これまではルームエアコン「うるさら7」に代表されるプロダクトのデザイン、空気を操るための新しいインターフェースのデザインなど、さまざまな領域のデザインをしてきました。ちなみに、ここテクノロジー・イノベーションセンター(TIC)のオフィス空間のデザインにも携わっています。
私の仕事やデザインの領域は、どんどん広がり、変容しています。例えば、今回紹介する「コミュニケーションデザイン」という仕事もそうです。ダイキン工業は空調だけではなく、これから「エネルギー・ソリューション」事業にも踏み出そうとしています。エアコンや空気清浄機などはっきりとした形のあるプロダクトとは違って、エネルギー・ソリューションのような社会インフラ事業には、形も色もありません。
その目に見えない価値を世の中の人々にどう伝えていくか。そこでコミュニケーションデザインという方法によって、社会との「つながり」や「ブランド」を創出していくことが非常に大切であると考えています。
企業の思いや価値を、一貫した強いメッセージとして発信する
ダイキン工業は、マイクロ水力発電システムを用いて発電事業を行う子会社「株式会社 DK-Power」を2017年6月に設立しました。これまで培ってきた省エネ技術を応用した再生可能エネルギーによる創エネ事業に取り組みます。
このスタートアップ企業の立ち上げに際して、私はコミュニケーションデザインの担当として関わりました。通常の企業では、プレスリリースは広報部門が担当、ウェブサイトなどプロモーションは広告部門が担当と、それぞれの専門領域で分業をしています。しかし今回我々は、このDK-Powerの関係者すべての思いを汲み取りながら、広告や広報の仕事にも横断的に関わることで、DK-Powerが社会にもたらす価値を一貫した強いメッセージとして発信する、ということに取り組みました。
なかでも重要な仕事として、ロゴデザインがあります。デザイングループのメンバーでいろいろなアイデアを出し合いながら、スタートアップ企業の思いやブランド・ストーリーを凝縮して表現し、事業を進める人々が誇りに思えるロゴとシンボルマークを仕上げるよう努めました。
すべてのデザインの最終的な目的は「伝えること」
私はもともと、プロダクトデザインの仕事をしていた時から、きれいな形や色のものを作って終わりということではなく、営業の担当者にもデザインのコンセプトをできるだけ言語化して説明し、そこを十分に理解し共感してもらってから販売促進に取り組んでもらう、ということを心がけてきました。「言葉で伝えること」すなわち「コミュニケーション」は、我々デザイナーの仕事において非常に大切な要素であると考えています。
逆にいえば、プロダクトデザインもグラフィックデザインもインターフェースデザインも、「伝えること」が最終的な目的であって、例えばプロダクトの形であるとかグラフィックの色、あるいはインターフェースの画面は、手段の違いでしかありません。
コミュニケーションデザインの仕事をはじめて、2年目になります。プロダクトデザインの仕事とは表現の手段が大きく変わったことで試行錯誤をしていますが、お客様に商品やサービスの価値を伝え、それを感じていただくための触媒になるという点では、デザインの役割はすべて同じだと言えるでしょう。
人々とつながることでブランドは育っていく
「ブランド」は我々が一方的に作るものではなく、伝わることで少しずつ人々の頭の中で醸成されていくものです。ブランド作りはロゴが決まったらおしまい、ということではありません。例えば名刺であったり広告であったり、ロゴがさまざまな媒体を介して世の中に拡散して、多くの人とつながることでブランドは育っていきます。だからこそ、それが間違った方向に行かず正しく伝わるよう、我々としては丁寧に発信しつづける必要もあります。
ダイキン工業の事業はBtoCだけでなくBtoBの事業領域も広く、すべての商品やサービスが一般のお客様の目に触れるわけではありません。そのような中で、「見えない空気を愛されるものに」という我々の思いをいかに社会に広めていくかが、コミュニケーションデザインの重要な仕事です。
今後も、インスタレーション作品の展示やビジュアルの制作などにも取り組みながら、企業のブランドやまだ知られていない新しい価値をより良いかたちで伝えていきたいと思います。