したり、感覚的に伝えたりと表現のパターンをいくつか設定し、ユーザーがニーズに合わせて選べるようにしているのが特徴です。空気の心地よさや、換気状態をどういう動きで表現するのか?空気のいい状態・悪い状態、どのような状態であってもフラットな気持ちで空気を受け入れられるよう、オーバーにならず適切な表現になっているか?そういったことを大切に、空気の指標らしい表現を模索しました。

安達:
コンセプトとしては、「Circle」、「Liquid」、「Flag」の3つのモードをベースに据えました。
「Liquid」は、風を受けて動くような物体が中央にあって、背景に粒子のようなものが飛んでいます。この粒子は、空気中の粒子や分子などを表現しているのですが、風を受けてフワフワとそよぐ感じから、空気の心地よさを視覚的に感じてもらいたいです。また、カラーリングは清潔感を意識しました。Liquidというと「液体」ですが、ネーミングのもととなっているのが、Liquidグラデーションの考え方です。パキッと変化するのではなく、水彩絵具のように色がやんわりと混ざって広がっていくような、そんな柔らかな色の移り変わりをイメージしています。

Liquid

3つのモードとも、共通のカラーを使っています。空気がきれいな状態は爽やかな青や緑、そこから黄色、オレンジ、赤紫へと色が濃く変わっていって、換気を促すような場合は赤紫で知らせる…、そういった色の展開にしています。

吉川:
色を決める際は、空気質指数(Air Quality Index =AQI))という空気の指標を参考にしました。AQIは「大気汚染の程度」を表すものなので、そのままである必要はないことと、そのままの色構成では2色覚、1色覚の人には色の違いが分かりにくいことから、ダイキン独自の5段階の色構成を採用しました。ダイキンのコーポレートカラーでもあり、空気清浄機でも「一番良い状態」を表す色として使っている青を、最もCO2濃度が低い状態の色として決めました。

安達:
「Flag」は、もう少し抽象的に、空気が動いて起こる風を表現したらどうなるだろうか?というのが発想のスタートになっています。風を受けて揺らめく布=旗をイメージして、布がちょっと浮いている状態をメインのビジュアルにしています。風のそのものは見えないのですが、布の動き方や動く速さ、そして色で、空気の対流を表しています。布がさわさわと気持ちよく動いているなとか、どよんとして動きが鈍くなっているなとか、視覚的に空気を感じてもらえればと思っています。

Flag

吉川:
「Circle」は、3つのモードの中でも端的に伝えているもので、具体的に数字でパシッと空気の状態を知らせるデザインになっています。「Liquid」と「Flag」は、文字情報のオンオフができ、全部オフにしたら、イメージや雰囲気だけが伝わってくる仕組みになっています。
一方「Circle」は文字情報のオフ機能はつけていません。数値情報とグラフィックで、シンプルに空気の情報を伝えるという位置づけになっています。

Circle

安達:
店舗などのバックヤードやオフィスの空調管理などに、このモードがおすすめですね。

吉川:
「あ、そろそろ店舗やオフィスの空気の入れ替えをしよう」とか、注意喚起にもつながるようにデザインしています。ビジュアルコンセプトは「空気の呼吸」で、この真ん中の円=Circle自体が、空気の呼吸を表しています。円の周囲を丸く囲んでいるうっすらとした色の帯がふわあっと広がって、またシューっと小さくなる、という動きを繰り返して、呼吸のリズムを表現しています。換気された空気のときは、ゆったりと深呼吸するような動き、空気がよどんでくると、ハアハアと呼吸が早くなる動きにしています。

これらの映像を見て、どんな効果が期待できるのでしょうか?

安達:
「空気がよどんできたな」「人の密度が上がってきたな」という指標になるので、そのタイミングで窓を開けたり、エアコンの換気機能をオンにしたり、アクションにつなげていけると思います。今は可視化をすることがプロジェクトの第一段階の目標ですが、将来的にはエアコンの機種とリンクさせるシステムやアプリを開発して、スクリーンやパソコン、スマホに空気の状態をいち早く、わかりやすく、知らせるサービスなども展開したいですね。

吉川:
見せるだけで終わるのでなく、新たなビジネスにもつなげていきたいですね。
「Circle」、「Liquid」、「Flag」のそれぞれのメインのビジュアルも、可愛いとか面白いとか、身近なキャラクターのように感じてもらえるデザインを意識しています。

お二人それぞれ、デザインのプロセスの中で特にどんなことに注目して、力を注がれましたか?また苦労した点はどんなところでしょう?

安達:
まず、こだわったのは色、ですね。先ほどもお話ししたように、液体のように柔らかでスムーズなグラデーションを重視して、色の変化を見せるときに、ただグラデーションをかけるだけではなく、色と色の馴染みのよさを大切にしました。空気の状態は区切れるものではなくて、たとえば青から緑へ移行するときに、黄色をグラデーションとして混ぜていく。次に黄色見えたときには、その次に赤っぽいオレンジが見えてくる…。そんなシームレスな、色と色の間の変化を表現したいと考えました。
苦労した点としては、リアルな動きを意識しながら各段階の差異を表現していくことでした。たとえば「Flag」ではトンビが空に漂うような心地よい空気の流れから徐々にどんよりとだるい乱気流の動きになります。これは単なる強弱では表現できなくて、速度や強度、乱気流や空気の抵抗…etcの各パラメーターを0.1単位で調整して、らしい動きを研究していきました。いろいろなアイデアを出し合って、その中から方向性をある程度、絞って、私がサンプルのモーションをつくる、というやり方で進めていきました。そのサンプルモーションに対して、吉川さんからいろいろなコメントをもらって、軌道修正やブラッシュアップを行って、またディスカッションして…という積み重ねでした。

吉川:
何度もディスカッションはしましたね。あまり意見が異なることはなかったのですが、風にそよいでいる方が気持ちよさそうとか、この動きはちょっと汚い川みたいに見えるかも?など、何が違和感かをお互い言語化しながら、結構言いたいことを言いました。

安達:
二人で話し合っているうちに着地点がうまく見えてくることが何度もありました。一人だけで考えるより、視線を少し変えることで、目の前の道がどんどん広がっていった実感がありますね。

吉川:
表現のところで安達さんが凄いなと感じたのは、テクスチャーの表現に徹底的にこだわっていたことです。例えば「Flag」では、いわゆるデジタルの機械的な情報に見えないように、柔らかくふわふわと、本物の布のように素材感を表現する粘りが凄かったです。
「Circle」では、わかりやすさと感覚的なところのバランスを非常に気づかいました。「気持ちがいい」感覚を、背景の色合いの微妙な濃淡や動きで、どこまで伝えることができるか?を、納得がいくところまでやりました。
いつもの仕事であれば、使いやすいボタンの位置や美しい形など、立体をイメージして考えるのですが、平面の世界のモーションの表現についてほとんど知らなかったので、安達さんの知見に随分助けてもらいました。

今、振り返ってみてこのプロジェクトを担当してよかった点は?

安達:
初めて3Dモデルのシミュレーションを取り入れたことです。普段のUIの仕事では平面を重ねて厚みを表現していたのが、3次元になると奥行きや遠近感も表現の要素となりました。動きに関しても頭でイメージしたものをそのまま形にするのではなくて、シミュレーションしたから分かる「らしさ」のポイントもありました。スキルを習得するのは大変でしたが、おかげで納得いくところまでできたと思います。自分の中でも知らなかった世界を知ることができたのは大きかったですね。

吉川:
いつも見ている設計図やデザイン画と大きく違って、モーション=「動く」という課題があったので、難易度が高かったです。ただ、平面を相手に苦戦しながらも、プロダクトを考えるときに重要なCMF(カラー、マテリアル、フィニッシュ)の知見を活かして「動く空気の可視化」に挑戦しました。

今回は可視化に挑戦されましたが、二人にとって「空気」とはどんな存在なのでしょうか?

安達:
空気は見えないものですが、確実に私たちの周りに存在し、多くの生き物が空気を利用して生きています。とくに人間は空調や移動など、空気を通して生活を豊かにしてきました。人や生き物が安心して過ごせるような空気はもちろん、生活を豊かにするような空気の価値も必要です。
今回、空気の可視化の仕事を通じて、改めて目で見て感じて共有する、そういう理念を製品の開発につなげて、社会に役立てていきたいと思いました。

吉川:
空気は、あたり前に存在するものですが、ある時は背景に徹し、ある時はその温度やにおいで心を動かしたりします。だから、空気を届ける機械も、それに伴うサービスも、ゆったりと心地よいものにしたいと考えていて、それがダイキンらしい空気をつくることになると思います。今回、私たちが挑戦した空気の可視化は、「空気」を共通の言語にした、一つのコミュニケーションツールになり得ると思います。それぞれの空間に最適な空気の在り方を考え、表現し、世界中の人と心地いい空気をシェアしていきたい。その一歩になると考えています。

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