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差別化の技術が支える、ダイキンの圧縮機
FEATURE
2022.10.25
 空調システムの心臓部ともいえる圧縮機の消費電力は、空調機全消費電力の80~90%を占めています。2050年のカーボンニュートラルを見据えた継続的な省エネ化の施策として、圧縮機の高効率化はどのエアコンメーカーでもこれまで以上に大事な取組み課題になっています。エアコン業界において、ダイキン工業が売上No.1になり続けている背景には、圧縮機における他社にはない強みと、それを開発する発想力、そして行動力があるのです。

 ダイキンの圧縮機の強み、それを支える開発力について、圧縮機技術を長年牽引してきたテクノロジー・イノベーションセンターの松浦主席技師が語ります。

冷媒対応から生まれた新機構、
スイング圧縮機

 ダイキン工業の圧縮機の強みとは何で、開発において課題をどう乗り越えてきたのでしょうか。

 ダイキン工業の特徴的な圧縮機といえば、まず紹介したいのがスイング圧縮機です。家庭用エアコンの圧縮機において、他社はロータリー圧縮機を使っていますが、ダイキン工業だけはスイング圧縮機を採用しています。ダイキン工業も、以前はロータリー圧縮機を使用していました。しかし、1989年に発効したモントリオール議定書により、それまでエアコンに使用していた冷媒「R22」はオゾン層を破壊する成分が多く含まれているため、「HFC」にシフトしていくことになったのですが、そこでロータリー圧縮機の致命的な問題が発生しました。
 「R22」は塩素を含む冷媒ですが、「HFC」は塩素を含みません。塩素がなくなるとベーンの先端の潤滑が厳しくなり、ベーンの材料見直しやローラに押し付けるバネの荷重を調整する必要があったのです。(図1(a))構造面から見直す絶好のタイミングとなりました。

 ダイキン工業ではこの課題に対し、ベーンとローラを一体化することを考案しました。(図1(b))このことでバネを廃止でき、ベーンとローラ部の摩耗を気にする必要がなくなるだけではなく、そもそも吸気室と吐出室を仕切る部分からの漏れが発生しないという、画期的な構造が生まれたのです。
 「漏れない」圧縮機は特に低回転でその効果を発揮します。ロータリー圧縮機では1秒あたり10回転を下回る低速ではベーンの追随性が落ちることでの漏れにより急激に性能が落ちてしまいますが、ダイキン工業のスイング圧縮機は1秒当たり4回転まで回転数を落としても性能低下が小さいという強みがあります。

 ベーンとローラが一体になったピストンはローラの回転とともに上下左右に振れる揺動運動をしますが、それを支持するためにスイングブッシュという新たな部品を採用しました。ピストンとスイングブッシュは、ピストンが運動する限り、絶えず摺動を繰り返しています。図1(b)ではスイングブッシュとピストンが面で接触しているように見えますが、実際はベーン部の根本で線接触をしています。

 線接触は、面接触に比べて接触面の摩耗が心配されますが、机上の検討と実験によって、摺動部の材質を決め、接触部の油膜形成によって摩耗に問題ないことを確認し製品化にこぎ着けました。

 ただし、漏れが少ないスイング圧縮機には、製造の際に、ローラのような円筒の部品に対し、ピストンの加工精度が悪くなるというデメリットがありました。ベーンとローラが一体となった複雑な形状の加工に適した切削・研磨工法の適用により、精度の向上に成功しました。

スイングだけではない、
ダイキン圧縮機の強み

 ダイキン工業の圧縮機ラインアップには、スイング構造の他にスクロール構造、シングルスクリュー、ターボ構造の圧縮機があります。これら全ての圧縮機には、ダイキン独自の技術が織り込まれているのです。

スクロール圧縮機

 スクロールは渦巻状を形成した2つのスクロールがかみ合い、旋回運動することで、容積を変化させ冷媒を圧縮する構造です。旋回スクロールを固定スクロールに押し付けて回転するため、接触部に油を潤滑させることで摩耗を防いでいます。

 他社のスクロール圧縮機では、冷媒の圧力を利用して旋回スクロールを押し付けていますが、運転条件により冷媒の圧力が変わると漏れが大きくなったり、摺動損失が大きくなってしまいます。ダイキン工業では、各スクロール間に油の潤滑を促す溝を設けるという新たな構造で旋回スクロールを適度に押し付けることで、摺動部の摩擦損失を低減したのです。これによって、従来機に対しメカロスを20%低減し、圧縮効率を2pt向上しました。

シングルスクリュー

 スクリュー圧縮機といえば、雄ローターと雌ローターのスクリューがかみ合うツインスクリューが一般的ですが、ダイキン工業は1個のスクリューに樹脂製のゲートロータを挟んだ独自の構造となっています。ツインスクリューに対して軸に対するバランスが取りやすく、軸受荷重が少ない分、高効率を実現しています。

ターボ圧縮機

 ダイキン独自の磁気回路を制御する技術によって、ころがり軸受を廃止して、磁気で軸を浮かせる磁気軸受構造を採用しました。軸受には焼付防止のため、油で潤滑する必要がありますが、磁気軸受では潤滑油は必要ありません。軸受を潤滑するための油と冷却系統が不要になり、メンテナンスが不要になるだけではなく、低騒音、低振動、高効率のメリットがあります。

適材適所のダイキン圧縮機

 4種類の構造の異なる圧縮機は、用途と容量によって使い分けられています。スイング、スクロール、スクリュー、ターボの順に対応する出力は大きくなっており、低速回転での作動が多い家庭用、店舗用にはスイング、続いてビル用、チラー用のスクロール、チラー用のスクリューとターボというように使い分けられているのです。(図2)
 それぞれの圧縮機は、求められる性能の条件も異なります。家庭用、店舗用では低速で使用されることが多く、低速での性能が求められ、ビル用などでは定格点の性能も求められます。スイングは低速域の性能に強く、スクロール、スクリュー、ターボは定格点での性能が良いのです。

 使用する冷媒によっても適する圧縮機が異なります。ターボ圧縮機やスクリュー構造では、例えば「134a」のように圧力が低い冷媒に適しており、スイングやスクロールは「R410A、R32」のような圧力が高い冷媒に適しています。

さらなる小型化への対応

 高効率化はもちろんですが、小型化・省資源化も開発の重点目標です。グローバルに供給している空調機器には、日本向けの圧縮機をそのまま搭載しているわけではなく、それぞれの地域事情に応じた圧縮機を開発する必要があるのです。例えば、インド、アジア向けは全て、家庭用の冷房専用機である。現地のニーズから製造コストを下げる必要があり、スイング式圧縮機の小型化(材料費削減)が急務でした。小型の圧縮機を高回転で回すことにより、海外他社のロータリー圧縮機に対して、重量約25%低減、効率1ptの向上を実現しました。

 スイング式圧縮機の小型化には、多くの課題がありました。小型化すると1回転あたりの圧縮容積が小さくなるので回転数を上げました。回転数を上げると吐出経路で噴詰まりが起きやすくなるので、弁の開くタイミングや開閉速度の最適設計を行っています。

 また、回転数を上げることで、音が大きくなりアンバランスによる振動も大きくなってしまうため、設計を見直すことで音と振動の改善を図りました。最終的には従来機比1.5倍の回転数を実現して製品化しています。

 小型化のニーズは、スイング式圧縮機だけにとどまりません。電磁鋼板や銅など、今後の材料高騰を鑑みて、省資源化への取り組みは続けなければなりません。スクロールやスクリュー、ターボ圧縮機においても小型化に取り組んでいます。

圧縮機ががらりと変わる?
冷媒対応の課題

 圧縮機の開発において、一番大変なことは冷媒規制によって適用する冷媒が変わることです。1990年代にHCFC-R22といった塩素を含んだ冷媒におけるオゾン層破壊の問題を、HFC-R410AやR32に変更することで解決、その中でも冷媒物性に応じた設計を行い、最適化を実施してきました。その中でもダイキン工業は、地球温暖化係数が少ない「R32」を2012年、他社に先行して採用することで、京都議定書の温室効果ガス削減と圧縮機の小型化を実現しました。この10年で、エアコンやチラーで「R32」冷媒の比率を50%まで増やしてきたところです。

 一方で、昨今は温暖化係数の面では、更に下げていく必要がでてきています。冷媒規制はEUが最も進んでおり、EU内の市場で販売されるHFC(※)量に関しては段階的に規制がかけられるようになっています。2030年には「HFC」を封入した空調機が販売できなくなり、「R32」より地球温暖化係数(GWP)の小さい冷媒に切り替える必要があります。

 例えば自動車のエアコンで使われているGWPが10以下のR1234yfを空調でを採用するためには、R32に比べ圧縮機の能力が3分の1になってしまうため、圧縮機の圧縮容積を3倍にしなければ冷凍システムは成立しなくなります。しかし3倍に大きくすることにより、コストアップは免れられず製品化として現実的ではありません。回転数を上げることも考えられますが、軸受寿命など、機械的信頼性の観点でハードルは高いと言えます。

 また、冷媒対応は技術的な課題だけではありません。冷媒の切り替えは地域によって規制のタイミングが違うことからも、結果10年以上ものずれが起こるため、様々な冷媒に対応するためには機種数を増やす必要があり開発も生産も課題となるのです。現在、これらの課題を解決する技術開発と生産の構えを、関係者で知恵を出し合い、進めているところです。

※HFC:ハイドロフルオロカーボン。R134a、R32、R410Aなど、塩素を含まないため、オゾン層を破壊しない冷媒。

ダイキンの圧縮機を支える開発力

 ダイキン工業では、学術的な研究というよりは1、2年後の事業に貢献できる量産を見据えた開発を多く推進しています。

 一方で、数年以上先を見据えた、従来の圧縮機の既成概念を飛び越えた開発も推進中です。価値の高い新しい圧縮機を生み出すために、新しい技術シーズ開発だけでなく、設計評価基準そのものの高度化や、フロントローディングによる開発スピードの向上を行っています。流体解析や振動、音場解析にも積極的に取り組んでいます。解析の手法や妥当性の確認方法を構築するのは大変なことですが、さまざまな技術的な課題を乗り越えて環境や事業に貢献できるやりがいのある職場となっています。

 空調機の需要は2050年には現在の3倍に伸びると予想されています。ダイキン工業はこれからも生産拡大を進めていきますが、シェアナンバー1だと慢心することなく、技術、生産面、利益含めて、「ダイキンの圧縮機を使っているから成立している」と言えるような製品に貢献できる圧縮機をこれからも開発していきます。
Hideki Matsuura

テクノロジー・イノベーションセンター 主席技師(※2022.10.25 時点)

1993年4月入社。大阪府出身。世界で圧倒的No.1の圧縮機技術者集団にすると目標は高い。ダイキンならではの、他社にない製品づくりにプライドをもって挑み続けている。
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