IoT時代に必要なのは、体験価値を高めるUI
あらゆる機器が、あらゆる人々の、あらゆる暮らしのシーンとつながる――そうしたIoTが普及する中で、ますます重要になってきているのが顧客の心を動かす体験価値(UX)です。この体験価値をかたちづくる上で重要な要素がUIだと思います。
目の前に存在しない機器をアプリケーションで遠隔操作するシーンも多くなるため、「操作の実感がない」といった不安や不満が生じてしまいがちです。
今回、ご紹介するのは「見えない空気の見える化」に取り組むダイキンがデザインした、空気を操作するアプリケーションです。エアコンや空気清浄機、環境センサーなどの場合、操作する機器が目の前に存在しないことに加えて、温度変化など、機器を操作して得られる体験も目には見えないものです。IoT時代に、より高いUXが得られるUIデザインについて、この"見えないづくし"の実例を通してお伝えしたいと思います。
見えない空気を、見えない機器で操作するために
家庭用エアコン向けリモートコントロールアプリケーション「Daikin Smart APP」で目指したのは、「空気を操作する心地よさ」を感じられるUIデザインです。そこで、まずアプリケーションで操作する必要のある機能を絞り込んで再構築。見やすくシンプルな構成に仕上げました。また、使用頻度の高い機能や情報の画面デザインは、象徴的なグラフィックで表現することで、直観的に理解し操作できるようにしました。
使用頻度がもっとも高いエアコン操作画面は、サークルにデザインした画面の中央部を見れば、電源のオン・オフ、冷房、暖房、送風などの運転モード、現在の温度がひと目でわかります。また温度は、なめらかなスクロール操作で簡単にコントロールすることができ、設定温度に応じて色の濃淡が変化することで、見えない空気を操作している実感と心地よさを味わうことができます。
エアコンは、日本だけでなく世界中の人々の生活に欠かすことのできないもので、IoTの普及によってアプリケーションもグローバルスタンダードであることが求められます。例えば、「暑い」「寒い」の感じ方や、それを表す色の概念などが国や地域によって異なるので、それぞれの傾向を細かく検証。多言語を網羅したレイアウトやピクトグラムを活用し、各国の嗜好に合わせた拡張機能設定なども取り入れています。
UXを高めるために、理性と感性の両方の観点を持って追求しました。
人とモノ、そして未来をUIでつなぐ
今私たちは100年ぶりともいわれる産業構造転換期の真っただ中にいます。デジタルやソフトウェアの産業化が急速に発達しており、ジェスチャーや生体情報、日常の中で何気なく口にした言葉等によって、いつの間にか自分にとって快適な空調になる、といったことも現実になりつつあります。機器を安心して操作できることを"使いやすさ"というならば、操作していないつもりなのに、機器を安心して思い通りに操れていることを"使わないやすさ"と呼べるかもしれません。
人とモノをつなぐUIがかたちを変えていく中、従来の機器の設定を変えるためのUIではなく、この"使わないやすい"UIを創り上げることで、今までだれも体験したことがない、安心で心地よい空気や空間を与えることができるかもしれません。
しかし、まるでSF映画のようなインターフェイスの世界が現実になったとしても、UIデザイナーは、多くの人に体験価値を提供するという本質を忘れてはいけないと思います。
機能と操作感のバランスを叶え、人とモノがちょうど良い距離感を保つ。そんなUIデザインこそが、未来につながっていくと信じています。