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デザインエンジニアが挑戦する最先端の領域 

豊かな社会や未来を創造する気鋭のクリエイターを発見し、育成と支援を目指す「LEXUS DESIGN AWARD」において第一回の受賞者に輝いた、デザインエンジニアの吉本英樹さん。東京大学で航空宇宙工学を、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートでデザインをそれぞれ学び、テクノロジーとデザインの2つの領域をつないで、唯一無二の世界を創出すべく活動を続ける、デザインエンジニアが捉える「空気」とは……?

デザイナーもエンジニアも目指す場所は同じ、方法が異なるだけ

吉本さんは現在、東京大学先端科学技術研究センターにおいて、産学一体の多彩な協働プロジェクトを手がけています。現在、デザインエンジニアとしてどのようなことに取り組んでおられるのでしょうか。

吉本:
最新の研究については企業さんとのコラボレートが多く、あまり詳しくは語れないのですが、ドローン使った新しいシステムの開発や、人工知能を使ったメディアの開発など、複数のプロジェクトが絶え間なく続いているような状況です。他にも太陽電池モジュールに関係するプロジェクトやメカニカル・エンジニアリングの領域で機械や機構に関わる設計と新商品開発などにも取り組んでいます。
2015年にロンドンで創業したTANGENTでは、ラグジュアリーブランドとのプロジェクトが多く、最初の頃は、アーティスティックな仕事が多かったですね。それが2020年に、東大の特任准教授に着任したころからはTANGENTの方も呼応するような形で、テクノロジーを強く意識した活動にシフトしていると感じています。

僕は、人に会う時、自分はデザインエンジニアであると自己紹介します。では、デザインエンジニアとは何なのか?
まず、エンジニアもデザイナーも、それぞれのものの見方を持っていますが目指すところは、目指すところは、結局は同じだと思います。つまり、“どうしたら物事がより良くなるのか?”ということ。対象が有形物であれ無形物であれ、エンジニアもデザイナーも、ものづくりに携わる人たちです。そういう意味で、目的は同じなんだと思います。

では何が違うのか?いわゆるエンジニアリングという領域は、基本的には、物理法則に支配されるものを対象にしています。その中で、こうすれば効率が上がるとか、速度が早くなるとか、軽くなるとか、性質の向上を目指しています。機械から電気から細胞まで、扱う対象によって様々で複雑な制約があるので、工学というのは極めて細分化されて専門家が分業していますし、ロジカルシンキングといわれるように、体系的に思考することが必須です。
翻ってデザイナーの扱う対象は、人の感情や感覚、かっこいいとか、心地よいとか、エモーショナルな部分が主になってきます。人の感情は物理法則で理解できるものではないので、方程式でロジカルに解が導けない世界で、白紙のキャンパスに独自のアイデアをぶつけていく、そんなイメージがあります。でも、そういうことがじつはエンジニアリングにおいてもとても大事で、ものづくりという目的においては、やはり両方の思考が必須なわけです。

僕がデザインエンジニアと名乗って取り組んでいるのは、普通ならエンジニアが扱うようなテクノロジーを、デザイナーの目線でちょっと斜めの方向から見てみる、ということです。必ずしも、効率は上がらないかもしれないけれど、“なんだかすごくいい感じ”とか“グっとくるよね”とか、人の感情や感覚に訴えるようなテクノロジーの応用を考えるわけです。そうすると、今までのエンジニアの捉え方では考えてもいなかった新しい需要や市場が開けるかもしれない。


そういうことを目指して、性質が違う二つのものの見方を使い分けていくというのが今の感覚です。

強いインパクトを与えてくれた、日本の伝統工芸の素晴らしさ

ラグジュアリーブランドをはじめ、数多くの仕事を手がけてこられました。その中で印象深かった仕事とは……?

吉本:
どの仕事も僕にとってそれぞれに意味がありますが、日本の伝統工芸に現代的なデザインを掛け合わせるようなのプロジェクトでは、自国の文化と深く向き合うことができて、非常にインパクトがありました。
きっかけは「LEXUS DESIGN AWARD」の新しいトロフィーのデザインを任されたことです。「LEXUS DESIGN AWARD」は、僕にとって非常に思い出深いもので、TANGENTの生みの親のようにも思っています。若い世代の学生や駆け出しのデザイナーを対象に行われるもので、まだ世の中に認知されていないダイヤの原石を発掘する、このプロジェクトではそういう取り組みをずっと行っていて、その重要、素晴らしさを表現したいと考えました。

このトロフィーは木材から角柱をつくり、それを一枚のシンプルな曲でスパッと切ったような形状で、その切り口に、LEXUSのアイコンであるスピンドルグリルのようなくびれが出現します。さらに、その出現した面には、緻密に計算されたグラフィックパターンを加工しています。スパッと切ると、中にダイヤの原石が埋まっていて、その原石の輝きを外に引き出す。そんなイメージを創出しました。
トロフィーは秋田県の伝統工芸品、川連(かわつら)漆器による漆で仕上げました。とくにグランプリのトロフィーは、「白檀」という漆に独特の技法を用いて、透漆(すきうるし)の下から銀のきらめきがほのかに透ける、奥深い印象に仕上げました。白檀の透漆は数年、数十年かけて紫外線による経年変化で徐々に透明になるので、受賞者が未来で活躍を重ねると同時に、トロフィーも銀の輝きを増して、より美しく輝いていく、そんな思いも込めています。このトロフィーは、現代的なアイデアが、日本の伝統工芸とそれを継承する人々に出会って、初めて完成することができたと思います。

テクノロジーと伝統の手仕事の融合が、仏教の精神世界を創出

新たなプロジェクトとして、高野山にまつわるお仕事をされたそうですね。

吉本:
最新の動きでは、高野山の名刹「恵光院」に新しく誕生する、特別客室「月輪(がちりん)」の床の間に、金沢箔をふんだんに使用した、幅7mの壁面アート作品を制作・奉納しました。

      
撮影・提供:Kankan

高野山真言密教では「月輪観(がちりんかん)」と呼ばれる瞑想法が伝えられています。月の輪にみたてた真円を見つめ、その月輪を自己の心のなかに映し、さらに自己の身体全体、空間全体へと月輪の心像を広げて、全宇宙にまでそれを広げていく、という瞑想手法です。この月輪観に着想を得て、真円から湧き上がる金箔の渦が、壁面いっぱいに広がり、さらに別の次元の宇宙にワープして広がっていくような景色を表現しています。
月の輪から宇宙全体、そして世に存在する全てへと繋がっていく、弘法大師空海の教えをこの空間で体感して欲しい、そんな思いでつくりあげました。
また、このアート作品と共に、この特別客室の宿泊客のみに提供する新しい瞑想体験プログラムもデザインしました。
「恵光院」では、瞑想のための道場があり、宿泊客は通常、その道場に集まって、お坊さんが瞑想法を教えてくれて、瞑想体験をするプログラムがあるのですが、この特別室に宿泊するゲストには、特別な瞑想体験プログラムとして、自室でこの作品を見つめることによって、プライベートな瞑想体験ができる、というものです。
弘法大師空海の説いた教えが、1200年以上にわたって、現代まで変わらず伝わっていて、それを僕のようなクリエイターが解釈して、また新しい作品を創っていく。高野山には、そのように現在進行形で発展する時間の流れがあり、弘法大師の教えをさらに未来へと様々な形で繋いでいます。この瞑想体験では、「全宇宙と繋がる」という空間的な広がり・繋がりと同時に、そういった脈々と流れる歴史と時間の流れも、感じてもらえればと思っています。

撮影・提供:Kankan

制作にあたっては、金沢箔の名門、株式会社箔一からの制作協力を得て、洋箔、本金箔、アルミ箔など、さまざまな金沢箔の表情を織り交ぜた作品をつくることができました。宇宙に広がる渦のパターンは、コンピュータによる描画と、職人の手作業によるディテールの融合された技によって生み出されています。僕たちの技術と金沢の伝統技のコラボレートで実現した、テクノロジーと手仕事を重ね合わせた作品となっています。

到達点はまだ明確にはわからないですが、伝統工芸とテクノロジーをつなぐことの意味は、非常に大きいと思います。今後もいろいろなチャレンジをしていきたいですが、テクノロジーを活用するとしても、手しごとの素晴らしさ、細部の細部にまで妥協せず、創意工夫を凝らしていくものづくりの姿勢とプロセスは、僕自身、大切にしていきたいです。

誰もが生まれた時から身に纏う「空気」。その付加価値を考える

デザインエンジニアから見た「空気」とは、どのような存在なのでしょう?

吉本:
空気がなければ地球上のほとんどの生き物が死に絶えるわけですから、そもそも大変な価値があるのですが、そこにダイキンさんは付加価値をつけて、『もっといい空気』を創ろうとしていると思います。もっと素敵な、とか、もっと心地よいとか
そこにはテクノロジーの視点はもちろん、やはり、エモーショナルな視点も必要で、エンジニアとデザイナーの双方のアプローチで、最終的にユーザーのためにより良い空気の創造を目指していくのだろうと思います。センシングによる数値とパラメーターだけではなく、人が、全身で、五感で、その空気をどう感じるのか?空気の新たなる体感ってどんなものだろう?そういった“感覚”で空気を捉えるベクトルにも、デザインエンジニアとして大いに注目しています。

さらに、マクロに見ると、空気は全地球で、国境も何もなく繋がっています。部屋の中の空気だって、一見、外と繋がっていないように見えても、空気の交換があるわけですし、その部屋をエアコンで冷やせば、室外機の外は熱くなっている。そういう、繋がった大きな系として空気を捉えると、また新しい空気の負荷価値を考えることができるのではと思います。

今、僕が所属している東大の先端研は、まさに先端の先端で新領域を切り拓いていく場所。ここではいろいろなベクトルが、トゲのようにあらゆる方向を向いています。僕のチャレンジもまだまだ始まったばかりですし、切り拓いていくことの難しさも面白さもしっかりと味わいながら、トゲをもつことを忘れずに、前に進んでいきたいですね。

吉本英樹
吉本英樹 / デザインエンジニア・TANGENT 創業者
東京大学工学部航空宇宙工学科、同大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程修了。2010年より渡英し、2016年Royal College of Art (英国王立芸術学院) Innovation Design Engineering学科博士課程修了。博士 (イノベーションデザイン工学)。2015年にロンドンでTangent Design and Invention Ltd創業。2018年より大阪芸術大学アートサイエンス学科客員准教授を兼務。2020年に東京大学先端科学技術研究センター特任准教授に着任し、先端アートデザインラボを共同設立。
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