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鳥の目で空気をとらえる

Inspire×D

著書『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』で知られる鳥類学者の川上和人さん。鳥の研究のためなら過酷な環境も厭わず、時に冒険家のような装備で無人島や原生林を探索し、棲息する鳥の生態を研究しています。その川上さんにお話を聞くのは、ダイキンで「空気」の可視化に取り組むUXデザイナー・安達千晴。幼い頃から無類の鳥好きな安達が「鳥は空気をどう見てどう感じているのか」について、どうしてもお会いしたかった川上先生と語り合いました。

飛ぶ、伝える、風を感じる。
見えなくても、認識していなくても鳥たちが生きていくために空気は不可欠

安達:
私は小さな頃から、鳥が本当に大好きでした。今もキンカチョウを2羽飼っていまして、とにかく川上先生から鳥のお話をお伺いしたかったのです。学生時代の修了制作の時も、鳥に関するアプリケーションを作ったほどでしたから。

川上:
そういう方がいらっしゃるとすごくありがたいですね。研究者というのは、特に理系の人間はとにかく効率重視だし、「結果がわかればいい」みたいなところがある。一般の人にとってわかりづらいものしかつくることができないので、その間を繋いでくれる立場の人=インタプリターと言われるような人たちが、研究の分野では常に必要とされているのです。安達さんが取り組んでおられるような、専門的な最新技術を一般の人にわかりやすくするためのインターフェースは非常に重要だと思いますね。そういう意味では、「見えない空気を見えるようにして伝えていく」という安達さんのお仕事は本当に重要です。

安達:
ありがとうございます。それで最初の質問ですが、鳥は空気をどう見て、どう感じているのでしょうか?多くの鳥は空を飛ぶ生き物で、それには空気を利用するスキルを進化の中で身につけることができたからなのではないか?と思っているのですが……。鳥の目線からみて、彼らは「空気」をどのように捉えていて、人の目線、感じ方との違いはどのようなものなのでしょうか?

川上:
そもそも空気は目に見えないから、その存在を感じるというのはすごく難しいことだと思います。空気を、ちゃんとそこにある物質として認識できるのは、それこそ人間ぐらいなのではないでしょうか。鳥にとっては他の動物同様、空気は見えない、わからないという感じで、人間と同じようには認識していないだろうなと思います。ただし間接的に、空気の流れである風や気圧などを人間以上に感じとっているだろうと思います。
鳥が飛ぶことができるのは、空気があって、そこに抵抗があるからできることで、空気抵抗がないと鳥は飛ぶことができません。そういう意味では空気は彼らにとってすごく重要です。鳥の特徴を挙げると、一つは飛ぶことがありますが、他に何か思いつきますか?

安達:
卵を生む? 呼吸の仕方?

川上:
まず、コミュニケーションの取り方。鳥は声を使います。声を使うというのは、まさに空気がないとできない。
鳥たちは飛ぶことにも空気を使うけれども、彼らはまた、人間と同じように互いの意志の伝達に、ボーカルコミュニケーションを採用しています。さらに、飛ぶ時にどんな風が吹いているかも重要です。羽ばたかずにグライディングをするような場合、向かい風、つまり風の抵抗があって、彼らは初めて飛べます。一方で、パタパタと羽ばたくような飛び方の場合は、あまり強風だと前に進めませんし、場合によっては追い風の方がスピードが早くなります。

安達:
向かい風、追い風、それぞれに適した鳥たちの飛行があるのですね。

川上:
もう一つ、鳥の習性に「渡り」がありますね。いわゆる渡り鳥たちです。彼らは渡りのルートや時期を決める際に風の強さなどを材料にします。鷹の仲間などは海を越えて南へのルートを取るわけですが、その際に風を絶妙に捉えて、北から南に吹く風に乗って渡っていったりするのです。

安達:
彼らはその一瞬の風、空気をどんなふうに感じているのでしょうか?

川上:
それは鳥自身に聞いてみないとわからないです。でも、彼らの体は羽毛に覆われていますよね。羽毛には様々な機能があって、一つは感覚器官になるような「感覚毛」というのが働きとしてあります。

安達:
センサーのようなものですか?

川上:
近いですね。たとえば人間もうぶ毛が生えていて、そこに蚊が寄ってきてその毛に当たると感じます。髪の毛も同じで、何かが止まったりするとその振動でわかります。それと同じようにたぶん鳥たちも風が吹いてきて、羽毛がちょっと圧迫されたり、逆立ったりすると、「あ、風の強さや方向が変わったぞ」というふうに感じることができる。

安達:
その空気の感じ方によって渡りのタイミングを決めるのでしょうか?

川上:
本当のところは、どうやって決めているのかはわからないですけれども、我々のように天気予報を見て、明日はこの気圧配置だとこっちから風が吹くから行こうとか、もちろんそんなことではない。もともとそういう性質をもっていて、ある風が吹けば、もう行きたくて仕方がない、さあ、飛ぶぞ!となるのではないのかなと考えています。中には失敗して、目的地にたどり着けない鳥もいます。経験を積んで、このぐらいの状態だったらいけるとか、いけないとかを判断して、生存率を上げていくのではないかと。動物が知的な行動をしたりとか、工夫のある行動をしたりするのに対して、人はそれらの動物たちを賢いとか、よく考えているとか思いがちです。

そうではなくて、そういう行動をする、できる個体が生き残っていくのです。
生き残ることができた個体が持っている性質=経験や情報が、次の世代に遺伝して、受け継がれていく。そうすると次の世代もそのような行動をしていく。そしてその系統の個体がずっと残っていくわけです。

空気を巧みに利用して飛翔し、寒暖から身を守る。

安達:
空気は匂いも運びますが、鳥は自分たちの食料になる匂いなども感じているのでしょうか?

川上:
昔から、鳥たちの嗅覚は鈍いだろうと言われています。脳の端っこに「嗅球」という匂いを捉える器官がありますが、それが大きくない個体が多い。キツツキの仲間とミズナギドリの仲間は嗅球が大きくて、嗅覚が鋭いと言われています。最近はそれ以外の鳥たちも、自分が食べ物として利用しているものについては、嗅覚が鋭いと言われています。

安達:
そこにも空気が役割を果たしているのですね。

川上:
一方で自分自身が匂いを発すると、捕食者に見つかりやすくなるという危険性もあります。でもコミュニケーションに匂いを使う鳥もいます。ニュージーランドのカカポという鳥は、「かびたバイオリンケースの匂い」とも言われる独特の匂いがするらしいです。

安達:
気になりますね。空気と環境を考える時、温度と湿度も重要な要素だと思いますが、鳥たちはそのあたりの調整はどうしているのでしょうか?

川上:
まず温度で言うと、カラスは体が黒いですが、黒は熱を吸収しやすいですよね。となると、真夏にカラスは熱々になってグリルになるのでは?と思うわけですが、ならない。羽毛の表面の層と皮膚の間に、空気の層があるからなのです。表面で温度が熱くなっても、空気の層が遮ってくれて、熱々のところが直接体の皮膚には接しないわけです。さらにその層を風が通ると冷却されやすくなるので、黒い体は表面的には熱くなるけれど、体の内側まで熱くならないようにコントロールされていると考えられます。

安達:
天然の空調機能ですね。

川上:
そうです。では寒いときはどうか?というと、「ふくらすずめ」っていう言葉があるでしょう?

安達:
冬の寒い朝とか、小鳥はふっくらと膨らんでいますね。

川上:
ダウンジャケットと同じ構造で、羽毛を膨らませて保温しているのです。人間が寒い時にダウンジャケットを着るのは、それを真似しているわけです。羽毛が空気の層を作って、保温してくれる。

安達:
あと、小鳥は寒い時に首を曲げて背中の羽毛の中にくちばしを隠したり、片方の足を羽毛の中に入れて、片足で寝ていたりします。

川上:
そうです。なるべく露出しないように羽毛の中に入れて、くちばしや足など羽毛がない露出部分を減らして、エネルギーの消耗を防いでいるのですが、それは賢いからじゃなくて、そういうことをする個体が生き残ったのです。
真冬に皮膚を大胆に露出して、両足をピンと立てて寝ていたような個体は、たぶんエネルギーを消耗してどんどん死んでしまったと思うんですよ。反対に、寒いなと思って、くちばしを羽毛の中に突っ込んだ個体が、エネルギーをあまり消費せず、より生き残っているというように考えた方がいいと思います。

安達:
空気に対しての鳥類の様々なアプローチ、非常に興味深いです。
鳥類の習性一つ一つが環境に適応し、生き残ってきた分岐点なのかもしれないのですね。UIデザインも課題や状況に対して、様々なアプローチが可能な中、より適切なものがなぜ適切なのか?適切でないものはなぜ適切でないのか?を紐解きながら取捨選択していきます。お話を伺いながら、進化の過程とデザインの工程に近いものを感じました。

鳥たちとの本当の共生とは?

安達:
私は今、環境問題や温暖化などに対応し、緑豊かな工場をつくっていけないだろうか?という発想からスタートした「工場の緑化プロジェクト」というものに関わっています。個人的には工場に鳥が来たらいいなと考えていて、本当に実現すれば、鳥と人間がうまく共生できる場を作れるのではないか?と考えているのですが、いかがでしょうか?

川上:
まず考えてほしいのは、人間のための自然なのか、自然のための自然をつくりたいのか? どちらなのかによって全く違うと思います。

川上:
人間のために心地よい自然をつくるのであれば、これは全く鳥のためのものではなくなってしまうかもしれません。南硫黄島に調査に行ったことがあるのですが、この島は非常に原生の状態で保たれていて、人間の手で開発されたことが全くない。鳥の天国のようにさぞかし素晴らしい自然が残っているかというと、ちょっと違います。鳥たちはいっぱいいますが死体を素早く片付けてくれる野ネズミのような大きな腐肉食者がいないので、地上には鳥の死骸がすごくたくさんある。匂いもすごいですし、ハエがたくさんわいてしまうので深呼吸したいような空気では全くない。でもここではこれが原生の生態系、本当の自然なのです。
たぶん安達さんが欲しい自然の姿はそれではないですよね。人間にとって心地よい、きれいな自然が欲しいというのなら、実際、それは本当の自然との共生ではないかもしれないんですよ。あくまでも人間にとって心地のよい「自然っぽい」ものをつくるのだという考えに立つべきです。

安達:
確かにそのイメージでした。共生と言いましたが、原生の自然ということではないです。

川上:
一般的にはそうだと思います。でも、こうやって社会が成熟していき、知識を積み重ねていくことで、自然というものに対しても、人間はもっと理解を深めていかなくてはいけないと思います。人間のためのきれいな美しい自然というイメージから、一歩進めて、鳥や動物たちも含めた「本当の自然とは何か?」という意識を持ってもらえると、人と鳥、人と自然との関係も少しずつ変わっていけるのではないかと思います。

安達:
ありがとうございます。お話しいただいたことは、大切にしていきたいですね。人間の勝手な思い込みや押し付けではなく、本当の意味で鳥たちとの共生を目指していけるようになりたいものです。

川上:
それはよかった。そういう感覚を持ってもらえる人が増えて、それぞれの分野でしっかりと考えていけば、いつの日か、鳥との共生の新しいかたちが見えてくるかもしれません。そこには「空気」も大切な役割を持つと思います。

安達:
鳥は空気をどう見てどう感じているのか、自分が鳥だったら世界がどう見えるのか、自身にとってたまらなく知りたい事でした。実際は人間同様、見ることはできませんし、温度、気流、音etc…空気が媒体となるものも変わりません。しかし鳥類は、何億年も生き残りを繰り返す中で、その体や行動で空気へのアプローチをしてきました。今回、川上先生にお話しいただいた事例ももちろん、他にも私たちが知らないような空気との付き合い方が、彼らにはあるように感じてワクワクします。ダイキンで働くデザイナーにとって、「空気」をどのように表現するかは大きなテーマです。自身の業務の中でも、人間がとらえる空気と自然界にとっての空気のどちらの視野も持って、これからの新たな表現にチャレンジしていきたいと思いました。

また今回の対談の中で、インタプリターという役割がすとんと胸に落ちました。
普段の業務も空気という専門的な分野の中で、企業のやりたい事や目指したい未来を一般の人とつなげる役割を、デザイナーは担っていると感じています。
特に「工場の緑化プロジェクト」では企業の独りよがりでも人間の独りよがりでもダメで、地域とともに人と自然が共生していくプロジェクトに育てていきたいと強く思いました。

川上和人先生
川上和人
1973年生まれ。東京大学農学部林学科卒、同大学院農学生命科学研究科中退。農学博士。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 森林研究部門野生動物研究領域チーム長(島嶼性鳥類担当)戦略研究部門生物多様性・気候変動研究拠点生物多様性研究室併任。『鳥類学は、あなたのお役に立てますか?』『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』『鳥肉以上、鳥学未満。』など著書多数。図鑑の監修も多い。
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