竹中工務店の山口大地氏とダイキンのプロダクトデザイナー山下と眞木の若手3名が、デザイナーの役割の変化について語り合うスペシャルトーク。後編ではより具体的に、3人の情報収集の方法や、思考のプロセスについて語ります。
情報という「点」
眞木:
働き始めた頃、自分の仕事の浅さみたいなものを感じていました。今ふり返ると、明確化された目標に対して必要な情報だけを収集していたのかなと思います。ですので、みなさんがどんな風に情報収集をしているのか、とても興味があるのです。
山口:
僕は情報収集をするとき、情報の1つ1つを点ととらえています。その点を結ぶのが経験や知恵、そして文化だと思うのです。
例えば、最終的にたどり着きたい目標の星があるとします。情報という点を結んでいってその星にたどり着くためには、単に最短距離を行くのではなく、行ったり来たりして線を太くしたり、点と点をつなげて面にしていく必要がある。その面の部分が自分の知見になるのだと思います。
目標を星に例えたのは、つかみどころのないものだから。初めから明確にゴールがあるわけではなく、自分でも何かわからないものを目指している感覚なのです。情報を結んでいく上で一番大事なのは広がりです。情報収集という行為自体を楽しむことが、ものすごくクリエイティブだと思うのです。
具体的な方法としては、本を一番重要視しています。本だと自分の気分や体調によってペースを調節できる。それ以外は人と話すこと。人が会話する時に口に出す言葉は、その人が考えて選んだ言葉なので、情報のいいとこ取りができると思います。
山下:
私はお題に対する連想ゲームみたいな形でスタートします。気がついたら出発点と全然違うところにいたりするのですが、そこから意外とつながって、面白いアイデアになることもあります。
山口:
情報が最終的な製品と直接結びつくこともあるのですけど、それでは面白くならない。具象化するタイミングも大事ですよね。考えが浅いと感じる人は、そのタイミングが早すぎるのかもしれません。
山下:
そうですね、しばらく泳がせて妄想したいです。逆に膨らみすぎて形にするのが大変になることもあります。
眞木:
僕は最近よく本を読むようになり、点が広がって面になるという感覚がわかってきました。ですので、先ほどの星の話にとても共感しています。
本を読んでいて面白いなと思うのが、本の中で次に読みたいテーマが見つかるということ。読み進める中で、今まで触れてこなかった知識など、しっくりこない部分が出てきてもっと知りたくなる。一見デザインに関係がないようなことでも、興味を持って情報を得るというのは良いことだと感じています。
山口:
情報の使い方に如実に差が出るのは、アウトプットしているかどうかですよね。受け取った情報をそのままにしている人は、消費しているだけで意味がない。どれだけ自分事としてその情報を見られるかで、得るものが違うと思います。何かに結びつけることを前提にして得る情報は質が高いのです。
呼吸の哲学
山口:
得た情報やアイデアを製品に落とし込むことは、ある程度スキルがあればできると思うのですが、そのスキルを身につけた人が次に問われるのが哲学ではないでしょうか。僕が学生の頃に、呼吸するように自然にデザインのことができてしまう天才がいました。
僕はその人を見て、自分が呼吸するように自然にできることは何かと考えたのです。そこで、自然と人にビジュアルを使って説明することができる自分に気づいて、ビジュアライゼーションという手法を選びました。
眞木:
僕はもともとエンジニアになりたかったのですが、ある恩師との出会いによって、デザインの道へ進むことを決めました。デザインを職業にしたとき、最初はだいぶ頑張って仕事をしていたので息苦しかったです。いま思えば少し無理をしていたかもしれませんね。
山口:
確かに無理して仕事をしている人は、呼吸ができていないことが多いですね。デザイナーは華やかな仕事と思われがちですが、じつはすごく泥臭い仕事。そこに耐えるには、やっぱりきちんと呼吸をしながら仕事をしないとできあがったものに表れてしまう。僕も「最近いいもの生み出してないな」と思ったら、焦ってきちんと呼吸ができていないという事があります。
インハウスデザイナーの活動領域
眞木:
仕事といえば、企業のインハウスデザイナーと社外デザイナーの違いについて考えることがあります。両者の役割は区別されてきたように感じるのですが、これからの企業とデザイナーの関係はどうあるべきなのでしょうか。
山口:
昔はアウトソーシングすることで社内工数を減らして、予算を削減するという流れがあったのですが、そのせいで社内にノウハウが蓄積されず、作業ができる人も減ってしまった。そのため、デザインに重きを置くインハウスデザイナーの重要性を訴える記事などが増えていますね。
山下:
私たちデザインチームも以前は開発部門に属していたのですが、2015年にTICに異動してからは、フレキシブルに動けるようになったため、研究や営業担当者と直接やりとりをして、様々な部署から声がかかるようになりました。プロダクトだけではなく展示会や広告宣伝などの仕事をして活動の幅が広がりましたね。
山口:
インハウスデザイナーの仕事領域が広がることによってデザイナー自身の価値が上がり、結果社内でできることが増える。そういう流れをみんな目指しているのですが、実際やっているところは少数ですね。具体的には、社内の人間がデザイナーに声をかけて、一緒に仕事をするということでしょうか?
山下:
声をかけていただくことも、デザイナー側から提案させてもらうこともあります。
仕事の関わり方もいろいろあって、ダイキン工業が伝えたいメッセージを、外部クリエイターに伝えたり、その逆に、外部クリエイターの表現を社内のメンバーに通訳したり、コンセプトワークに取り組むこともあります。みんなデザインが好きなので、プロダクトだけではなく広告や展示会などにも興味があるのです。私たちが考えていることが、ちゃんと伝わるようなものをつくりたいですね。
山口:
僕の職能はデザイナーではなくパース屋なのですが、「見せる」という領域を広げていって、グラフィックデザインを手がけることもあります。本来の業務ではないのですが、それを行うことによって逆に無駄なやりとりを減らすこともできる。
眞木:
弊社はマネジメントの観点でも、業務を詰め込み過ぎずに余白の部分を残すという方針ですので、やりたいことができる環境だと思いますね。
「上げ屋」としての役割
山口:
デザイナーやクリエイターって、会社に属しているけど「自分は自分」のような、個に対する思いが強い人が多いという印象があるのですが、お二人はいかがですか。
山下:
個はもちろんあるのですが、私はデザインするものがダイキン工業の製品であるというところを大事にしています。自分の感性を反映しつつも、ダイキン工業の製品としてのデザインの規定も守りたいというのが、私としての個としての思いです。
山口:
僕は建築パースの既成概念を破るような役割を社内外から期待されることが多いのですが、今あるものを否定して新しく変えるというのではなく、「整えたい」という個の願望を実行しているだけなのです。それが結局、組織のためになっている。
スティーブ・ジョブズがiPodを発表したときに、プロダクトイノベーションと言われましたが、研究や工夫を一つ一つ積み上げていった結果ですよね。積み上げた高さだけを見た人に、そう言われているだけなのです。
ただ、その積み上げのスピードと量は、他の人よりも多くなければいけない。たとえ目新しいものではなくても、相手の中の既成概念や常識を壊せたら正解だと思いますね。
山下:
制約のある中でも、お客様に喜んでいただけるような価値あるものを生み出せるかということが、メーカーのデザイナーとして大事だと思っています。デザイナーも設計も営業もそれぞれの立場でベストを尽くして、いいものを出したいですね。
眞木:
前回、山口さんがおっしゃっていた「上げ屋」というキーワードが、すごく大事だと思います。プロジェクトの予算が苦しい中でもいいものを生み出そうと奮闘している時、必要な投資を得るためには、デザイナーの伝え方も大事になってくる。
なぜそうするべきなのかを、わかりやすい形でみんなに共有できるようにするのもデザイナーの役割のひとつかなと思います。デザインを理解してもらうことによって、設計や営業も一緒に良い方向へ進めるのではないでしょうか。
山下:
ぜひこれを一緒に世に出したいと、ちょっと無理してでもやりたいと思ってもらえるような提案をしたいですね。