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空調ソリューションとは?ダイキンの事例で読み解く最新事情
FEATURE
2023.08.01
ダイキンが提唱する「空調ソリューション」という言葉。空調×ソリューションとは、一体どのようなことを指すのでしょうか?
空調メーカーとして世界の第一線を走り続けるダイキンのTIC(テクノロジー・イノベーションセンター)の技術者2人が、空気で繋ぐ未来ともいうべき「空調ソリューション」について語ります。

ダイキンにおける「空調ソリューション」とは

―まずは「空調ソリューション」という言葉に込められた意味について、ダイキンで空調ソリューションに携わる技術者2人に語ってもらいましょう。
 
熊田:空調システムが動作する内部データをクラウドを使って収集・分析することで、効率的に、安心・安全に、止まらない空間を提供する技術開発を進めています。例えば、内部データの長期的な視点での変化をAI技術を用いて分析することで冷媒漏れを迅速に検知したり、故障発生箇所を予測したりすることで空調ダウンタイムを抑制するようなソリューションを提供しています。

建物内の消費エネルギー量の約半分は空調関連設備が占めているとされており、空調システムを中心としたビル全体でのカーボンニュートラル実現に向けた技術開発にも取り組んでいます。例えば、建物内の熱負荷シミュレーションや空気環境のシミュレーション技術、サイバー・フィジカル環境実現によって、省エネ・安心安全な建物の実現に貢献していきます。また、建物内の設備(空調含む)からデータを収集し、最適制御を行うコントローラも提供することで、ビルまるごとソリューション提供ができる技術開発を進めています。

 

これは人によって少しずつ定義が異なると思うのですが、空調ソリューションというのは、売った後の付加価値を創るということだと僕は考えています。売っておしまいではなく、買っていただいてから買い替えをされるまでの間に起こるさまざまな課題や要望を、我々が解決できる機会を創出するというか。

例えば、エアコンには定期的なメンテナンスが必要ですが、フィルターを正しく清掃するだけで約10%の省エネになる。
ほかにも、冷房を使い始める時期に久々に稼働させてみると故障が起こった…というケースって起こると思うんですが、多くのご家庭で一斉にこれが起こっちゃうと、修理対応が追い付かない。この偏りを無くすには「シーズン前に稼働してみてください」と順番にお知らせして、試運転して動作をチェックして貰えると偏りがなくなって、急な故障でお客様も不快な思いをしなくて済みます。
あと、多くの空調機は世界で使われることを踏まえてグローバル仕様に作られているんですが、使われる地域の気候条件や建物用途次第で多岐に渡り、それぞれの特性ごとにチューニングすれば、無駄なエネルギーを使うことなく効率的に稼働させることができます。さらに、このコロナ禍で「空気の管理」に注目が集まるようになって、適切な換気や空気感染のリスクを減らす空調機の設置方法といった防疫の観点でも、我々空調のプロとお客様が繋がる必要性が高まっている。

空調ソリューションというのは、このように、空調機器の保守や点検、運転時の付加価値提案から改修や空調システムを含む設備・システム全体の更新までの空調バリューチェーン全体でお客様の課題に沿ったソリューションを提供することで、空調機器販売だけにとどまらないコト売りのビジネスモデルを確立していくことだと考えています。
 
古井:ほとんど熊田さんが語ってくださいましたが(笑)、僕もおおむね同じ考えです。空調ソリューションっていうのは、ビジネスモデルの変革なんです。

今まで空調機を売って終わりだったビジネスに対して、お客様とつながり続けることで困りごとを解決していくことがソリューションビジネス。それによって、継続的にダイキンを選んでいただく道筋を創るだけでなく、お客様から得たデータを活用してCO2排出量を削減しながらより快適な空間を提供できたら…とも思ってます。一般的にはサイバー・フィジカルと呼んだりしますが、建物ごとの空調負荷予測モデルを作成し、室内環境を予測しながら省エネ制御やエリア全体の電力需給調整を行う技術開発を行っています。

 

また、ソリューションの中には空調機を購入・使用されるお客様だけでなく、空調機を設計する方や設置する方、輸送する方、熊田さんが言われたようなメンテナンスをする方も含まれています。例えばエアコンを修理する業者さんが、若い人が採用できなくて手が回らない…という悩みがあったとして、IoTを導入して遠隔点検をすれば、故障そのものを減らすことができるわけです。

このように、ダイキンは空調ソリューションのビジネスモデルへの転換で、省エネに対するコンサルティングやIoT活用によってカーボンニュートラルの実現を牽引しています。

熊田:空調ソリューションで必要なキーファクターの一つとして、データを集め活用するためのプラットフォーム構築だと考えています。ダイキンはハードのメーカーのイメージが強いと思いますが、実は我々はIoTという言葉がまだ無かった時代から、空調機のデータを収集・管理・制御する「エアネット」というサービスの提供を始めていたんです。 エアネットが始まったのは1993年。25年前、電話回線しかなかった時代です。
そういった取り組みで蓄積されてきたノウハウや技術がいま、カーボンニュートラルの実現という時流にマッチしてきました。過去から蓄積したノウハウを生かしたプラットフォームで空調のソリューション事業に大きく貢献していきたいと考えています。

ダイキンの空調ソリューション
1.空調機器データを活用したサービスソリューション

―ここで、ダイキンの空調ソリューションの一例として、古井氏の話にも挙がった空調機器の遠隔点検について紹介します。

ビルに取り付ける空調機器は広大な空間の空調調整を行うため、定期的な点検が欠かせません。しかし、ビル管理会社にとって定期点検は大きな作業負荷となっていました。
冷房や除湿で発生する結露水は、ドレンパンという受け皿に溜まり、ドレンホースを通って排水されますが、このドレンパンは定期的な点検・清掃が必須。汚れや異物が詰まってしまうと水漏れ・異常停止を引き起こすため、毎回天井板を外して部品を分解し、ドレンパン部分を目視確認しなければなりません。ビルには多数のエアコンが備え付けられているため、定期的に点検を行うには多くの人力と時間を要していました。

そこで、ダイキンはこの定期点検をIoT化。2019年10月からドレンパン遠隔点検サービス「Kireiウォッチ」の提供を開始しました。
空調機器の内部に定点カメラを設置し、自動で撮影。機器内に備え付けられた通信機器を通じてクラウドに送信し、クラウド上で画像解析によって汚れ具合を自動判定します。 管理会社はクラウドから送られてきた判定結果と清掃の推奨時期をパソコン・タブレットで確認することが可能になったのです。
このサービスによって定期点検が省人化され、適切なメンテナンス時期を簡単に把握できるようになりました。点検に要していた人や時間が圧縮され、働き方の改革にも貢献しています。

―ダイキンはこのように空調機器からデータを収集・分析して活用することで管理・メンテナンスに掛かるコストを削減する以外にも、温度・湿度・CO2などのデータを収集し、快適な環境づくりに活かしたいと構想しています。

ダイキンの空調ソリューション
2.カーボンニュートラルに繋がる、ビルまるごとの省エネ

―続いてご紹介するのは、カーボンニュートラルと密接に関わる「ビルまるごと最適化」といわれる空調ソリューション。
カーボンニュートラルについて改めて簡単に解説すると、「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という取り組みで、この「全体としてゼロにする」というのは、【二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」-植林や森林管理などによる「吸収量」=実質的にゼロにする】ということを指します。 日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを達成すると宣言しており、各企業が達成のための対策を進めています。

古井:いつまでにゼロにする、というのは既に決まっている。でも、どうやってゼロにしていくのか?というのは、各社が模索をしている段階なんです。

―古井氏は、だからこそエポックメイキングな発見ではなくとも、小さなトライを積み重ねることが必要だと語ります。

古井:我々が持つノウハウや技術をカーボンニュートラルに繋げていくのも、空調ソリューションのひとつです。
ダイキンはビル設備の中でエレベーターといった商材は扱っていないので、ビルまるごと、と言い切ってしまうのはおこがましいかもしれません。ただ、ビルのコストで大きいのが電気代などのエネルギーと設備管理なのは事実です。そこを最適化するための空調換気の機器・制御システムだけでなく、照明制御、空調負荷を減らすための遮熱塗料、設備管理を省工数化するための故障診断といった技術やプラットフォーム、ノウハウを保有しているのは確か。ひとつひとつのビルがデータをもとに最適化されていけば、カーボンニュートラルの実現へと繋がっていきます。実際に、自治体でエネルギーの地産地消を目指して、再生可能エネルギーと組み合わせた複数の建物を束ねたエリアのデマンド制御の技術実証を行い、この技術を切り口に、カーボンニュートラル提案のコンテンツとして事業化につなげています。

ダイキンの空調ソリューション
3.空調作業現場のDX化

熊田:空調ソリューションとして空調機器のデータを活用したソリューションやビル丸ごとのソリューションに加え、空調バリューチェーンを考えた時に空調作業現場のソリューション=作業現場のDX化(デジタルトランスフォーメーション)も重要だと考えています。
製造業にとって、現場力は非常に強力なアセットであり、強みにしていくべきポイントだと考えています。ダイキン工業の強みである現場力・人の力にデジタルの力を加えた現場作業のDX化を推進することで、空調バリューチェーンを通してソリューションを提供できると考えています。また、世界中で空調需要が高まっていく中で、IoT・AI技術を活用することで、どの地域でもお客様に安心・安全に、快適に空調機器をご利用いただけるサービス網を構築していきたいと考えています。例えば、ウェアラブルデバイスや自然言語処理技術を利用したサービス現場支援システムを開発しており、どのような現場でも、経験豊富なエンジニアが遠隔からサポートすることで、高品質な空調システムを施工するだけでなく、お客様の空調機器の問題を迅速に解決していきたいと考えていきます。

―熊田・古井の両氏は、新たな空調ソリューションを生み出す人財を見つけ・育てるための採用にも関わっています。

 
熊田:僕が受け持つグループのメンバーに言っているのは「歌って踊って喋れるエンジニアになってほしい」ということ。 ただ研究だけしていても、当然ながら商売にはならないですから。
課題を見つけて「こうすれば解決するんじゃないか」という策を考えるまでが0を0.8にする工程だとしたら、研究フェーズでは0.8まではできると思うんです。でも、0.8を1にする、つまり事業として成立させるまでが難しい。これはエンジニアに限ったことではないと思いますが…。 これから求められるのは、0.8までじゃなく、10まで持っていけるエンジニア。研究して、企画して、売りに行く。 そのために、多くの現場に出向き、「喜んでくれる人の顔がはっきりと思い浮かぶ状況で開発をしていこう」、と伝えています。

 

古井:僕は主任技師という肩書きではあるんですが、どんどん現場に出かけて行って、リアルでは誰がどんなことに困っているのか?を生で感じる。それが空調ソリューションの始まりなんですよね。 現場に行って、困っている人の課題を見つけて、解決策を考えて、それを「10」にするために伝える。社内に実行するための体制・プロセスが無ければ営業やサービスを巻き込んで、一緒に考えながら進めていく。それが僕なりに空調ソリューションを発展させていく術だと思っています。

―ダイキンは2017年に、AI分野の人材を育成する社内講座「ダイキン情報技術大学」を設立しています。 2年間給与を支払いながらAIの学習に専念してもらうという体制で、毎年約100名の社員が受講をしているという大規模なDX人材育成のための取り組み。
こうして育った人財が、熊田氏や古井氏のような「歌って踊れるエンジニア」としてさまざまな現場に赴き、データとデータを繋いで、新たな課題を発見・解決していく。 この取り組み自体も、空調ソリューションの一環といえるでしょう。

世界中で空調ソリューションを加速していきたい。

熊田:オフィスビルのエネルギー消費のうち、約40~50%が空調だと言われています。残りの20~30%が照明やコンセント、10%がエレベーター等になっています。つまり、空調を上手にコントロールすれば、大幅な省エネに繋がるんです。 あくまで例えですが、ヨーロッパ全土の空調機をネットに繋いで適切な稼働になるようコントロールすれば、10%は省エネできる。ヨーロッパ全土の10%といえば、原子力発電所1~2機分の電力を削減することになるんです。これ、かなり凄いことだと思いませんか?

やはり必要なのはスピードだと考えています。少しでも早くカーボンニュートラルを実現していくためには、ダイキンが持つノウハウや技術を、世界中のエンジニアに伝え(オープン化していき)、用途市場別に空調ソリューションを実現していくことができれば、大きなうねりになると思います。 そのために必要なのは、ノウハウ・技術を「正しく」伝える仕組み。ルールを決めたり、ソフトウェアを開発したりといった準備が要ります。 技術開発・研究だけでなく、こうしたグローバルで一致団結して空調ソリューションに必要な開発をハイスピードで実行していく環境整備を「開発」していくのも、現代のエンジニアの在り方のひとつなんじゃないかと思っていまし、早期に実現していきたいと考えています。

スマートシティ化で地域ブランディングを

 
古井:「ビルまるごと最適化」の発展形として、街全体のエネルギーを最適にマネジメントする「スマートシティ」を実現していきたいですね。
スマートシティはダイキンが得意とするカーボンニュートラルを見据えたエネルギー改善だけでなく、交通・モビリティ、地域活性化、健康まで含めていかに住んでいる人に価値を提供するかが重要。例えばスマートシティ化した自治体にはエネルギーコストが安いとか税制優遇があるとか、住む人のメリットを打ちだす必要もある。 「あの街に住んでるんだ、いいなぁ」と、スマートシティに住んでいることがブランド認知されるのが理想的ですね。

 

例えば過疎化に困っている自治体がスマートシティ化することで人口減や税収減をプラスに転じさせることができれば、省エネによるカーボンニュートラルだけではない社会貢献にもなります。 それらすべてをダイキンだけで実現することは不可能。いろんなパートナーと協業しながら、国や自治体への働きかけ方や集客のための仕組みを考え、価値を伝えていきたいですね。

―空調を通じてさまざまな「困った」を解決するだけでなく、新しい暮らしや健康を創りだすダイキンの空調ソリューションは、こうした技術者たちが見つけ、考え、働きかけることで、広がり続けます。
Toshiaki Kumata

テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師

2006年4月入社。大阪府出身。IoTやAI技術を活用したソリューション事業のためのソフトウェア開発を担当。
モノづくりのためのソフトウェアだけでなく、ソフトウェアが主役になるためのシステム開発や仕組みづくりにも挑戦している。
Shuji Furui

テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師

2005年入社。和歌山県出身。エネマネ・デマンド技術開発を担当。
エネルギー最適化技術を軸として、カーボンニュートラルやスマートシティにおける 価値創出による地域ブランディングを目指している。
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