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塗り壁が作り出す心地よい空間とは

左官職人・久住有生氏が語る『人間が本能で心地よいと感じる空間』

優れた技術で、日本国内だけではなく海外からのオファーも多いという左官職人の久住有生(くすみ なおき)さん。世界のあらゆるお客様からオーダーを受けてきたという久住さんに、日本の「塗り壁」が作り出す空気について語っていただきました。

アイデアとは生まれるもの

塗り壁のデザインは、クライアントの話を聞いて決めていきます。例えば、個人のお客様だと好きな服や食べ物、景色など、その人の好みから発想するので、あまり悩むことはありません。クライアントがデベロッパーやデザイナーなどの場合は、コンセプトから自分がいいと思うものと、相手が欲しいと思うものを探ります。相手の好みを聞いて、なるべく自分の考えだけを押しつけないように気をつけていますね。

海外の案件については、その土地の人や自然から発想します。ただ自然に似せるのではなく、自分が『いいな』と思った気持ちを、そのまま形にするようにしています。自分の中にあるものをアウトプットするためには、まずインプットが必要になると思いますが、僕はインプットをあまり意識していません。デザインとは考えるものではなく、自分が感じることが刺激となって生まれていくもの。なので、旅先での人や自然との出会いなど、感じることを増やしていけば、自然と面白いことができるようになると考えています。

人が「心地よい」と感じるもの

塗り壁が日本で長く使われてきた理由の1つに、調湿効果があると思います。塗り壁が空気中の余分な湿気を吸い込み、逆に空気が乾燥してきたら湿気を吐き出すというところが、日本の四季にあっていたのでしょうね。さらにもうひとつ、感覚的な良さもあります。それは、光と音をやわらかくするところ。やわらかな光と音が作り出す穏やかな空間は、人にとって心地よいものだと思うのです。

例えば都会の建物はお金を掛けていて立派だけれど、人が関わる時間が少ない。効率を考えた結果なのでしょうが、手間をかけないと人の気持ちは行き渡らないし、建物はただの物質になってしまうのではないでしょうか。気持ちがこもっていないものに人は感動しないし、心地よい空間とは言えないと思います。僕は「人の想い」があってこそ、初めて良いものができるのだと考えています。

ですが田舎にあるような本物の土壁は、都会の建築物には合わない。だから僕は塗り壁をデザインするんです。通常の左官のように、ただきれいに塗るのではありません。例えば波を表現するときは、わかりやすく鏝で波のラインを描く。『潮の流れがあって、風が吹いているな』と、ひとめで自然を感じられるようにデザインしています。

人が自然を心地よいと感じるのは、自然のものは地球に害がないから。人が持つそういった本能のような感覚は、生きていく上でも大事なことではないでしょうか。

空気によって変わる塗り壁

左官はもともとヨーロッパからシルクロードを通って入ってきたもの。それが日本で独自の進化を遂げてきました。海外では僕が作業していると、たくさんの人が見に来ます。塗り壁を塗っている姿が踊っているように見えるのだそうです。無駄なくきれいに作業しようとすると、踊っているような動きになるんですね。

海外にもたくさん職人はいますが、1人の職人がコテだけを使って土壁を平らに仕上げられるのは、たぶん日本だけだと思います。日本人の正確さと、難しいものを作りあげることに喜びを感じる職人の気質が、繊細な技術を作り上げてきたのでしょう。日本人には、物にも神様が宿るという独特の感覚があります。ですから、作るものへの想いも強いのではないでしょうか。

材料へのこだわりとして、僕は現地で調達したものを使うようにしています。現地の人が美しい・綺麗だと思うのは、やはりその土地のもの。だから僕はその土地の土などを材料に使うのです。もともとそこにあったものなので、土地にも深くなじみます。極端な話、人が住まなくなって廃墟になったとしても綺麗なんです。

また土の配合や作業工程は、その土地の空気や気候によって変わってきます。場所によって土の配合も、作業のやり方もガラッと変えなければいけないんです。いつも作業している日本が一番やりやすいと思われがちなのですが、実はそうでもない。日本は四季があるので、同じ場所でも条件が季節によって全然違うんです。
ですがそんな日本の空気や気候の変化に慣れているからこそ、職人として世界のどこの国に行っても対応できるのだと思います。

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