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ダイキンのアルテルマ4が欧州で選ばれる理由
FEATURE
2025.12.16

暖房性能と環境性能、それに静音性も兼ね備えた欧州向け温水用ヒートポンプ暖房給湯機「ダイキン・アルテルマ4」。仕向地は欧州ですが、メインとなる技術開発を行ったのはダイキン工業(以下、ダイキン)の日本の開発チームです。

 

今回はアルテルマ4の開発のなかでも、暖房給湯機を構成する各機器のアッセンブリや、静音性の開発を行ったテクノロジー・イノベーションセンター(TIC)の久山和志氏、岡恭彦氏、ならびに芥川一樹氏に開発秘話を聞きました。

 

ヒートポンプで切り開く環境課題

――欧州を取り巻く環境規制とヒートポンプが注目される理由


岡:2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、CO2排出量を削減する動きが全世界的に加速しています。そのなかでも欧州は特に感度が高く、化石燃料を使用するボイラーからヒートポンプを利用した暖房機への転換が期待されています。

 

当初は効率が高くCO2排出量が少ないガスボイラーの導入が進められていました。しかし、それだけでは、カーボンニュートラルを達成できるほどのCO2排出量削減が難しいのが現状です。そこで、より踏み込んだ対策のためにヒートポンプが必須とされているのです。

久山:ボイラーの他にも電気ヒーターという選択肢もあります。しかし、いずれも効率がそれほど良いとはいえません。一方、ヒートポンプは入力するエネルギー1に対して、出力されるエネルギーが3~4倍いわれています。

効率が高いとそれだけランニングコストも下がるため、エネルギー価格高騰の影響を大いに受けている消費者の目線からも、ヒートポンプは魅力的な暖房機器です。

 

アルテルマ4とは何か

――アルテルマ4の特徴を一言で表すと

岡:「基本に忠実な優等生」という言葉がアルテルマ4らしいと思います。アルテルマ4のコンセプトは、省エネ性・低騒音・大能力です。ヒートポンプの特性を活かした高い省エネ性能に加え、70℃のお湯を作る大能力と、クラス最静音の28dB(A)を誇ります。28dB(A)というのは人が囁く程度の音なので、いかに静かなのか伝わると思います。

 

例えば、性能を高くすると静音性を犠牲にしなければならないなど、本来ならコンセプトに挙げた条件はトレードオフの関係になります。しかし、いずれかも犠牲にすることなく、基本性能を高いレベルでバランスさせたのがアルテルマ4なのです。

 

久山:これらに加えてアルテルマ4ではデザインや導入のしやすさも追求しました。欧州のお客様は機能だけでなくデザインにも敏感なため、室内機はもちろん、室外機も住宅の外壁に溶け込むデザインにしました。また、アルテルマ4は既設の住宅にも導入しやすいよう、既存のラジエーター(蒸気や温水の供給により熱を発散させる暖房装置)をそのまま使える仕様にしてあります。また、14kWなど能力レンジの高いモデルは、断熱性能やラジエーターの能力が低めの既設住宅にも対応できるように設計しました。

 

デザイン性の高いアルテルマ4の室外機

欧州市場のいま|規制とリアルな声

――日本以上に厳しい欧州の環境規制

岡:欧州は世界的にも環境問題への関心が高いのは先に述べたとおりです。それは温室効果ガスであるフロン(代替フロン)の抑制を目的とした「Fガス規制」にも表れています。Fガス規制ではGWP(地球温暖化係数)が一定以上の製品の販売が禁止されているほか、一定以下の製品でも「クォーター枠」と呼ばれる総量の規制と、段階的な削減が謳われています。

 

Fガス規制に対応するため、アルテルマ4で使用しているのが、従来の冷媒よりGWPの小さい自然冷媒「R290」です。従来は「R32」というGWP675の冷媒を使っていましたが、R290のGWPはわずか3です。

 

また、温室効果ガスの排出量を1990年比で少なくとも55%削減するという「Fit for 55」という政策があり、実現に向けて様々な規制が展開されています。これは空調機や住宅だけでなく、全産業の目標値ですが、いずれにしても非常に厳しい規制につながっています。

 

――騒音規制も厳しいという現実

久山:環境性能はもちろんのこと、住宅における静音の厳しい規制もあります。これはそもそも音がほとんどしないボイラーを前提に作られたものですが、室外に騒音源が少ないボイラーと違い、ヒートポンプでは必ず室外機が必要です。しかし、アルテルマ4もこれに準じなければなりません。

 

また、規制が厳しいことに加えて現地のお客様の感度も高く、騒音が大きいということで近隣から訴訟を起こされることもあるとのことです。そのため、28dB(A)という人が囁く程度の騒音レベルを達成する必要がありました。

 

仕向地によって規制は異なりますが、もっとも厳しいとされる欧州向けの開発を実現できれば、他の仕向地にも自信をもって販売できます。また、欧州各国ではヒートポンプの導入のためのさまざまな補助金制度が用意されています。ヒートポンプの普及やお客様の導入障壁を下げるため、制度要件のクリアはマストです。

 

アルテルマ4の室内ユニットと室外機。室内ユニットには壁掛けタイプと据え置きタイプがある。

開発ドラマ|省エネ性・大能力・低騒音を両立しなければ、という命題

アルテルマ4の開発では効率・能力の向上、騒音の低減と二段階の開発が行われました。それぞれの開発にはどのような困難があったのでしょうか。

省エネ性&大能力を生む「心臓部」

――冷媒を変えたことによって発生した課題

久山:まず前提として圧縮機や熱交換器は別のチームが開発し、私たちはそれらのアッセンブリと静音性の開発を行いました。それを前提に、別のチームから聞いた話をお伝えします。

 

岡:R290という自然由来の冷媒はGWPが低いかわりに密度が小さく、冷媒回路中の循環量を従来より増やさないと、必要な性能に到達しないという問題点があります。そのため、冷媒回路中に冷媒を追加する「インジェクション」や、追加する冷媒の量を管理する「エコノマイザサイクル」を改善してもらい、必要な能力を発揮できる圧縮機を開発してもらいました。

 

しかし、密度が小さい冷媒を使用しながら必要な能力を発揮できるようにした結果、機器の大型化や回転数の増加により騒音レベルが大きくなってしまったのです。

 

「静かさ」への挑戦

――低騒音化のために取り入れた業界外の知見

岡:騒音源の一つとして室外機のファンがあります。まず、ファンの開発チームにそもそも低騒音のファンを作ってもらいましたが、熱交換器との位置関係によって騒音レベルが変わってきます。これは空気の渦ができる位置が変わったり、空気の流れが他の部品と干渉したりするためです。この問題に対して、ファンの開発チームは過去のデータを用いた風の流れに対する知見がある一方、私たちも過去の経験から、騒音源になりそうな部分は分かっています。お互いの知見を持ち寄ってシミュレーションすることで、ファンと熱交換器の騒音(送風音)最小化を目指しました。

 

久山:騒音につながる原因の1つとして、ファンモーターの台座の強度が低いと「ビビリ」と呼ばれる小さな振動(機械音)が発生することが挙げられます。この対策として、ファンモーターの固有振動数を考慮した設計を行っています。

 

機械音を抑えるための簡単な方法は板厚を上げて重量を重くすることです。しかし、それでは使用する材料が多くなるほか、運搬や設置が大変になり余計なコストがかかってしまいます。例えば板厚を2倍にするなら、同じ厚さの板を2枚重ねて使用する(二重壁)ほうが低騒音化に対する効果が圧倒的に大きいことが分かっています。そのため、騒音の低減と板厚のバランスを取りながら28dB(A)という低騒音を実現しました。

 

実は、二重壁は住宅や自動車で用いられている対策です。騒音対策として空調機以外の製品にも目を向け、住宅や自動車で用いられる静音技術を見つけたので取り入れました。

 

――アルテルマ4とともに成長したエンジニア

芥川:アルテルマ4は私にとって初めての開発テーマでした。当時はまだ入社3年目で、右も左もわからない状態でしたが、同じグループの先輩をはじめ、各分野に詳しい社内の先輩に分からないことをとにかく聞いてまわりました。

それから4年経った今では静音に関する知識や経験が豊富になり、外部とのやりとりを一人で行ったり、会議の内容を関係者に分かりやすく伝えたりと、開発メンバーの一員として役に立っているという自負があります。

 

グローバルプロジェクト|海外拠点との意識のギャップ

 ――開発完了まで粘り強く続けた欧州の開発チームの協力体制


久山:アルテルマ4の開発は、欧州の開発チームと共同で行いました。具体的には日本の開発チームが製品化を前提とした詳細な技術開発を行い、欧州の開発チームが製造に必要な金型の調整や、販売に必要なクリアすべき規格に対する調整などを行ったのです。

 

岡:芥川さんはアルテルマ4の開発において非常に活躍してくれました。TICで開発した技術をEDC(EMEA Development Center)に伝える役割を担ってくれ、技術そのものだけでなく計算根拠なども含めてきちんと意思疎通ができていたと感じています。

 

実験結果(騒音結果)が日本と欧州で異なるといった状況になることもあり、その際は現物を見ながら議論する必要があります。そのときにも芥川さんが一人で現地に行って対応してくれました。

 

芥川:開発時の普段のやりとりは、日々のメールと週1回のオンラインミーティングで、現地へは3か月に1回ほど行っていました。開発が佳境になるにつれて滞在期間が長くなり、最終的には2か月弱ほど現地に滞在して開発に奮闘しました。

 

私は入社前から英語には慣れ親しんでいたため、言語のハードルはありませんでした。しかし、日本と欧州における意思疎通や目標達成の考え方に戸惑ったことがあったのです。

欧州の開発メンバーはプロフェッショナルやスペシャリストというイメージで、測定なら測定、分析なら分析と、その分野なら誰にも負けない自負のある方が揃っていました。そのプロ意識の高さがあるがゆえに、分野を横断して意思疎通を図るのが、やや大変という印象でした。

また、これも文化や習慣の違いですが、欧州の方は日本人より目標達成に対する考え方がややドライだと感じました。一方、私は迫りくる納期に間に合わせるため、粘り強く開発を進めたのです。

 

心のなかには「ここで諦めてしまったら、他社に負けてしまう」という悔しさもありました。そんな私の姿を見て「遠くからはるばるやってきた日本人を助けてあげよう」と思ってくれたのか、最終的には欧州の開発メンバーの強力なバックアップもあり、どうにか開発目標をクリアできるアルテルマ4を完成させることができました。

 

 

 

なぜダイキンは実現できたのか

――ダイキンならではの強みとワンチーム文化

岡:温室効果ガス削減に向けた取り組みとして、ボイラーメーカーもヒートポンプを利用した暖房機の開発を進めています。しかし、ボイラーメーカーは圧縮機や熱交換器などを自社開発する技術がなく、それらを調達してアッセンブリするにとどまっています。

 

しかし、私たちは長年ヒートポンプを開発してきた歴史があり、自社開発できるだけでなく、世界的な競争力をもつヒートポンプを世の中に送り出せます。また、欧州という特に厳しい環境規制のある仕向地にも対応できる開発力も、ダイキンならではの強みだと思っています。

 

久山:私たちが所属するTICは先行開発を行う部署ですが、アルテルマ4の開発は実際に商品を作る生産本部との協創プロジェクトでした。

部署の垣根を超えてチームを組み、到底達成が難しいと思われる目標さえもクリアする力を持っています。この文化も、ダイキンならではの強みの一つです。

今後の展望

――ヒートポンプと開発メンバーの今後の展望


久山:アルテルマ4の開発には成功しましたが、まだ欧州のヒートポンプ暖房給湯機のすべてを自然冷媒化できたわけではありません。高性能化や静音化についてもまだまだ改善の余地を広げていきたいと思います。また、アルテルマ4は欧州向けの製品として開発しましたが、今後は中国や北米でも展開できればと思っています。

 

それを踏まえた個人的な目標としては、今後も世界中のお客様のニーズを拾うとともに、テーマとして取り組んで実用化につなげていきたいです。また、そういった技術を下の世代に伝えていくことも必要だと思っています。

 

岡:欧州、北米、日本と住宅を温める考え方は異なります。欧州は高温水で家をまるごと温めるのに対して北米は温風で温めます。また、日本は家をまるごとではなく、各部屋ごとに最適な暖房が求められます。

しかし、いずれも環境問題に配慮しなければならない点は共通しています。そのため、効率の良いヒートポンプを欧州から世界中に広げていきたいと思っています。

芥川:アルテルマ4の開発では、当初、専門知識がなかったこともあり、目の前の自分のことで必死にならざるを得ない状況でした。今後は誰にも負けない自分だけの強みを作っていこうと思います。

 

――未来のダイキンの仲間へメッセージ

久山:私たちはグローバルを相手にしている会社です。グローバルで活躍したい方や、海外赴任に興味のある方と将来一緒に働けることを楽しみにしています。

 

岡:世界中の環境を守るために、一緒にヒートポンプを開発してくれる方をお待ちしています。

 

芥川:欧州やアメリカ、それに中国だけでなく、グローバルサウスも注目すべき地域である一方、最近インドに新しい工場を建てました。グローバルで活躍したい方と、ぜひ一緒に働ければと思っています。

 

 

 

※記載内容とプロフィールは取材当時のものです。
Kazushi Hisayama

テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師

2008年4月入社。兵庫県出身。
冷凍サイクル技術、低騒音化技術、暖房給湯商品開発を担当。業界No.1の低騒音商品、ヒット商品と言われる商品を企画し、商品化し続けていきたい。
Yasuhiko Oka

テクノロジー・イノベーションセンター チームリーダー

1992年4月入社。大阪府出身。
冷凍サイクル技術を担当。入力1に対して出力が3にも4倍にもなるヒートポンプの省エネルギー技術にこれからも携わっていきたい。
Kazuki Akutagawa

テクノロジー・イノベーションセンター

2019年4月入社。広島県出身。
構造設計、主に低騒音化を担当。現在からみれば突拍子のないことでも、将来的には常識となっているような技術を創り出したい。

 

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