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世界を旅してわかった植物と空気のこと

第3回 暑い国で生き延びるために必要な姿

前回、寒い国の植物が持つ独自性や、そこでしか出会えない美しい景色について話してくれたプラントハンターの西畠清順さん。連載の3回目となる今回は暑い国の植物について語っていただきました。極寒の地とは真逆の、高温や多湿といった環境で生きる植物たちはどんな特性を持っているのでしょうか。

適温が続くと植物は成長し続ける

そろそろ温かくなってくる季節ですね。今回は暑い国の植物ということで、熱帯、亜熱帯、砂漠、乾燥地も含めたお話をしたいと思います。熱帯地域と亜熱帯地域を合わせると、地球上に存在する大部分の陸上植物が、種類の上でも個体数の上でも大きな割合を占めるほど多様性が増します。ただ、ひとつだけ例外があって、砂漠気候の地域や乾燥地、サバンナといったところは極端に雨が少ないため多様性が非常に乏しくなります。

私たち日本人の感覚からすると、春は花咲き芽吹いて、夏は茂り、秋は色づき実って、冬は眠るというサイクルがあって、植物は成長期と休眠期に完全に分かれるものと考えがちです。しかし、熱帯や砂漠の植物にはそうしたサイクルがありません。特に熱帯・亜熱帯植物は常に安定した温度があるので常に成長期なんです。つまり、この世に生まれ落ちてから休むことなく成長し続け、子孫を残して死ぬまで成長を続ける。これが他の気候帯と全く違う部分になると思います。

特殊な例になりますが、砂漠やサバンナにいる植物は、たった1回の雨を何ヶ月もずっと待ち続け、いざ雨が降ると一気に何千、何万、何十万、何百万という芽が吹き出して緑の草原に変わったりする。こういうドラマティックな一面も、ひとつの特徴であると言えるかもしれません。

競争の世界だからこそ他者と共存する

熱帯地域の植物は、寒い国の植物と違ってカラフルな印象がありますよね。実はこれには植物の生存戦略が大きく関わっています。植物は、種の保存のために、花粉を誰かに運んでもらわなければいけませんよね。その方法は大きく分けて3つあり、風によって運ぶ風媒花、鳥に運んでもらう鳥媒花、虫に運んでもらう虫媒花に分かれています。ところが、熱帯地域のような膨大な種類の木や植物がある中では、なかなか自分を見つけてもらうことができません。
そこで、鳥たちの目を惹くような色の花を咲かせたり、鮮やかな色の実をつけたり、甘い香りを出したりといった工夫が必要になるのです。そうすることで鳥や虫たちに蜜を吸ってもらい、種を遠くへ運んでもらうことができるわけです。熱帯地域には多種多様な虫や鳥などの生きものがいますので、植物はいろいろな方法で自分に合ったパートナーを見つけていきます。その結果、人が見た景色としては非常にカラフルだったり、さまざまな形になるのです。ここが寒い国の単一的な植生と全く違う対照的なところですね。

植物にとって重要な、湿度との関係

人間にとって快適な状態というのは植物にとっても同じで、温度だけでなく、湿度も大きな要素になります。暑い国の熱帯植物の中には、湿度さえあれば土から水を吸わなくてもいいということで、木の上で暮らすことを決めた植物たちもいます。わたしたちの身近で売られているエアプランツがその最たる例です。大体は木にぶら下がっていて根を生やさず、空気中の水分を吸収して暮らしている。着生植物もそうです。他の木にペタッとまとわりついて暮らしている植物で、一番メジャーなのがシダ植物ですね。雨が降って潤った土から水分を吸い上げているわけではなく、空気中の湿度で育っている。つまり、暑い国の植物は湿度ありきで暮らしていると言っても過言ではないということです。

では、何ヶ月も雨が降らない砂漠には湿度がないのに、サボテンはどうやって生きているのか。ご存じのようにサボテンにはトゲがあり、他者から食べられるのを守るとか、日陰を作るとか、いろんな役割を持っているのですが、実はもうひとつ重要な機能を持っています。砂漠独特の朝に沸き立つ霧。寒暖差が激しい砂漠だからこそ出てくるこの霧を集めに集め、トゲの先に集約させて自分の手元にポトリと1滴の水を落とす。この1滴をたくさん繰り返すことでサボテンは生きながらえているのです。このように、サボテンですら水分がない過酷な環境の中で雨水に頼らざるをえない生き方として湿度を利用している。だから湿度も植物にとって非常に重要なファクターだということですね。

旅をする中でわかった大切なこと

私のライフワークは旅をすることが前提で、世界中の植物や自然環境を見て回っているわけですが、旅をすればするほど確実にわかっていくことがひとつだけあります。それは、自分が今暮らしている世界が当たり前と思わない方がいいということです。当たり前の景色や、当たり前の生き方というのは世界に億万通りあって、それは人間も植物も動物も虫もみんな一緒だということ。日本では朝起きたら着替えて、電車に乗って会社に出勤して、というのが当たり前のように思うかもしれないけれど、砂漠の国の民は朝起きたら「今日はうちのラクダたちにどこの雑草を食べに行かせようか」と考えるところからスタートする。それが彼らにとっての当たり前なわけです。

日本の自然環境の中で生まれ育った我々日本人には、「自然といえばこれが当たり前」という感覚的なものがあります。でも、前回みたいに寒い国の植物を学ぶ、考えてみる、もしくは今回みたいに暑い国の植物を考えてみると、全く違う。自分たちの当たり前というものが通用しないわけです。他の気候環境の植物の性質を知ることで、日本に暮らしていて当たり前と思っているこの季節感や自然環境が特殊なんだということがわかってくるし、俯瞰して見られるようになる。だからこそ良さも見えてくる。そこが今回このシリーズでお話しすることの面白い部分なんじゃないかなと思っています。

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