ページの本文へ

 

NEWS
新着情報

地球環境に貢献する電解コンデンサレスインバータ
FEATURE
2022.10.25
 エアコンにおけるインバータ搭載は、エアコンの省エネ化を行うにあたり最も効果の見込める施策です。しかし、インバータを搭載すると電源側へ高調波発生やノイズの影響が懸念されるため、やみくもに搭載すればよいというものではありません。特に中国や欧州では、インバータが発生する高調波に対して厳しい規格があり、インバータ搭載時のコストアップが課題となって、インバータエアコン普及の障壁となっているのが現状です。そこでダイキン工業では、高調波抑制を低コストで行える電解コンデンサレスインバータの開発を積極的に行っています。

 どのような取り組みを経て開発に至ったのか、強みはどのような所にあるのか。テクノロジー・イノベーションセンターの田口主任技師が語ります。

PFC(高調波抑制)回路が不要な電解コンデンサレスインバータ

 電解コンデンサレスインバータは、文字通り電解コンデンサを用いないインバータです。インバータの直流部分に搭載する平滑コンデンサにはある程度の静電容量が必要となるため、比較的大容量の電解コンデンサを搭載していることが一般的です。電解コンデンサレスインバータでは、この平滑コンデンサ部分に、コンデンサよりも静電容量が小さいフィルムコンデンサを用いてインバータ制御を行います。

 一方で、インバータによるモータ運転を行うと電源側に高調波が流出します。この高調波は、日本では需要家ごとに高調波全体量の規制があるだけですが、中国や欧州では、インバータ単体に対して高調波抑制の強い規制があり、日本からインバータを輸出する際にも対象となります。

 このため、従来のインバータ回路での高調波抑制には一般的にPFC回路の追加が必要不可欠だったのですが、電解コンデンサレスインバータでは、PFC回路を用いなくてもインバータ制御によって高調波抑制が可能となりました。

高精度マイコン技術の発達が実用化のカギとなった

 電解コンデンサレスインバータの理論的な研究は以前から行われていました。実用化できた大きな理由のひとつは、インバータに搭載するマイコンの性能が格段に向上して、複数の制御が可能になったことが上げられます。電解コンデンサレスインバータでは、今までのインバータよりもより精度の高い制御を行う必要があります。モータに対する磁束の量、出力電圧、電流をフィードバックして、低磁束での運転を行うようマイコンで制御します。このような制御を行うことで、インバータの直流部分の直流電圧脈動を抑え、電源側への高調波を抑制する電源入力の制御を行います。

高調波抑制と部品点数の削減を同時に実現

 家庭向けルームエアコンは国内でも価格競争が激しく、海外では海外メーカーとも競争しなければなりません。中国や欧州の高調波抑制の規格を満たそうとすると、PFC回路を追加するため、その分部品点数が多くなり、インバータ部分が大きくなって価格競争力が落ちてしまいます。電解コンデンサレスインバータは、平滑コンデンサ部分も小型のフィルムコンデンサを使用しているので小型化でき、さらにPFC回路を追加しなくても中国や欧州の高調波規格を満たせるインバータなのです。そのため単相の電解コンデンサレスインバータはワンボードに乗るサイズにまで小型化が可能となりました。小型化と高調波抑制を一度に実現することで、価格競争力の向上に大きく貢献しています。

運転状態の検証は回路シミュレータで

 さまざまなメリットがある電解コンデンサレスインバータですが、その開発には、コンピュータによる回路シミュレーションが使われました。さまざまなパターンのインバータをコンピュータ上で作成し、運転状態として高調波の流出状況や、電力量に対する効率、インバータノイズの影響まで検証を行うことができます。コンピュータによる回路シミュレーションが用いられる以前は、都度、試作品を作成して試験を行う必要があり、時間も費用も大きくかかる開発でした。それがコンピュータによるシミュレーションにより、最適な回路の組み合わせを見つけ出しやすくなっています。フィルムコンデンサの容量や、制御に必要なマイコンのパラメータなど、電解コンデンサレスインバータがその機能を最大限に発揮し、ノイズや高調波といった影響が最小となる最適解を導きだしやすくなりました。

ダイキン工業の強み 最適なIPMモータとの組み合わせ

 電解コンデンサレスインバータの開発に伴い、IPMモータ(永久磁石型同期モータ)との組み合わせが最もエネルギー効率のよい運転が可能となることが分かっています。しかし、IPMモータと一口に言っても様々な形状や特性を持ったIPMモータが存在します。

 回路シミュレーションで計算された最適な電解コンデンサレスインバータは、最適なIPMモータとの組み合わせを行うために再度、検討に入ります。インバータ開発とモータ開発がここまで連携しているエアコンメーカーはほかにないといってもいいほどの連携プレーです。

 ダイキン工業の最大の強みは、TICでの開発部門の垣根を超えた密接な連携といえるでしょう。これにより、エアコンとしての効率化と小型化を実現し、より価格競争力があり、エネルギー効率の高いエアコンを提案できるようになっています。他メーカーがなかなか追いつけない要因と言えます。

世界のエアコンを省エネエアコンに

 日本国内のエアコンはインバータ化がほぼ完了し、省エネエアコンが当たり前となっています。しかし、世界のエアコン市場では、まだまだインバータ搭載のエアコンが少ない国や地域が多く存在します。このような国、地域では、工業化による深刻な電力不足により、政府や地方自治体などから電力の使用制限が課せられるなど、大きな問題となっています。この問題を解決するため、さらにはカーボンニュートラルに向けて、益々省エネ需要が高まるのでインバータエアコンを提案する絶好の機会と考えられます。

 インバータエアコンを欧州・中国など高調波抑制基準の厳しい国に輸出する際にも、小型で価格競争力もあり、エネルギー効率もよいダイキン工業の電解コンデンサレスインバータは、モータ開発との連携で、その強さを発揮するでしょう
Yasutaka Taguchi

テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師

2005年10月入社。福岡県出身。今後益々重要視されるインバータ技術をとことん磨き、社会に貢献しつつ勝ち続けることが使命と思っている。
関連記事
関連採用情報
ページの先頭へ