ページの本文へ

  1. トップ
  2. DAIKIN design
  3. Inspire
  4. 空間の作曲に挑む

空間の作曲に挑む

~サウンドアーティスト・evalaが語る『耳で視る新たな世界』~

「音」は空気の振動によって人に伝わります。私たちの日常生活の中にあふれているさまざまな音は、空気がなければ生まれません。そして音も空気も、空間の中にあって目には見えない存在です。そうした音と空気によって、どんな新しい表現が可能なのか——新たな音楽手法として“空間的作曲”を掲げ挑むサウンドアーティスト、evalaさんにお話を伺いました。

空気の「振動と波」を作品に

ぼくのサウンドアーティストという肩書き、聞き慣れない人も多いのではないでしょうか。広義の意味では音楽家ですが、いわゆる音楽プロデューサーや作曲家の活動と並行して音のアートピースを制作してきました。特に楽譜に記譜できない感覚的・情緒的な「楽譜からこぼれたもの」に着目し、表現してきました。必然的に劇場よりは美術館に呼ばれる機会が多くなり、そこでサウンドアーティストという肩書きが生まれたんです。以前から、サウンドアートといわれるものはありました。ただ、今まで存在したのは美術という様式の中で視覚的なオブジェクトに何か面白い音が付随している「目で聴く」様なものでした。でも、ぼくは視覚要素が全く無くても「空気の振動と波だけで作品になり得る」と考え、「耳で視る」という、従来のサウンドアートとは知覚的に逆の作品を手がけているんです。

例えば、これはぼくのアートピースのひとつで移動型の無響室です。内側を黒い遮音素材で囲われた暗いコンテナ状の部屋の中に、3台のメトロノームがあります。メトロノームの音は全方向性マイクロフォンでとらえられてリアルタイムに立体音響プログラムによって音響処理を施されます。引き延ばされたり、粉砕されたりしながら空間を駆け巡るその音は、人が今まで聴いた事のないもの。聴くことでしか知覚できないんです。しかし視覚という感覚を遮断された中で、耳によって知覚される非日常的な音は人々のイマジネーションを非常に刺激して、観客それぞれが現実の空間から逸脱した独自の体験をするのが、この作品の面白いところです。特に面白いのが、何も見えないのになぜか視覚的な話が多いこと。『お城が見えた』『火が燃えたぎっていた』、さらには『最後に真っ黄色に発光したが、あれはどういう照明効果なのか?』と質問してくる方もいます。視覚が遮断された中で、人々の内側にある記憶や体験などを音が呼び起こして脳内でイマジネーションが広がっていく。そして「視る」ことができるようになるんです。

音と空間

演奏家は、ホールに行くとまず手をパンと叩きます。なぜするかというと、“パ”といういつも一定で変わらないリファレンスとしての“パ”のあとの“ン”を聞くためです。つまり響きを聞く。音というとみんなその“パ”、つまり音源のことばかり考えてしまいがちです。しかし音源=音ではありません。音源と空間があって初めて音になる。音源がどういう伝わり方をするか、そして空気や空間をどういうふうにデザインするかが重要になります。都市をデザインする際にも“パ”ばかりを付けようとしますが、実は“ン”にヒントがあるのではないでしょうか。

“ン”から新しい表現を生み出すこともできます。音は気配をいちばん出しやすい。だから映画で、例えば銃声がして画面からピューンと弾が飛んでくるシーンがあるとします。それを音によってあたかも観客の横を銃弾が通過したような生々しい軌道を描くように表現する事が可能です。ですが、そうすると観客が弾を追うようにして思わず振り向いてしまいスクリーンから目を離してしまう。一般的な映画はあくまで視覚がメインですから、スクリーンから観客の目線を逸らしてしまってはいけません。それならそこから離れて、真っ暗な中で体験する映画をやってみたいと考えました。
ぼくの「インビジブル・シネマ」という新しいシリーズでは、劇場やホールのようなスペースを使い、真っ暗な空間で音だけのシネマを体験してもらいます。例えば、自分の右半分だけ水面がジャバジャバしていて、左半分は風が吹いている。日常にはない“耳で視る”体験から、記憶と密接につながりながら思いも寄らないファンタジーが立ち上がります。映像として感性的に外から与えるのではなく、内側から引き出す、ということをやりたい。それが空間の作曲です。日本語には独特の感性があって、“暗”は日に音、“闇”は音を閉じ込める。“暗闇”って音がいっぱいなのです。

人が「惹かれる」場所

音を表現する為には空間、そして空気が欠かせないんです。例えば、スピーカーは空気がなかったら、まったく機能しません。水面に小石を落とすと波が伝わっていくように、空気と音源もそれと同じような関係です。音を扱っている以上は、そこにある空気とどの様にして共存していくかが大切なのです。例えば響きの無い無響音室では、人工操作によって空間を広くしたり狭くしたりと自由自在に世界をつくれますが、それは多種多様な響きに満ちている自然や都市の中でも考え得ることです。

例えば、人が元来、心惹かれたり魅力を感じ集まる場所というのは静かなところが多いものです。パワースポットと呼ばれる多くの場所も静かな事が多いですよね。実はああいう場所というのは、音の反射が非日常的になっており徹底的に静かなんです。例えば長い年月の間にサンゴのかけらが集まって自然に吸音していたり、はたまた吸音する苔が敷き詰まっていたり。その中でポツンと非日常的な音が反響する空間があったりもする。『ここに何かある』と人が惹かれるのは、音の影響が非常に大きいのです。昔の人たちは自然と共存しながら、そうした静けさと非日常の音空間を、無意識的に見い出して崇めたりしてきました。

都市では、交通音やBGMなど音があふれていますが、その体系が明らかに一定の決まったものなので耳についてしまいます。現代では人を集めるために音を付加しますが、それでは騒がしくなってしまい、逆効果だと思っています。人を集めたいのなら、日常の騒音から解放してあげる事が重要なのではないでしょうか。未来に必要なサウンドデザインは、音を抜くこと。しかし、単に無音にすればいいのではなくて、静けさを感じるための音があります。 “音を通さない空気”で都市の中にスッと静けさの場所ができれば、そこに人は集まるとぼくは思います。例えばそういう空間を作り出す方法のひとつとして“音を通さない空気が出るエアコン”ができると、とても面白いですよね。

See by Your Ears
evala

  • Facebook
  • Twitter
  • Google+
  • Hatena Bookmark
ページの先頭へ