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データセンター冷却を支えるアプライド空調技術|
ダイキンがAIデータセンター向け大型圧縮機を日本主導で開発
FEATURE
2026.06.30

データセンターのハイパフォーマンスを維持するための冷却技術。

これはダイキン工業(以下、ダイキン)が、グローバルでアプライド開発の組織を再構築し、取り組んできた喫緊の課題です。ダイキンでは、昨今のデータセンター需要の高まりに対応するため、大型圧縮機をはじめとするアプライド空調機器の開発を進めています。

本記事ではデータセンター冷却の中核技術開発に携わったダイキン テクノロジー・イノベーションセンター(以下、TIC)の原田正太氏、井上達貴氏、そしてアプライド・ソリューション事業本部の西村友香氏に、開発の様子について伺いました。




アプライド空調機器の新たな需要とデータセンターならではの要求

――成熟市場を再び活性化させたAIデータセンター

西村:先進国の一般空調市場は成熟しており、大きな需要の高まりはこれまで見られませんでした。しかし、北米を中心にデータセンター建設が相次いでおり、2022年と2024年のチラー機器市場規模の比較では、北米が2.5倍、ヨーロッパが1.5倍と急激に需要が高まっています。2022年以降、対話型生成AIサービスの普及をきっかけに、生成AIが私たちの生活に浸透し、なくてはならない社会インフラとなりました。生成AIの稼働に必要なデータセンターの需要が高まるなか、アプライド空調機器の重要性も改めて見直され、求められる役割が、「人に快適な空間環境を提供すること」から、「データセンターで発生する熱を冷やし続けること」へと、より厳しいものに変化してきています。

――大型施設や工場からデータセンターへ

西村:アプライド空調機器とは、病院や学校から工場まで、業務用や産業用を対象とする大規模空調システムです。チラーで冷水(温水)を作り出し、エアハンドリングユニットなどの二次側機器に送り込んで冷気や暖気を供給します。

データセンター向けのアプライド空調機器に求められるのは、顧客ごとのカスタマイズと短納期対応です。ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)各社はデータセンターの設計に対して独自のノウハウを持っています。私たちはそれを前提として、各社に最適な冷却能力を担保しなければなりません。変化の激しいAI業界ならではの要求として、これまで以上に納期短縮も求められています。

――空間冷却からラック冷却・チップ冷却へ


原田:サーバールームの冷却とは一般的なアプライド用途と同じように、室内全体を冷やすものです。サーバールームには熱源となるサーバーラックが数多く設置されており、熱溜まり(局所的な高温箇所)を作らないように温度をマネジメントしなくてはなりません。単位空間あたりの発熱量が高いという点が、従来とは大きく異なる点です。そのほか、サーバーラック冷却やチップ冷却も含めて、ダイキンは総合的な冷却ソリューションを提供しています。

 

データセンターで求められる3種類の冷却



ダイキンが挑むターボ圧縮機開発

――プロジェクトの核となるターボ圧縮機

原田:アプライド空調機器にはスクリュー圧縮機やターボ圧縮機が必要不可欠であり、TICが技術開発に取り組んでいます。その中で、我々が今取り組んでいるのは、より冷却能力の高いターボ圧縮機の開発です。扇風機の羽のような形をしたインペラという部品を回転させて流体を圧縮するのがターボ圧縮機の特徴です。他社に先駆けて回転部に採用した磁気軸受がダイキンの強みです。

 

ターボ圧縮機の全体図。高速モータによりインペラが回転し、流体を圧縮する。



――重い軸を非接触で回転させる磁気軸受

井上:軸受とは回転する軸を支持する部品で、通常はベアリング(玉やころ)を使用するところ、磁気軸受では磁力で軸を浮上させます。全長1m以上の大型圧縮機の軸をわずか0.1〜0.2mmだけ浮上させることで、非接触で滑らかな回転を実現しています。回転部の総重量は約120kgありますが、それを200μm(0.2mm)以内の振れに収める制御は、非常に精密で難しいものです。私の担当領域はソフトウェアですが、それだけでは磁気軸受の精密な制御には対応できません。機械、電気、熱管理などほかの領域の担当者と連携しながら、ターボ圧縮機の回転を支える開発を進めています。


圧縮機の高効率・軽量化に大きく貢献する磁気軸受

――終わりのない改善を重ねる

原田:ダイキンの強みは圧縮機の主要部品を内製していることです。インペラは回転することで流体を圧縮しますが、渦が発生するとエネルギーロスが生まれ、効率が低下します。高効率で省エネ性の高いインペラ開発は、プロジェクトに求められる重要事項の一つです。

省エネ性能はモータにも求められます。加えて現在のモータにはレアアースを使用していますが、昨今、レアアースの価格が高騰して調達が難しい状況が続いています。そのため、使用量削減の取り組みも進めています。このように、ターボ圧縮機の各々の主要部品の開発を進め、改善を重ねることが私たちの使命です。




TIC初の磁気軸受ターボ圧縮機開発の完全内製化への挑戦

――世代を追うごとに内製化が進んだ磁気軸受ターボ圧縮機

原田: ダイキンの磁気軸受ターボ圧縮機は2024年に第3世代が市場展開され、現在は第4世代の開発を進めています。その歴史は、内製化とともに紡がれてきました。第1世代ではモータや磁気軸受の開発をアウトソーシングで行っていましたが、第2世代では磁気軸受を、第3世代ではさらにモータを内製化しました。また、第3世代まではインペラの開発をアウトソーシングしていましたが、第4世代では内製化しています(開発中、2026年6月現在)。また、第3世代の課題であったコストについても、さらなる低減を目指しています。

一般的なアプライド開発で求められる冷水温度は7℃程度ですが、最先端のデータセンター向けで求められるのは20℃を超えており、今後も高くなる見込みです。データセンターでは人向けの空調と異なり露点温度をそれほど気にしません。また、低温の外気を冷却に活用するフリークーリングなど、PUE(※1)を最小化する設計が採用されています。わずか13℃の違いですが、対応するためにはターボ圧縮機の大きな設計変更が必要です。また、第4世代では3種類の形状のインペラを用意しており、冷水温度や圧力などお客様の運転状態に合わせて選択できるようにしています。

――すり合わせがしやすくなり、責任の所在が明確に

井上:体制変更後は日本主導で開発を進めており、実験を積極的に進められるほか、シミュレーションとの突き合わせも容易になりました。求められるのは各要素の部分最適ではなく、全体最適(すり合わせ)です。実機を使ってタイムリーに試験結果を得ながら開発できるため、日本が得意とする「すり合わせ技術」を生かせています。アプライド空調機器には多様な機種のラインアップが求められますが、仕事の進めやすさは開発スピードの向上にも寄与しています。


原田:責任の所在を日本に集約できたことも良い変化です。かつては開発責任が世界中の部署やグループ会社に分散していました。各々がリスクヘッジのためにバッファーを持つため、コストアップにつながっていたのです。しかし、現在は全体を俯瞰して、日本でリスクコントロールできるため、より適切な判断ができるようになりました。



TIC・グローバルアプライド開発グループで活躍する3名の経歴

――前職の経験を生かしてプロジェクトのリーダーに

原田:私は重工業メーカーでジェットエンジンのインペラなどの設計を10年経験した後、2022年に入社しました。入社後はターボ圧縮機の効率改善に携わり、2024年のプロジェクトリーダー就任後は、ターボ圧縮機の各要素技術の統合やプロジェクト推進の責任者を務めています。


2025年にアプライド空調機の開発体制が大きく変更になり、それまでアメリカ主導で行われていた開発が日本主導で行われるようになりました。そのなかでTICが大型圧縮機開発を担うことになり、グローバル全体の圧縮機開発を進めているところです。ターボ圧縮機はさまざまな要素技術から成り立っている製品で、一つの変更が圧縮機全体に影響を及ぼすこともあります。そのため、プロジェクト全体を視野に入れて全体最適の視点を持つことが求められます。

――インバータ開発を経て磁気軸受の開発担当に

井上:私は2015年に新卒で入社しました。入社後はビル向け空調機のインバータ開発を4年ほど経験し、その後、社内で立ち上がったアプライドグループに異動しました。2021年頃から第3世代の圧縮機の開発がはじまり、大型圧縮機の磁気軸受の担当になりました。アプライド開発では大きな組織変更の直後ということもあり、柔軟に対応できる部分がまだ残っています。そのため、担当領域の異なる関係者間のコミュニケーションを大切にして、組織として圧縮機開発を進めています。


――海外経験を経て得た視点でTICをサポート

西村:私は2015年に新卒で入社後、アプライド・ソリューション事業本部に配属され、中国・アメリカ・欧州向けのアプライド商品戦略など、事業推進をサポートしてきました。その後、DAA(ダイキン・アプライド・アメリカ)に1年間赴任して、ルーフトップ(屋上設置型の空調機器)の開発に携わりました。2025年にアプライド開発強化に向けて発足したグローバルアプライド開発グループに異動し、現在は空冷ターボチラーの商品企画担当として、グローバルの各拠点と連携しながら日本での開発体制をサポートしています。

グローバルアプライド開発グループは、アプライド・ソリューション事業本部の中に新たに設置した開発機能として、課題解決のための技術的な視点と、事業展開を踏まえた経営的な視点の両方が求められます。ダイキンの海外アプライド開発の歴史を紐解くと、McQuay International社を傘下に持つOYL社という会社の買収から始まっていますが、まだ十分に将来的なシナジーが期待できると考えています。



日本を中心とするグローバル開発体制とTICで働く面白さ

――グローバルで進めるコンカレント開発

原田:第4世代磁気軸受ターボ圧縮機のプロジェクトにおいては、TICが圧縮機の主要コンセプトを開発し、グローバルアプライド開発グループが熱交換器や配管など製品システム全体の開発を担当しています。これらを統合した「ベースモデル」をグローバルの各拠点がそれぞれの仕向地向けに最適設計を行い、市場展開します。これはコンカレント開発という手法で、TIC・グローバルアプライド開発グループ・各拠点が同時並行的に開発・設計を進めています。

西村:アプライド開発は通常2〜3年かかるのに対して、データセンター市況はもっと早いサイクルで変化します。そのため、求められる仕様や能力が開発途中で変更となることもあり、各拠点との密なコミュニケーションは避けられません。それをTICにスムーズにつなげていくのもグローバルアプライド開発グループの役割の一つです。

――自由と責任がセットだからこその面白さ

原田:TICはもちろん、ダイキンでは「やりたい!」と手を挙げる人が仕事をしやすい環境です。やりたいことのある人が提案し、許可が得られれば自ら開発を進められます。若手の意見を尊重する文化も根付いているため、自由に意見を言いやすい雰囲気は十分にあります。もちろん、仕事なので辛い場面もありますが、プロジェクト参加メンバー一人ひとりが、自分事として開発と真摯に向き合うことができ、「これは自分が開発したものだ」と胸を張って言える職場だと思います。

井上:アプライド開発の醍醐味は、なんといってもスケールの大きさです。時代の最先端技術であるデータセンターに関わる大きな機器を開発から組み立てまでを手がけ、実際に動く瞬間を見届けることができます。意見が通りやすい風土、発言に求められる責任、最後までやり抜く達成感。これらはすべてアプライド開発の面白さにつながっています。

原田:面白さの反面、タフさも求められます。プロジェクトを成功させることはもちろんですが、アプライド事業を発展させていくことも大切です。ダイキンのターボ圧縮機開発は発展途上であり、まさに「道なき道」を進むようなイメージです。ダイキンはアプライド事業においても、グローバルナンバーワンを目指しています。そのためには、開発メンバーの実力もナンバーワンでなければなりません。なかなか思うようにいかず、苦しい思いをする場面が必ずあります。そこにきれいごとはありません。泥臭くがむしゃらに乗り切ることが必要なのです。



今後の展望と求職者へのメッセージ

――求めるのは一緒に前に進める仲間



西村:アプライド空調機器は単なる空調ではなく、文化・経済活動を支える社会インフラです。ダイキンはそんな市場でナンバーワンを目指しているため、チャレンジ精神旺盛な仲間を求めています。

井上:データセンターは非常にホットなトピックで、空調機器メーカーとして歴史が変わる瞬間に立ち会えるのはとても貴重なことです。時代の変化に対応するための組織改革を行ったこともあり、まさに道なき道を歩いているという感覚です。どうやって道を切り開いていくのか自ら考えられる人、そしてどんな困難も仲間と一緒に乗り越えられる人と働きたいですね。


原田:求めるのは野心的な人です。ホットな市場で、ここまで社会貢献できるチャンスが溢れた市場はそう多くありません。その分その渦中にいる私たちは毎日忙しく開発を進めています。成果を上げるために、がむしゃらに新しいことに食らいついていけるような野心的な人が、きっとダイキンに向いていると思います。がむしゃら度合いで私に負けないという人がいれば、ぜひとも手を挙げてほしいですね。

 

 

 

※1)PUE:Power Usage Effectiveness。データセンター全体の消費電力を、IT関連機器の消費電力で割った値。1.0に近いほど電力効率が高いデータセンターといえる。

Shota Harada
テクノロジー・イノベーションセンター

2022年4月入社。長崎県出身。
ターボ圧縮機の統合設計・プロジェクト責任者を担当。ダイキン独自のターボ圧縮機を開発し、お客様・社会の課題を解決していきたい。
Tatsuki Inoue
テクノロジー・イノベーションセンター

2015年4月入社。兵庫県出身。
制御・電気回路技術を活用したターボ圧縮機用磁気軸受の開発を担当。磁気軸受技術を飛躍させ、高効率で信頼性の高い空調システムを提供していきたい。
Yuka Nishimura
アプライド・ソリューション事業本部 

2015年4月入社。神奈川県出身。
データセンター向け空冷ターボなどアプライド機器のグローバル商品企画を担当。ダイキン技術をアプライド製品に活用し、新たな価値を届けたい。
※記載内容とプロフィールは取材当時のものです。


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