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空気とくらし

専門家に聞きました

社会活動持続のための
暑熱環境への適応

東京理科大学 創域理工学部 社会基盤工学科 教授
仲吉信人 先生

暑い中でも、暑さと向き合い、
「熱あたり/熱中症」の
リスクを下げながら活動できる
社会の実現が必要

近年、地球温暖化や都市温暖化の影響で暑さの問題が深刻化しています。これにより、暑さ(熱)による健康被害「熱あたり/熱中症」が大きな社会問題と捉えられるようになりました。さらに不要不急の外出抑制や活動自粛が求められる場面も増え、社会活動や経済活動にも影響が広がりつつあります。そしてこの傾向は、今後ますます顕著になっていくでしょう。夏場に警戒アラートが出続けるような未来が想定される中、私たちは暑さ(熱)と向き合い、「熱あたり/熱中症」のリスクを下げながら活動できる社会の実現を目指す必要があります。

気象と生体データを融合した
人体熱収支モデルで
新たな指標づくりへ

現在の「熱中症警戒アラート」は気象条件(WBGT)に基づくものですが、同じ気象条件でも一人ひとりが置かれた環境や活動によって暑さ(熱)のリスクは変わってきます。そこで私の研究室では、気象データ(気温、湿度、風速、短波・長波放射)と個人の生体データ(年齢、性別、体格、服装、活動量)、暑さ回避行動などを融合させて、人体の深部(直腸)、筋肉、脂肪、皮膚、血液層の5つのノードの温度を予測シミュレーションできる人体熱収支モデル(5NM)を開発し、新しいコンセプトの暑さ(熱)リスク指標の実現に向けた取り組みを進めています。

ここでは5NMを使ったシミュレーション例として、①夏の日中に外を歩いている時と、②暑い外から家に帰ってきた時に(エアコン有り/無しで)深部体温がどう変化するのかシミュレーションした結果を紹介します。

①夏場の日中に屋外を歩いた場合の
人体熱収支シミュレーション結果

歩行条件と「体の奥の温度」の関係

シミュレーションデータ提供と可視化監修:東京理科大学 仲吉信人教授(データ:仲吉教授/グラフ作成:ダイキン)

シミュレーション①
「日なたをゆっくり歩き」解説

夏の日中、日なたを歩くだけで、体に熱がたまり、深部体温は20分で約0.5℃の上昇となりました。このときの身体活動量は2METs。オフィス内を非常にゆっくり歩く程度ですが、太陽の下では体に熱がたまり、深部体温が上がっていくことが分かります。

シミュレーション②
「日なたを早歩き」結果解説

夏の日中、日なたを少し早歩きした場合は、深部体温が20分で約1℃の上昇となりました。このときの身体活動量は4.5METs。通勤・通学時の歩行が4METsとされていることから考えると、4.5METsは少し早歩きで会社や学校に向かう程度の日常的によくあるレベルですが、ゆっくり歩いた時と比べ、約2倍の上がり幅となっています。同じ気象条件でも、活動量が増えると深部体温が大きく上昇することが分かります。

シミュレーション③
「日陰をゆっくり歩き」結果解説

夏の日中、日陰を(または日傘を使って)ゆっくり歩いた場合は、深部体温は20分で約0.3℃の上昇となりました。これは「①日なたをゆっくり歩き」の約1/2、「②日なたを早歩き」の約1/4で、大幅に上昇が抑えられています。歩行という日常的な行動でも、日陰や日傘、帽子などの暑熱回避の行動ひとつで、熱の影響の受け方が大きく変わることが分かります。

METsの身体活動例は、産業技術総合研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所 「改訂第2版 『身体活動のメッツ(METs)表』 成人版 」を参考にしています。

体内温度
(皮膚、脂肪、筋肉、深部、血液)
シミュレーション結果

人体シルエット内の数字は深部体温(℃)

0
10
20
30
59
①日なたをゆっくり歩き
①日なたをゆっくり歩き
0分:深部温度 37.0℃
10分:深部体温 37.2℃
10分:深部体温 37.2℃
20分:深部体温 37.4℃
20分:深部体温 37.4℃
30分:深部体温 37.6℃
30分:深部体温 37.6℃
59分:深部体温 37.8℃
59分:深部体温 37.8℃
②日なたを早歩き
②日なたを早歩き
0分:深部温度 37.0℃
10分:深部体温 37.5℃
10分:深部体温 37.5℃
20分:深部体温 38.0℃
20分:深部体温 38.0℃
30分:深部体温 38.3℃
30分:深部体温 38.3℃
59分:深部体温 38.8℃
59分:深部体温 38.8℃
③日陰をゆっくり歩き
③日陰をゆっくり歩き
0分:深部温度 37.0℃
10分:深部体温 37.1℃
10分:深部体温 37.1℃
20分:深部体温 37.2℃
20分:深部体温 37.2℃
30分:深部体温 37.3℃
30分:深部体温 37.3℃
59分:深部体温 37.4℃
59分:深部体温 37.4℃

シミュレーションデータ提供と可視化監修:
東京理科大学 仲吉信人教授(データ&画像作成:ダイキン)

体全体としてどのような熱の変化・移動が起きているのかを見ると、シミュレーション①、②、③ともに歩行に伴い筋肉と深部の温度が連動して上昇していきます。一方で、皮膚の温度は10分を過ぎると低下し、脂肪もそれに追随しています。これは、たまった熱を皮膚から出して体温を一定に維持するはたらきによるもので、汗の蒸発による気化熱が大きく影響しています。また、歩行による風の影響も考えられます。運動強度の高い「②早歩き」の方が「①ゆっくり歩き」よりも皮膚温度の低下が早いのはこのためです。外から入ってくる熱と、活動に伴い発生する熱、体温を一定するために体から出される熱のダイナミックな伝播の様子がシミュレーションからよく分かります。

人体設定
性別 男性
身長 170cm
体重 65kg
シミュレーションパターン
①日なたをゆっくり歩き
②日なたを早歩き
③日陰をゆっくり歩き
 (または日傘を使ってゆっくり歩き)
気象条件(夏の晴天日を想定)
人体への入力短波放射 550Wm⁻²
人体への入力長波放射 560Wm⁻²
人体周りの風速 2.0ms⁻¹
人体周りの気温 35.0°C
人体周りの湿度 50%
身体活動(METs)
ゆっくり歩き 2 METs
早歩き 4.5 METs

②夏場の日中に屋外から家に帰ってきた場合の人体熱収支シミュレーション結果(エアコンの有り/無し)

エアコンの有無と「体の奥の温度の関係」

シミュレーションデータ提供と可視化監修:東京理科大学 仲吉信人教授(データ&グラフ作成:ダイキン)

シミュレーション①屋外歩行20分→帰宅後「エアコンなし」結果解説

夏の日中、屋外を20分歩行し、帰宅後にエアコンなしの環境(室温35℃/湿度80%)で過ごした場合、歩行に伴い上昇した深部体温は、活動レベルが安静~日常の状態に戻ってもほとんど下がらず、120分経過しても38.4℃と高い状態が続いていることが分かります。これは、深部体温を37℃前後に下げようと自律神経が働いているにも関わらず、下げることができていない状態を示すもので、このような状態が続くと熱あたりや室内熱中症のリスクが高くなると考えられます。

シミュレーション②屋外歩行20分→帰宅後「エアコンあり」結果解説

夏の日中、屋外を20分歩行し、帰宅後にエアコンありの環境(室温28℃/湿度60%)で過ごした場合、深部体温は20分後に約38℃(-0.5℃)、40分後には37.5℃(-1℃)まで低下していることが分かります。エアコンを使うことで、体にたまった熱を逃がし、深部体温を素早く下げることができています。エアコンを使うことは、快適性を高めるだけでなく、熱あたりや室内熱中症のリスクを下げることにもつながるといえそうです。

体内温度(皮膚、脂肪、筋肉、深部、血液)シミュレーション結果

人体シルエット内の数字は深部体温(℃)

帰宅時
(0分)
10
分後
20
分後
30
分後
60
分後
119
分後
①エアコンなし
①エアコンなし
0分:深部温度 38.5℃
10分:深部体温 38.7℃
10分:深部体温 38.7℃
20分:深部体温 38.7℃
20分:深部体温 38.7℃
30分:深部体温 38.7℃
30分:深部体温 38.7℃
60分:深部体温 38.6℃
60分:深部体温 38.6℃
119分:深部体温 38.5℃
119分:深部体温 38.5℃
②エアコンあり
②エアコンあり
0分:深部温度 37.0℃
10分:深部体温 37.5℃
10分:深部体温 37.5℃
20分:深部体温 38.0℃
20分:深部体温 38.0℃
30分:深部体温 38.3℃
30分:深部体温 38.3℃
59分:深部体温 38.8℃
59分:深部体温 38.8℃
59分:深部体温 38.8℃
59分:深部体温 38.8℃

シミュレーションデータ提供と可視化監修:
東京理科大学 仲吉信人教授(データ&画像作成:ダイキン)

エアコンなしの環境は、深部体温にほぼ変化なく推移しています。皮膚表面は青くなっていることから、汗をかいて皮膚から熱を逃がそうとしているものの、深部体温を下げるほど効果的に使うことができていないことが分かります。一方、エアコンありの環境は、深部体温がすぐに低下をはじめ、皮膚温度もエアコンなしの環境と比べて低く、体にたまった熱を効果的に外に逃がしている様子がよく分かります。

人体設定
性別 男性
身長 175cm
体重 70kg
シミュレーションパターン
①エアコンなし 35℃/80%
②エアコンあり 28℃/60%
身体活動
屋外 4.8METs(早歩き)
室内 2METs(日常活動)
気象条件
屋外 室内①エアコンなし 室内②エアコンあり
人体への入力短波放射 550W/m-2 5W/m-2 5W/m-2
人体への入力長波放射 560W/m-2 511W/m-2 466W/m-2
人体周りの風速 1.6m/s 0.2m/s 0.2m/s
人体周りの気温 35℃ 35℃ 28℃
人体周りの湿度 55% 80% 60%

気候変動に対する「適応」に
人体と「熱」の関係から取り組む
本プロジェクトには
社会的意義がある

気候変動対策は「緩和」と「適応」の両輪が必要です。「緩和」策は、二酸化炭素削減やクリーンエネルギーの活用など、比較的分かりやすく、さまざまな取り組みが活発に進められています。一方、変わりつつある気候に対する「適応」策は、対策とセットで考える必要があり、その目標設定が難しいという課題があります。そんな中、人体と「熱」の関係に着目し、異なる分野の専門家と企業がアイデアを出し合い、「適応」策を協創、発信する本プロジェクトの取り組みは社会的意義があるものと考えています。

仲吉信人 先生 Profile


2007年東京工業大学理工学部土木工学科卒業、2012年東京工業大学 理工学研究科国際開発工学専攻博士課程修了。日本学術振興会 特別研究員、2011年シドニー大学建築学科客員研究員、2012年東京工業大学大学院理工学研究科国際開発工学専攻特任助教、2014年東京理科大学理工学部土木工学科講師、2016年レディング大学 気象学科 客員研究員、2018年東京理科大学理工学部土木工学科准教授、2022年同創域理工学部社会基盤工学科准教授を経て2025年より現職。専門は水工学 (水文気象学、生気象学、環境・生理センサ開発)。独自開発した人体熱収支モデルを使った、個人の属性・状態、および暑さ対策の効果を定量評価できる新たな熱中症リスク評価手法の開発に取り組んでいる。

専門家に聞きました

生理学、物理学、社会環境学、医療現場など、この取り組みにご協力いただく様々な分野の専門家に、熱をコントロールすることの重要性や暑さと熱の問題にどう適応していくべきか、また、このプロジェクトの意義について、お話を伺いました。

大阪国際大学 名誉教授 井上芳光 先生「人体と熱の関係を理解し汗をかける体づくり」
東京理科大学 創域理工学部 社会基盤工学科 教授 仲吉信人 先生「社会活動持続のためにも暑熱環境への適応」
済生会横浜市東部病院 患者支援センター長 谷口英喜 先生「様々な専門家の統合知で「熱あたり」問題に取り組む」
臨床教育開発推進機構 理事 三宅康史 先生「「熱あたり」への対策意識を高め「熱中症」を減らす」
福寿会病院 院長 三浦邦久 先生「「熱あたり」対策に取り組むことが、生活者も医療機関も救う」

空気の可能性を信じ、追い求め、

新しい価値をくわえて
これまでになかった空気を、世界へ届けます。

空気で答えを出す会社

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