ダイキン工業株式会社(以下、ダイキン工業)は、空調機器から回収した冷媒の再生処理と破壊処理※1の環境影響を比較したライフサイクルアセスメント(LCA評価)を実施し、その結果を論文にまとめて公開しました。
空調機器の入れ替えやメンテナンスの際に回収された冷媒は、回収し不純物を取り除くことにより、繰り返し使用することが可能であり、地球温暖化抑制と資源循環型社会の実現に向けて冷媒の回収と再生が求められています。しかし、日本において業務用冷凍空調機器の冷媒回収率は40%程度に留まっており、また、回収された冷媒も大半が破壊処理され、再生率は30%程度(R410A)に留まっています。回収率を向上させることで温暖化抑制に貢献するだけでなく、同時に再生処理率を向上させることで、地球温暖化抑制や資源循環の観点で良い効果が期待され、冷媒の供給不足の緩和にもつながることから、このたび、回収した冷媒を破壊処理する場合と再生処理する場合の環境影響について評価比較しました。
温室効果ガス(GHG)排出量、エネルギー消費量に加え、温暖化影響だけでなく健康や生物多様性など様々な領域への環境影響を統合的に評価するLIME※2の3つの指標で比較した結果、R410Aの再生処理の環境影響は、破壊処理に比べGHG排出量は約1/7、エネルギー消費量は約1/25、LIMEは約1/20となりました。冷媒の種類(R410A、R32、R134a、R22)や処理地域(日本、欧州)に関わらず、どの指標においても破壊処理より再生処理の方が低い結果となり、再生処理の方が地球温暖化抑制や資源循環の点から望ましいことが定量的に明らかになりました。
今後も、冷媒の回収・再生率の向上を推進するとともに、冷媒漏洩の防止・抑制や、地球温暖化係数の低い冷媒への速やかな移行、および安全性、環境性、エネルギー効率、経済性などの総合的な観点からバランスの取れた実用的な冷媒の開発を推進し、地球温暖化抑制と資源循環型社会の実現に貢献していきます。
<破壊処理と再生処理のGHG排出量、エネルギー消費量、LIMEの比較(R410A)>
空調機や冷凍機には用途に応じた様々な冷媒が用いられており、安全性、環境性、エネルギー効率、経済性など総合的な観点から、もっともバランスの取れた冷媒が採用されてきました。
現在は、オゾン破壊効果を持たないHFC冷媒が普及していますが、HFC冷媒は地球温暖化係数(GWP値)が高いため、その段階的削減を定めたモントリオール議定書キガリ改正が2016年に採択され、日本ではオゾン層保護法により、その生産量と消費量の段階的な削減が進められています。
HFC冷媒に関しては、よりGWP値の低い冷媒への転換が進められており、日本においては、家庭用エアコンや店舗用エアコンはR410A(GWP:1924)からR32(GWP:677)への移行がすでに完了し、ビル用マルチエアコンについても2025年から同様の転換が進められる予定です。
HFC冷媒の生産量と消費量が段階的に削減されていくなか、R410Aの既設機器のサービス用冷媒需要が当面の間続くため、このままでは供給が需要を下回る可能性があり、冷媒の安定供給のためにも、回収した冷媒の再生が期待されています。
冷媒製造、再生処理、破壊処理の実際のプラントデータを、関連企業7社の協力を得て収集し、LCA評価はTCO2株式会社に、第三者検証は東京都市大学 伊坪徳宏教授に依頼してGHG排出量、エネルギー消費量、LIMEの3つの指標を用いて評価を行い、その結果を三者共同で査読論文にまとめました。
詳細な内容については下記にて公開されているオープンアクセス論文をご参照ください。
Yasaka, Y.; Karkour, S.; Shobatake, K.; Itsubo, N.; Yakushiji, F.
Life-Cycle Assessment of Refrigerants for Air Conditioners Considering Reclamation and Destruction. Sustainability 2023, 15, 473.
https://doi.org/10.3390/su15010473