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見えないものを映像化するプロセス

〜ムービーデザインスタジオ「LIKI inc.」の『視覚化する力』〜

モーショングラフィックスやCGを中心にした表現によって、近年、ムービーデザインのシーンを席巻する存在である「LIKI inc.」。テレビCMをはじめミュージックイベントやライブ映像など、あらゆるジャンルのムービーを手がけています。ダイキン工業が自らのブランドコアを表現するために取り組んだムービーを手がけたのも「LIKI inc.」です。今回はそのプロジェクトに中心的に携わったアートディレクターのラウさんとモーショングラファーの志村勇海さんに、見えないものをデザインすることについてお話をうかがいました。

抽象的な表現で観る人のための余白を残す

自動車や化粧品のCM、アーティストのプロモーションビデオなど、ありとあらゆるジャンルのムービーを手がけていると言っても過言ではない「LIKI inc.」。ダイキンのブランドコアムービーづくりにお二人はどのように取り組んだのでしょうか。

ラウ(LAU):
最初にブランドコアである4つのキーワードと、一つひとつのキーワードに対する想いを語っていただきました。それを軸にして、空気を表現し、ダイキンらしさを演出する方法を考えた結果、具体的な表現をし過ぎず、あえて抽象的な表現を導くことにしました

志村:
目に見えないものではあるけれど、実際に触れている。空気というのはすごく不思議なものですよね。だから、これというビジュアルに固定させない方が『空気らしさ』を感じられると思いました。ブランドコアはダイキンにとってデザインの軸となるものです。ただし、輪郭はちょっとボヤけている方が、そこから発展させやすい、外へ広げていきやすいとも考えました。だからこそ断定しない、抽象的な世界にしようとしたのです

ラウ(LAU):
今回のムービーは4つのキーワードの背景にある思想や哲学を可視化するものです。カチカチに決めるより、観た人が自分なりに考えられる余白を残しておきたかったのです

映像化のヒントになった「レオロジー」

しかし、数々の映像制作を手がけているお二人にとっても、空気という見えないものを視覚化するプロセスはそれほど容易いものではなかったようです。

ラウ(LAU):
まず『空気とは何か?』について考えました。目に見えないものをどうすれば可視化できるかを調べた結果、流体力学やレオロジー(流動学)という分野に辿り着きました。そこでは数式によって空気の流れが計算されているのですが、それがあるからこそ空気が流れているのが目に見えるわけです。例えば、台風が近づいてくると風の方向を矢印で示した天気図などを目にしますよね。それは模様のようにも見えるし、デザインパターンのようにも見える。そう気づいて、今回のムービーにもこうした考え方を取り入れていこうと思ったのです。そこで4つのキーワードの前に、『Air』というイントロを設けて、空気の成り立ちを表現しました

志村:
冒頭のイントロダクションには、空気が生まれる瞬間や地球誕生の歴史が凝縮されています。ムービーのイントロとしてもふさわしいものになりました

ラウ(LAU):
海があって、微生物が生まれ、その呼吸によって青藻が生まれる。そこから風が吹くようになり、太陽の光が地表に届いて植物が生まれ、そして最後に人間が登場する。だからイントロから1つ目のキーワードに移り変わる直前に人間の瞳が一瞬映ります。そしてこれはダイキンの象徴でもあります。空気が生まれる瞬間にダイキンの誕生を重ね合わせ、この後の四つのキーワードに繋げています

志村:
空気というのは地球上で生活しているすべてのものが関わってくるエレメントです。テンポがいいので、なんとなくそのことを感じてもらえれば嬉しいですね

伝えたい想いを理解し、表現する

ブランドムービーは、壮大な物語による幕開けから、ダイキンのブランドコアを示す4つのキーワードへと移っていきます。それぞれのキーワードに託された想いを理解し、咀嚼しながらムービー制作は進んでいきました。

ラウ(LAU):
例えば1つ目のPROFOUNDITY(深奥にある)は、複雑な要素が絡み合う構造体のCGや密度の高い森林の映像によって、さまざまな知識や経験が融合し、一つの大きな土台になっていく様子を表現しています。また、2つ目のCOSIDERATION(心を配る)というキーワードでは、抽象的な柔らかいグラデーションの物質がぶつかり合うことによって、人に対して心を配る時の関係性を表現しています。単にキーワードを映像化するのではなく、すべてにおいて空気を軸にして表現することを心がけました

志村:
3つ目のEXPLORATION(新を探究する)は、研究開発を行う企業にとってベーシックだけど一番根幹となる大事な部分。そこをストレートに表現した方がいいと考え、このセッションはややストーリー仕立てになっています

ラウ(LAU):
ここに登場する球はダイキンを表していて、それが探究をしていく。トップカットの球を中心にして地面から粒子がブワーッと舞い上がるような動きは、母体となるダイキンという会社が周りにいる社員の方たちを巻き込んでみんなで一緒に進んでいこうという意味も込められています

志村:
ここでもなるべく空気を感じさせるようなアニメーションにしています。ただ探求するのではなく、未知のものを求め、そこで得た知識を使ってさらに周りのものを吸収するイメージですね

ラウ(LAU):
する中でお互いに影響し合う。続いて、球が奥に進んでいくシーンがあるのですが、それはまさに未知の世界を探検しに行っている演出。そこから視点が球の中に突っ込んでいって、球=ダイキン内部の世界を見せている

志村:
それまで球が動いているのを外側から眺めていたところから切り替わり、球の内部で経験や知識が増えた様子を表している。そして最後は視点が再び外部へ移り、球が仲間を連れて新しい大地にたどり着いて、新たな環境の中でまた互いに影響し合っていく

ラウ(LAU):
4つ目のPASSION(熱意を持つ)は説明不要でしょう。ダイキンの人たちの持つ情熱や力強さ。その情熱が爆発的に働くことによって新たなものが生まれる様子です。ラストは4つすべてのキーワードが並び、これこそがダイキンであることを強調しています

見えないものをやり取りしながら人は生活している

抽象的なキーワードを表現するだけではなく、それらを空気感によって伝えることに挑んだお二人。改めて今回のプロジェクトについて振り返っていただきました。

ラウ(LAU):
広告の仕事の場合、商品がすでにあり、語りたいことはある程度決まっているケースが多いのです。ただ、今回は企業のブランドを表すムービーであって、思想や哲学的な要素が強い。考えさせられる仕事ではありますが、表現の自由度も高く、何よりダイキンの方々と一緒に話し合いながらつくっていく環境が楽しかったです

志村:
映像をつくるという点では普段と変わらないのですが、コンセプトをはっきりさせなければ話が進まない。なぜこのキーワードに至ったのかを想像して、そこから逆算してイメージを膨らませ、それをどうしようかと考えるプロセスが必要でした

そのように目に見えないものをデザインする難しさに直面しながらも、一方でそれは誰もが日常的に行っていることであるともお二人は語ります。

志村:
少し大きな話になりますが、目に見えないものを視覚化するという営みは昔からあることですよね。例えば図形やグラフや文字もそう。だから、表現に関わる仕事でなくても、誰もが普段の生活の中で自然とやっていることです。デザインだけではなく写真だって、ただそこにあるものを撮るわけじゃない。まずシャッターを切る人がいて、何を撮ろうとしていたのか? どういう状況だったのか? そこには必ず空気感があるはずです。僕たちはただ人より経験があって得意なだけで、目に見えないものを具体的な形に落とし込むというのは、誰もがアウトプットしていることのはずなのです

ラウ(LAU):
私たちの会社の場合、特にCG・3Dチームはあまり具体的なものをつくるのは得意ではなく、抽象的なものを表現するのを得意としています。やっぱりすでに世の中にあるものをつくるだけではつまらない。例えば1本の木を描くとして、ハリウッド映画のようなリアルなものにしてもいい。でも、見たことないもの、抽象的なもの、世の中に存在しないものを考える方がCGや3Dで表現する意味がある。だから、私たちは常にみんなで目に見えないものを表現することに取り組んでいるということなのかもしれません

やりがいは見たことのないものをつくること

こうした姿勢で常に新しい表現を模索しているからこそ、「LIKI inc.」はジャンルに囚われない幅広い作品を生み出すことができるのかもしれません。

ラウ(LAU):
ジャンルを絞ってプロフェッショナルを目指すのもいいと思います。でも、僕たちはモーショングラフィックスをメインとして、それを使っていろんな商品やトーン&マナーのジャンルに携わってみたい。毎回違うお題をいただいた方がモチベーションに繋がります。以前、高速道路のプロモーションビデオを制作したことがあるのですが、分厚い資料を読み込み、自分でもひたすら勉強したのですが、やっぱり新しいものに触れると楽しい。勉強して、知識を得て、そこに自分の持っているスキルを落とし込める。スキルと知識の掛け合わせて新しいものをつくりたいのです

志村:
スキルは言わば鉛筆です。それで何を書くのか? 指先を動かすのは自分なので。新しいことに挑むと上手くいかないことも多いけれど、次にトライする時に失敗しないための経験を培うことができる。それに知らないことの方が面白いですからね

ラウ(LAU):
そういう意味では、普段の生活の中で見ているものや聴いているものはできれば全部自分のアイデアにしたいと思っています。頭の引き出しの中にどんどん入れていって、何かの仕事で合うものがあれば、そこから取り出して当て込んでいくイメージ。あえて考えて生活の中に取り入れていくというよりも日常的に無意識に行っていますね

https://www.likiinc.com/

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