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ダイキンが起こしたBMS構築革命|業界の常識を打ち破るセミカスタムの視点
FEATURE
2026.03.03

シンプルで使いやすいビルマネジメントシステムを半分のコストでお客様に提供したい――。

これはダイキン工業(以下、ダイキン)がお客様のために開発を進めているビルマネジメントシステム(以下、BMS)の目標値です。BMS納入作業はおおまかに設計、エンジニアリング(現場での開発)、試運転に分かれます。現時点でエンジニアリングについてはマイナス50%と大幅なコスト削減ができています。

本記事では開発に携わったダイキン テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)の坪内彰主任技師、成清保隆氏、政木伸水氏に「セミカスタムBMS」の詳細を語っていただきました。

 

ダイキンの社運をかけた生き残り戦略 ― 他社がやっていない領域を突く

――ダイキンが目指す「モノ売り」から「コト売り」への変革


坪内:ダイキンはこれまで空調機器を作って成長してきた会社です。しかし、ただ空調機器(モノ)を作って売るだけでは、お客様に提供できる価値が限定的な範囲に留まってしまいます。そこで、考えたのがBMS※1領域への事業拡大です。当社の空調機器を導入してくださったお客様のビル設備をワンストップで管理できるBMSを開発することで、より大きな価値を持つソリューション(コト)をお客様に提供できると考えました。

 

※1:BMS(Building Management System)

 BMSとは、ビルや大型施設内に点在する設備機器をネットワークでつなぎ、中央のソフトウェアで一元監視・制御するシステムです。空調・換気(HVAC)、照明、電力などからセンサー情報を収集し、監視や制御を行います。

成清:これまでも、コト売りへ舵を切るべく挑戦してきました。しかし、その道のりは甘いものではなく、今回三度目にしてようやくビジネスとして軌道に乗せられました。今回のプロジェクトが発足したのは2020年頃で、海外(ヨーロッパ・北米)拠点とも連携を取りながら開発を進めてきました。

 

――業界の常識を打ち破ったセミカスタム

成清:ビルの床面積やフロア数(階数)、それにビル内で使用されている機器は建物ごとに異なります。そのため、他社ではBMSを構築するときは、お客様の要望を取り入れながらフルカスタムでやっていました。しかし、フルカスタムのBMSはゼロから構築するため工数が多くかかり、どうしてもコストがかかるという問題点がありました。


そこで当社が考えたのがセミカスタムBMSです。フルカスタムで構築するのではなく、パターン化可能な部分を標準化し、構築プロセスをパッケージ化しました。例えば、管理画面(ユーザーインターフェース)のボタンデザインや配置を標準化しています。

ただ、それだけでは対応しきれない部分もあるため、お客様の要望を取り入れながらエンジニアが開発するというハイブリッド方式で対応しています。平面図を表示させたい場合には、その画面をエンジニアが作ってBMSのなかに取り入れることができます。

――開発テーマは「早く・安く」


成清:セミカスタムBMSのコンセプトは「早く・安く」です。先ほどの紹介のように、現場でのエンジニアの工数が少なくなることを優先しました。それによってコストを圧縮することで、お客様に低コストのBMSを提供できます。ただ、はじめからあらゆる規模のビルに適用させるのはリスクがあると思いました。そのため、まずは比較的規模が小さく、かつシンプルな機器構成のビルへの導入を進めました。

 

 

仕組み化で減らすミスと高める効率 ― テンプレート&オートリンクの活用

――複数のテンプレートの組み合わせによりデータベースを構成


政木:BMSの構築プロセスを標準化するためのテンプレートは大きく分けて三つあります。それがステーションテンプレート、モデルテンプレート、デバイステンプレートです。

 

ステーションテンプレートは、カレンダーやユーザー管理、アラーム管理などすべてのビル管理において必要となる基本的な機能を集約したものです。このテンプレートを用いて重警報や軽警報などアラームレベルの分類も行います。

モデルテンプレートは、空調機やチラー(冷却水循環装置)、AHU(エアハンドリングユニット)などビル内で使われる機器の情報を仮想化し汎化(一般化)したものです。例えば、空調機であればメーカーに関係なく運転・停止・温度などの共通のデータをもちます。

 

最後のデバイステンプレートは、各機器毎で持つ情報(データポイント)をテンプレート化したものです。例えば空調機なら、温度で一つ、湿度で一つのように、機種ごと情報ごとに持つデータのアドレスが異なります。

 

 

複数のテンプレートの組み合わせによるデータベース

各テンプレート間でデータを受け渡す必要がありますが、同じ機種でもメーカーやモデルごとに異なる値をもつことがあります。例えば、ある機種では0が暖房、1が冷房だったのに対して、別の機種では反対に設定されていることもあります。これらを標準化するためにデータコンバージョンテンプレートというものも使用します。

 

――テンプレート間の情報の紐づけを自動で行うオートリンク

 

政木:各機器から取得した情報は、各テンプレート間で紐づけ(バインド)する必要があります。その作業を自動で行ってくれるのがオートリンクです。これは予め各データポイントにリファレンスタグ(Haystackタグ)が用意してあり、それらを検知して自動でバインドしてくれます。

 

フルカスタムのBMSでは膨大なデータポイントをゼロから作る必要があります。煩雑な作業であるため、データポイントの登録漏れがあると、機器からの情報を取得できません。また、バインドも同様に煩雑な作業ですが、バインドする相手を間違えると取得すべきでない情報を誤って取得・表示してしまいます。

 

これらのエラーをなくすためにエンジニアリングの後に行うのが試運転です。しかし、エラーが多くなればなるほど、試運転の工数も多くなってしまいます。そのため、そもそもエラーを起こさないようにするために、テンプレートやオートリンクを駆使しています。

 

 

 

デザインのプロが考え抜いたUI・UX ― シンプルさと使いやすさへのこだわり

――グローバルでダイキンのデザイン言語を統一した「グローバルデザインガイドライン」

政木:日本とシリコンバレー(アメリカ)のデザインチームが、ダイキンの製品全体で使用するために作ったのがグローバルデザインガイドラインです。このガイドラインでは、標準的に使用する色やアイコン・ボタンの形状などが標準的なルールとして決められています。今後、ダイキンのさまざまな製品に展開していきますが、グローバル製品で一番はじめに採用されたのがセミカスタムBMSです。

 

UI・UXを意識したグローバル共通のデザイン

坪内:ガイドラインはプロのデザイナーがUI・UXを意識して考案したものです。そのため、シンプルで見やすく、使いやすいデザインとなっています。BMSなどのユーザーインターフェースは、説明書を読まなくても操作できる直感的なものが求められていますが、このガイドラインはその要望にも応えられるものです。

また、ダイキンはグローバルに製品展開を行っていますが、いつ作ってもどこで(どの国で)作っても、ユーザーインターフェースが共通していることはお客様にとってメリットです。

成清:セミカスタムBMSではそれ以外にも、お客様にとっての使いやすさを追求しています。例えば階層を浅くして基準の画面に戻りやすくしたり、余計なグラフィックをなくしてツリー構造で表示したり。あとは、必要な情報や数値のみをまとめて一画面で見られるようにするなどしています。ビルを管理するお客様の立場になると、操作しやすいことや人が異常を認知しやすいことが重要なので、目的に合わせたシンプルな構成にしています。

 

ただ、一部ではセミカスタムだけで対応できない場合もあります。そのため、お客様のご要望に合わせてグラフィックや平面図などを加える(カスタムできる)体制は整えています。しかし、その場合はエンジニアが手動で構築するため、多くの費用や時間がかかり、セミカスタムのメリットは限定的になってしまいます。ちなみに現在、セミカスタムBMSはヨーロッパと北米で展開しています。北米のお客様は一部をカスタムされることが多いですが、ヨーロッパのお客様はおおむねセミカスタムのみの構築でご満足いただいています。

 

想定した効果と期待以上の効果 ― 将来の技術承継に向けたメリットも

――狙い通りのエンジニアリング工数圧縮と副次効果


政木:開発段階の社内テストでは、エンジニアリング工数を50%削減できることが分かっていました。実際の現場では想定通りに工数を削減できなかったこともありましたが、反対に想定以上の削減効果があったこともありました。そのためトータルすると、現場においても当初の狙い通り、エンジニアリング工数を50%圧縮できました。

 

成清:効果は工数圧縮だけではありません。テンプレートとオートリンクによりエラーがなくなり、試運転の時間削減、ひいてはBMSの品質向上につながっています。また、フルカスタムBMSでは、現場のエンジニアの育成コストが大きくなる傾向があります。しかし、セミカスタムBMSはフルカスタムBMSほどのスキルが不要なため、育成コストの圧縮効果もあります。スキルが属人的でなくなり、将来の技能継承もスムーズにできることも大きなメリットです。

 

目指すのは工程全体での工数50%圧縮 ― 物怖じせずに海外に打って出る人とともに

――今後も進化し続けるセミカスタムBMS

坪内:エンジニアリング工数の圧縮には成功しましたが、今後改善していくべきことはたくさんあります。設計、エンジニアリング、試運転という三つの工程のうち、工数を圧縮できたのはエンジニアリングだけです。エンジニアリングの工数は50%圧縮できましたが、工程全体で考えると20%〜30%の工数圧縮に留まっています。今後は、工程全体で50%の工数圧縮を目標に開発を進めていきます。例えば、試運転ではテストレポートの作成など、自動化により工数圧縮を見込める作業が他にもあります。

成清:一方で、工数圧縮のために標準化したことにより、どうしても制限されている機能があります。営業担当者からは「お客様からカスタムでしか実現できない仕様を求められる」という声も聞いているため、セミカスタムで構築できる領域を広げていきます。また、対応できるビルの規模も大きくしていく考えです。

現在のBMSは各機器の情報を集めて集中的に監視・制御を行うシステムです。しかし、今後はAIや機械学習により、各機器どうしが情報の受け渡しをしながら自律的な運転ができるようになるかもしれません。このような可能性も秘めているのが、セミカスタムBMSの魅力です。

現在、セミカスタムBMSを展開しているのはヨーロッパと北米だけです。今後は日本や中国を含むアジアやオセアニアにも展開していく予定です。

――お客様の方を向いて製品開発ができる醍醐味


成清:「モノ売り」が主力だったこれまでは、実際に当社の製品を使用されるお客様というよりは、卸業者様や小売業者様の方を向いていたのが現状でした。しかし、「コト売り」では現場でお客様に真摯に向き合いながら開発を進めていく必要があります。そのため、非常に重い責任を感じる一方、それがやりがいにもつながっています。

――将来、一緒に働く仲間へのメッセージ

成清:ダイキンは「コト売り」のビジネスに舵を切る一方で、従来通り「モノ売り」のビジネスも継続します。これら二つの開発を経験できるのは、ダイキンならではの魅力だと思います。また、開発といってもオフィスにこもって行うわけではありません。積極的に現場に出てエンジニアと会話するなど、ある種のアグレッシブさも求められます。

 

坪内:ダイキンでは技術者も海外経験をたくさん積むキャリアを歩みます。グローバルで製品を展開しているため、日本だけに留まっているのではなく、物怖じせず世界に飛び出していける人と一緒に働きたいと思います。ダイキンはBMSの領域では後発なので、既存のBMSとの互換性といった制約がありません。そのため、比較的自由な発想で開発することができます。

政木:入社してある程度仕事ができるようになってから、本当にやりたいことが見えてくることもあるでしょう。ダイキンでは空調機器の開発からBMSのようなソリューションの開発まで幅広く行っているため、きっとやりたいことが見つかると思います。チャレンジ精神旺盛な方と一緒にお客様のためになる製品開発を進めていきたいです。

 

 

 

 

※記載内容とプロフィールは取材当時のものです。
Akira Tsubouchi

テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師

2018年12月入社。三重県出身。
BMS・計装を担当。失敗を恐れず挑戦しつづけていきたい。
Yasutaka Narikiyo

テクノロジー・イノベーションセンター

2010年10月入社。大阪府出身。
BMS・計装・省エネなどの技術企画を担当。世界に飛び出し新たな挑戦をし続ける。
Shinsui Masaki

テクノロジー・イノベーションセンター

2019年4月入社。広島県出身。
BMS・計装を担当。技術革新と信頼性向上を通じ、持続可能なBMSソリューションの技術開発に努めます。
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