ダイキン工業は新しい空気清浄機MCK70Yを発売しました。新型コロナウイルスの脅威が未だ世界を覆う中、空気清浄機の担う役割はいっそう高まっています。今回開発に携わった2人のデザイナーが、そこに込められた新しい時代の空気清浄機について語ります。
コロナ禍がもたらした変化
山下:
空気清浄機のデザイン開発には10年ほど前から関わってきましたが、実はその間も空気清浄機のデザインは徐々に変化を遂げています。エアコンや暖房機器とは異なり、空気清浄機の効き目はなかなか体感しづらいと言われます。そのため効果を伝えるために機能性を造形や表示部のランプによって表現した時期もありました。そうした流れの中で、少しずつ空気清浄機の性能についての理解が深まり、また空気情報が分かるアプリなど生まれたことで、現在はよりすっきりとした、インテリアへの調和を意識したデザインが好まれるようになっています。
東山:
デザインが変化する一方で、コロナ禍によって空気清浄機が必要とされるシーンも大きく変わりました。今までは花粉症の方や小さなお子様がいるご家庭など、困りごとが明確な方々が空気清浄機のメインの購入者でしたが、コロナ禍によるリモートワークなどで在宅時間が長くなり、これまでは気にしていなかった人も空気質を意識するようになりました。また、家庭だけでなく病院、学校などの公共空間でのニーズが一気に高まったことで、空気清浄機がより身近な存在になり、生活の一部になりました。だからこそ、改めて私たちと空気清浄機の関係性や距離感を見直しました。
新しい空気清浄機のあり方とは
東山:
まず考えたのはこれからの生活スタイルに寄り添った新しい空気清浄機のあり方をデザインによって生み出したいということ。そのためには今まで当たり前だと思っていたことを捉え直す作業が必要でした。
山下:
その点では東山さんが、私のように長く開発にかかわっていた者では気づかない部分にまで積極的に検討し、新鮮な提案をしてくれたことが功を奏したと思います。私自身は、今まで実現が困難だったことをこの機会にという想いを持って取り組みました。
東山:
リモートワークなどで在宅時間が長くなれば、室内を加湿する時間が増え給水する頻度も増えるはずです。そうした生活において、面倒な給水作業を生活導線上で隙間時間に手軽に給水できるようにしました。従来のタンクを取り外す給水に加え、機器に直接給水ができる構造にして、コップなどでサッと水を入れやすい給水口の形状を検討しました。その場で給水できる便利さだけでなく、洗いやすいタンク形状にすることでメンテナンス性も向上しています。
山下:
CMFデザインも、多様化しているインテリアスタイルに溶け込みやすいよう色や質感を刷新しています。ベーシックカラーである白も、清潔感は踏襲しつつ、ニュートラルな白を狙って調色しました。ブラウンについては、明度を落としてより重厚で高級感のある色調にしています。また、表面仕上げをマットにすることで、壁紙やファブリックなどインテリアを構成する要素になじむように配慮しています。できるだけ樹脂の「人工感」を与えないよう、生活の中で人に寄り添う質感を目指しました。前のパネルと後ろの本体の色を変えることで、後ろ側が影となって全体が軽やかに見える配色にも工夫を凝らしています。
お客様の生活に寄り添い、考える
東山:
このようにお客様の生活をベースに考える中で、もっとも大きく変更したのが操作表示部です。思い切って正面パネルから表示部をなくしました。従来の考え方では、正面に湿度や空気質のモニター、天板に操作部があるというレイアウトになります。しかし、LEDの光が常に目立つことは生活者にとってノイズになるのではないかという問いから、思い切って天面に集約することにしました。
山下:
これはかなり挑戦的なものでしたが、根拠なく提案したわけではありません。室内で生活する中で椅子に座っている時間や動いていることを考慮すると、天面にあっても十分に内容を把握できます。また、現代の生活ではスマホが常に手元にあるため、機器が設置された場所に関係なくアプリを使えば簡単に詳細情報を知ることができる点も考慮しました。同時に、遠目からも空気の状態が認識できるよう空気質は色の変化で表現し、その他の運転モードは白色で表示するなど統一感と共にメリハリのあるLEDランプの配色にしています。
東山:
これらの機能を備えた上で、目指したのはどこに置いても美しく見えるデザインです。全体としては、前後のパネルを少し曲面になった同じ形状とし、空気を纏っているかのような。そして、従来は見えないという理由でビスが剥き出しになっていた背面にもきちんとデザインを施すことで、どんな空間にも好きな角度で自由に置けるようになっています。
空気への意識の高まりをデザインに
東山:
今までは臭いが気になる時や景色が霞んでいる時くらいしか、空気がきれいかどうかを認識することはありませんでした。しかし、何の匂いもなく見た目も変わらない普通の景色の中でウイルスが浮遊していることを想像すると本当に恐ろしいです。空気がきれいになったことが一目見てわかるだけで、とても安心できるのだと私自身も感じています。
山下:
今後は自分がいる場所の空気質だけでなく、気候変動や地球環境といった大きな課題の中での「空気」に対する意識が高まってくるはずです。私たちが生活する半径数メートル以内の空気にも、元をたどれば環境問題による影響が及んでいる。そう考えると、空気をきれいにする製品を作るために、空気が汚れてしまうモノづくりや過剰なエネルギー消費が起こっては本末転倒です。使用時だけでなく製造過程から廃棄までのプロダクトのライフサイクルに対して、責任ある製品や体験を提供する必要があります。そのためにはさらに広い視点でとらえ、デザインを考えなければいけないと思っています。
東山:
安心できる空気をお届けするために部品ひとつひとつをこだわり、チームで一丸となって作り上げたこの空気清浄機が、お客様の生活に寄り添えるといいなと思います。
コロナ禍によって空気に対する価値観も大きく変わりましたが、その変化によってまた新しい考え方や価値が生まれると強く感じています。より安心で快適な空気をお届けしたいという信念を持ちながら、これからの時代ならではの発想で、見えない空気に対してさまざまな視点や角度から向き合っていきたいと思います。
iF DESIGN AWARD 2022
https://ifdesign.com/en/winner-ranking/project/mck70y/344326