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デザインの「余白」が、自分と誰かを繋ぐ

デザイナー・三澤遥との対話

「waterscape」や「動紙」など独創的な作品づくりで知られるデザイナーの三澤遥さん。印刷物やwebといったグラフィックだけでなく、プロダクトや展覧会などさまざまなプロジェクトを手がけています。印象的なのは、案件ごとに別の人物がデザインしたのかと思えるほど表現豊かであること。そんな三澤さんの作品に魅了されたというダイキンのプロダクトデザイナー・東山桐子がデザインや作品の生まれるプロセスについて対話を重ねました。

ものごとの繋がりをデザインする

東山:
「waterscape」と「動紙」を別々のタイミングで知り、どちらもとても印象が強い作品でした。後から同じ方の作品と知った時に、私とはまったく違う視点や豊かな発想にとても感銘を受けました。

三澤:
ありがとうございます。

東山:
三澤さんの作品には独特の空気感や余白があり、単体ではなく空間と一体になって成立する作品が多いと感じています。三澤さんはデザインをする時に、どんなことを意識していらっしゃるのですか?

三澤:
最近はものごとのつながり・関係性みたいなものを意識するようになっている気がします。あれがあるから、これがある。こうなるにはそれが必要。そのものだけで完結しているように一見見えるものでも、実はまわりの要因や環境と影響し合い、バランスを保って目の前に存在している。例えば5年前に制作した「UENO PLANET」のビジュアルは、上野動物園の中での知られざる魅力を一枚の絵に描き込みたいと思ったのがきっかけです。その魅力を伝えるには、見えない繋がりを理解することが大切でした。動物園にはもちろん動物たちがいます。その動物を飼育しているスタッフもいます。動物のために設計されたケージもありますし、餌としても育てられている植物も園内の敷地に存在します。飼育されている生き物以外にも遠くの地から飛来してくる野鳥もいますし、ケージの中に出入りして餌をおすそ分けしてもらっているスズメやハトもいます。それぞれの生きものや人の営みは、時間の流れの中でつながりあっているわけです。描いている絵の中で表現できる部分なんてほんのひとかけらですが、それでもわくわくするつながりをたくさん見つけられます。動物園のつながりに視点を向けることで、そこに潜む魅力を再発見することができたように思います。

作品名:UENO PLANET 写真:北村圭介
作品名:UENO PLANET
写真:北村圭介

東山:
プロダクトもグラフィックも環境も分け隔てなくやっておられる三澤さんとは逆に、私はプロダクトデザインを主に専門で担当しているのでとても刺激的に感じます。

三澤:
私は逆にそうした専門性がある方へのリスペクトなくして今の仕事はできないと思っています。職人さんの仕事ぶりを見ているのが好きだったり、生物学者の方のお話を聞くのが好きだったり、教えてもらった本を読むのが好きだったり。自分一人でやっていても限界を感じます。いろいろな人との出会いの連鎖のおかげで、自分だけではたどり着けないことにも挑戦できていることを嬉しく思います。

東山:
人やものとの関係性を大切にされているのですね。

選択を繰り返し、正解を探る

三澤:
「waterscape」は小学校の頃から今までの魚を飼ってきた経験がきっかけとなって生まれた作品です。まだ見たことにない水中風景をつくれる気がする。そんな思いをきっかけに、初めての個展では20cm角の小さな水槽の中にさまざまなオブジェクトを入れながら、試行錯誤して生物との関係を探りました。何をもって失敗や成功とするのか、特に明確な線引きはありませんでした。魚は感想を言ってくれないので…。これは「機能している」状態と言えるのだろうか? そもそも環境って何なのだろう? ただ眺めていてもわからない。自分は正解だと思っていることが、魚にとってはどうなのかわからない。言語が通じない生き物同士のやりとり。答えらしき答えがない中で、推察しながら模索していきました。まだこのプロジェクトも継続中なので発展途上ではありますが、「鑑賞ではなく、観察できるもの」をつくり、発見する視点をかたちにしていきたいと思っています。

作品名:waterscape 写真:林 雅之
作品名:waterscape
写真:林 雅之

https://www.ndc.co.jp/works/waterscape-2016/

東山:
「waterscape」の場合、できた形もすごく素敵なのですが、デザインをやっている身としては、いろいろな形を検討されているプロセスのスケッチが気になりました。三澤さんは発想を広げていく時にどのアイデアを採用し、どのアイデアを捨てるのか、どんな軸で考えていらっしゃいますか?

三澤:
「waterscape」では、まずは実際に3Dプリンタで制作した樹脂製のオブジェクトを水中に沈めてみてアカヒレをしばらく泳がせてみたり、ガラスのトンネル穴をつくってドジョウがどういう反応をするのか見てみたりしました。まずは水中生物たちが「使ってくれる」かどうかが肝心です。穴をつくってみたけど全然入ってくれないとか、機能している云々の前に使ってくれないことも多くありました。

東山:
なるほど。アイデアの取捨選択には、形だけではなく、魚がどう反応するかにも関係していたのですね。

三澤:
それにコンクリートを入れると水質が変わってしまうんです。飼っている時はお店で買ってきた安全なものを使うわけですが、自分がつくった素材がお魚にとって安全なものかどうかわからない。そういうことも含めて、必ずしもうまくいくことばかりではありませんでした。

東山:
私も新しい空気清浄機について考え始めた時は、スケッチを描いたり3DCADでモデリングしたり何個も案を検討したのですが、どれが良いのかを判断するのはとても難しかったです。格好よく仕上げることはできても、それが最善なのか? いつもどれが良いか判断するのには苦労します。ただ、その時に一番と思えるものを選択できるように心がけています。

三澤:
ものをつくって形として世の中に出すまでは、まさに選択の連続です。選択を何度も何度も繰り返してのち、上澄みとして残ったものだけを世の中にお披露目する。その選択の中でたくさんのアイデアを切り捨てていきます。そこに情はあまり入れません。選択したものと選択しなかったもの。最終的には、どう選択したかの集積で形が現れてきますよね。ですが、捨てたものが残念なものかというと、実はそうとも限らない。自分がそのとき決めただけのことです。頭の片隅で留めておくと、未来では何か違うかたちで活かせるかもしれません。そういう考えを大事にしています。それに、自分の中で失敗だと判断したとしても、他者がどう捉えるかはわかりません。それでも自分の選択を固く信じて突き進めるかどうか。その選択を繰り返した先では研ぎ澄まされたものが自ずと生まれるのではないでしょうか。

言い切るよりも、余白を残す

東山:
今回、私が担当した新しい空気清浄機の開発では、使う人の生活を想像し、「この人に合うのはどういうものだろう?」と形状や機能、その人に合った使い方を考えました。三澤さんがどんな人に向けてどんな感覚でデザインされているのかという点にとても興味があります。

三澤:
例えばブランディングに関する仕事などではターゲットを設定することもありますが、展示の場合、観た人それぞれの日常に体験したものを持ち帰ってもらうことが大切だと思っています。観に来る人はみんな価値観が違いますし、私とは違う価値観の人が来て、まったく違うところに気づいてもらってもいいですし、必ずしもこちらの意図が伝わらなくてもいい。もちろん作品意図を明快にすることも大事ですが、それとは異なる部分を面白がっている人がいてもいいと思うんです。「どうだ!」みたいな強いものをつくるのがどうやら自分は得意ではないと気づいてきて、どちらかというと「こうかもしれない」というところを残しておくデザインに興味があるんだと思います。だから、「waterscape」の水槽が完成だとも思っていないですし、いわば途中経過を見せているようなもの。

三澤:
2018年に行った「続々」という展示のタイトルにも、続編をこれからの人生を通してつくっていくという思いを込めています。ある作品によって培われたアイデアが別の仕事で生きることもありますし、すべては自分の中で繋がり合っているわけですよね。ストックも失敗も何かに繋がっていく。だから、展示を観に来た誰かに対しても「絶対こうだ」というよりは、「こうかもしれないよ」という余白を残して伝えると、その人自身が想像を膨らまして考え始めてくれる。私が言い切ってしまうより、たとえば「これは何かに活かせるかもしれない」とか思いを巡らせてくれることの方が喜ばしいですね。体験する側に委ねている範囲が大きく、その余白をつくることこそ、自分が展覧会を通してやっていることです。物事を完結させることよりも、その続きを残しておくことで何よりも自分自身がワクワクしていたいんでしょうね。いつも。完成形ではなく、変化していく途中段階を見せているような感覚があります。「ここから先は一緒に考えてみませんか?」みたいな気持ちで。「誰かと一緒につくる」ということに繋がるんですが、誰かというのは私の知らない人でもいい。その人の脳みそに入っていくというか、自分の思考とリンクし合う瞬間が嬉しいんです。

葛藤も失敗も、もっといいものをつくるため

東山:
三澤さんの作品を観た私がこれだけ印象に残っているのも、その余白を感じるからなのかもしれませんね。

三澤:
観た人が「私だったら」と考えてくれたり、帰り道で似たような動きを見て「さっきのあれみたいだな」と思い出して結びつけてくれたり。展示会場を出たその先で、気づいたら考え出しちゃう、思考が動き出しちゃう、みたいな現象をつくれたら楽しいです。私はいつも「言い切ってしまっていいのだろうか?」「こうだと言えるほど自分は何も知らない」と常に自問自答しているので。わかっていないという前提があり、正解かどうかはわからないけれど、だからこそつくるしかないんです。選択の連続を経て形にはなっているものの、それが正解かと問われると、そうじゃないかもしれない。でも、それなくしては次の段階には進めない。つくることを止めちゃいけない、思考も止めちゃいけないと思うんですが、それは何かを完成させるためではなく、自分自身の「知らない」と向き合い続けたい、その先で誰かとつながりたい、そんな思いがあるからかもしれません。

東山:
自分自身の「知らない」と向き合い続けるというのはとても興味深いですし、完成と決めてしまわないからこそのその先の広がりや発展性を感じるアイデアに魅力を感じます。ただ、今回の空気清浄機の製品開発においては、余白を残すより、すべてを詰め込んでやり切るといった感覚でした。

三澤:
でも、ダイキンの中で最初に空気清浄機をつくった方がいて、そこからの積み重ねや蓄積があって今の最新の開発につながっている。そして50年、100年、1000年後にはまた今とつながる未来がきっと待っている。そう考えると、伝統芸能のように継承しているわけで、時代ごとに「こっちがいいんじゃないかな?」と製品を考え続けることは、次の時代を見据えていることでもありますよね。だからきっと、東山さんの作られている製品も「かもしれない」というメッセージのひとつになっているのだと思います。「かもしれない」の連続性、研ぎ澄まされた普遍的なものを作り出すには欠かせない行為なのではないでしょうか。

東山:
それは本当におっしゃる通りで、私自身もこれまでのデザインについて調べましたし、自分ならこうするという差のようなものは確かに感じました。自分としては現状これが最善だと思って世に送り出しますし、一つの結果として使う人に喜んでもらえるようにというのはいつの時代においても変わらないですよね。

コロナ禍による変化を見据えて

東山:
コロナ禍を経て、今までは付加価値的なものだった空気清浄機が当たり前のものになりつつあると感じています。こんなに大きな変化が生きているうちに起こるとは想像していませんでした。ただ、変化の渦中にあるからこそ新しいものを生み出せると捉えて、デザインについて一度立ち止まって考え直す時期でもあるのかなとも思っています。

三澤:
先日、「WHO ARE WE 発見と観察の生物学」という国立科学博物館主催の展覧会の編集・構成を担当したのですが、そのときにコロナ禍だからかなと思う経験をしました。
展示台には46の引き出しがあり、その引き出しを開けないと中が見れない仕組みになっています。貴重なものがたくさん入っていますし、静かに丁寧にそっと開けてほしいという思いもあり、会場入り口で白手袋をお渡しして観てもらうように試みたんです。すると誰もが抵抗なく手袋をしてくれたんですね。2年前ならこんなにすんなりと受け入れてくれたかどうかわからないと思うんです。コロナ禍の中で、マスクを付けることや空気をはじめ見えないものへの想像力が高まっています。こうした変化をうまく活用する方法もあると思います。

作品名:WHO ARE WE 観察と発見の生物学 国立科学博物館収蔵庫コレクション|Vol.01 哺乳類 写真:岡庭璃子
作品名:WHO ARE WE 観察と発見の生物学
国立科学博物館収蔵庫コレクション|Vol.01 哺乳類
写真:岡庭璃子

東山:
確かにそうですね。空気の快適さや安心感をどのように感じてもらえばいいのか、ずっと悩んでいました。でも、コロナ禍によって、きれいな空気がとても重要なものだと実感すると共に、人々の意識が変わったというのは本当に共感できます。
今回三澤さんとお話させていただき、物事を分け隔てなく捉えデザインをされていることがとても刺激になりました。三澤さんのような広い視野で物事を見つめながら、ダイキンのより良い空気をお届けできるようデザインに取り組んでいきたいと思います。

日本デザインセンター 三澤デザイン研究室

三澤遥
三澤遥
1982年群馬県生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、デザインオフィスnendoなどを経て、2009年より日本デザインセンター原デザイン研究所に所属。2014年より三澤デザイン研究室として活動をスタート。水中環境をあらたな風景として再構築した「waterscape」や、takeo paper showへの出品作「動紙」、上野動物園の魅力を印刷物やwebや動画などさまざまな形でビジュアル化した「UENO PLANET」など、幅広い領域におけるデザイン活動や作品づくりによって注目を浴びている。
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