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小さなモノから都市は変えることができる

トラフ建築設計事務所 鈴野浩一氏が語る『見えないものを可視化するアイデアを生みだす空気』

プロダクトデザインから建築の設計まで、多岐にわたるユニークな作品で注目を集めるトラフ建築設計事務所。今回は、そのアイデアを生みだす空気がどのようにもたらされ、かたちになっていくのかを知りたくてオフィスを訪ねました。主宰者のひとり、鈴野浩一さんから興味深いお話が次々に——。

どんなものも、まず敷地から考える

静かな住宅街の真ん中に、"クリエイターたちの隠れ家"と呼ぶには存在感がありすぎる不思議な建物が。この元は工場だった物件をリノベーションした1フロアに、トラフ建築設計事務所のオフィスがあります。白くて四角い箱のような空間に、大きな窓から気持ちよいくらい光が注ぎ込んでいます。

「シンプルなワンルームのドカーンとした感じが気に入ってまして。ぼくらはいろいろなオフィスのデザインも行っていますが、自分たちのオフィスは、できるだけプレーンで中のレイアウトも自由に変えることのできるかたちにしておきたかったのです。」

もちろん設計事務所なので、数多くの建物のモックアップもありますが、フロアの隅々にはいろいろな素材が山のように置かれ、学校の美術室に来たかのような懐かしさがあります。このあたりは、小さなモノから建築まで幅広く手がけているトラフ建築設計事務所ならではのもの。

「家具やプロダクトの仕事をいただいた時、最初はとても戸惑いましたね。建築を学んでいたぼくらにとっては、敷地がないというのがすごく怖くて。敷地があれば、そこから分析したり、光をどう採り入れるか考えたりすることができるのですが。

そこで、発想を転換して敷地がないならつくってしまえばいいと考えたんです。例えば、この『スカイデッキ』。手すりに引っかけるだけで小さなテーブルになります。狭いテラスを少しだけ拡張して敷地をつくることで、いろいろな用途に使える空間が生まれます。こんなふうに敷地から考えていくことで、家具のアイデアも広げていくことができます。」

50メートルのテーブルから生まれた、心地よい空気

いろいろなものを建築と同じように敷地から考える——この発想が、幅広い作品のいずれにもトラフらしいアイデアを実感することができる所以なのかもしれません。さて、さらに広い敷地の場合には、どのようにしてアイデアをかたちにしていくのでしょうか。

「まず、そのプロジェクトの敷地に行った時の、最初に接する空気や感じるインスピレーションはとても大事です。例えばオフィスであっても、はじめからオフィスだと思って見てしまうと、どこにでもあるものと同じように考えてしまいがちです。自分自身の感度を高くして、優位性やちがいを見逃さないようにすることが大切だと思います。

これは、東京ミッドタウンの広い芝生広場にイベントに合わせて設置した『ガリバーテーブル』というものです。50メートルもある一直線の長いテーブルで、手前は高さが2メートルくらいあって、先端のほうはかなり低くなっているのですが、実はテーブル自体はフラットなんです。

最初はぼくも平らな敷地だと思っていたのですが、実際に行ってみると緩やかな勾配になっているんですね。そこで、この場所に1本の線を水平に引いただけで勾配が浮かび上がって、みんなも同じように気がつくことになる。

面白いことに、手前のほうではテーブルの下で子どもたちがジャングルジムのようにして遊んでいたり、打ち合わせをしている人がいたり。だんだん先端のほうにいくと、ランチを食べていたり、テーブルの上に座ってのんびりしていたり。同じ場所で、同じ空間で、同じ1枚のテーブルを共有しながら、いろいろな関係やアクティビティが生まれている。とてもよい空気と時間が流れていましたね。

空気を、光を、可視化する

敷地から考えていくことで、広場の勾配を目に見えるかたちに変えて、心地よい空気をつくりだした『ガリバーテーブル』。そうした見えないものを可視化するアイデアは、トラフ建築設計事務所の代表作とも言える『空気の器』にも活かされています。空気を包み込むようにして、かたちを自由に変えられる紙の器です。

「ぼくたちにとって空気はなくては生きていけないものですが、当たり前すぎて感じないし見えない。でも、この紙から器にすることで、たっぷり空気がこの中に詰まっていて、手に持つと空気そのものを持っていることを実感できるんです。何も入っていないのではなくて、いちばん人間にとって大切な空気そのものが器の中に入っているのが見えてくるわけです。」

トラフ建築設計事務所の可視化のアイデアは、空気だけでなく、空気を貫いていく光にも及んでいます。それが2011年「ミラノサローネ」キヤノンの展示会場での『光の織機』です。

「ぼくたちは、プロジェクターとスクリーンの関係性を見直してみたんです。そうしたら、スクリーンに映る前にも映像は存在していることに気づいて。映画館でも塵が舞っていたりすると光の筋が見えますよね。その光を取りだしてもっと見えるようにするために、プロジェクターのレンズのところからスクリーンにめがけて放射状に無数の糸を配置したんです。

会場に来た人たちは、光ファイバーでできているのかと思うくらいなのですが、実はただの糸。皆さんスクリーンではなくて、プロジェクターから放たれる光のほうを拝むようにして眺めていましたね。」

"裏返し"のアプローチで、世界をよりよいものに

2016年にTOTOギャラリー・間で開かれた「トラフ展」とそれに合わせて刊行された作品集のタイトルは「インサイド・アウト」。この"裏返し"を意味する言葉に、トラフ建築設計事務所の想いが込められています。

「ぼくらが大学で勉強している頃は、まず都市計画が強いものとしてあり、その次に建築があって、インテリアなどは下に見られていました。モノやプロダクトは最後に入ってくるみたいな感じですね。でも、ぼくたちはその逆を、裏返しでいきたい。モノやプロダクトなど小さなものから入って、最終的に都市までいけるように。

例えば、エアコンの室外機のデザインだけでも、都市の景観を大きく変えることができると思います。小さなモノから大きな都市、世界をよりよくしていく。それが、ぼくたちの考えるインサイド・アウトです。」

小さなプロダクトから大きな都市へ、自由自在にスケールを操り考えを巡らしながらアイデアをかたちにしていくトラフ建築設計事務所。その思考空間に詰まった軽やかな空気は、とても心地よく、どこまでも魅力的なものでした。

株式会社トラフ建築設計事務所

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