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熱効率が高く地球に優しいエアコンを目指して、圧縮機の開発に挑む!
FEATURE
2023.06.30
ダイキンは環境に優しい新しいエアコンを世に送り出すために、日々さまざまな要素技術の開発を行っている。特に産業用エアコンの心臓部ともいえる圧縮機については、開発を左右するカギとなるためさまざまな要件が求められている。まさに現在、最前線の現場でエアコンの圧縮機を開発しているテクノロジー・イノベーションセンター(TIC)圧縮機技術グループ 主任技師の西村氏に話を聞いた。

ますます需要が高まるエアコンと、地球に優しい環境技術の要求

――入社するまでの経歴と入社後のご担当を教えていただけますか?

西村:私は大阪大学の修士課程で、「2段遠心式血液ポンプに関する研究」「スロッシング現象に起因する軸振動に関する研究」を行い、流体機械に関する知識を学びました。大学で学んだ技術を活かしつつ、その技術を搭載した商品を身の回りの人に使ってもらいたいと思いから、消費者向けの商品を扱っており、かつグローバルに展開しているダイキン工業に就職することを決めました。
入社してからは、圧縮機の要素技術開発、先行技術開発を中心に担当しています。
――エアコンの要素技術である圧縮機の現状と、その課題について教えて下さい。

西村:まずエアコンを取り巻く市場の変化が挙げられます。国際エネルギー機関(IEA)によれば、2050年までに世界のエアコン市場は現在の3倍にまで拡大すると予測されています。いまエアコンや給湯機のエネルギー消費量は、全エネルギー使用量の40%ほどあるため、今後もエアコンのエネルギー使用割合が増え続けることになります。そのため省エネ化が喫緊の課題になっています。

もう1つの動きは、国際的にCO2の排出削減、カーボンニュートラルに注目が集まっていることです。この動きを受けて、欧米ではボイラーなどの燃焼式暖房に規制が設けられるようになっています。そのためヒートポンプ式暖房への置き換えが進んでいるのです。またエアコンには、熱を移動させる冷媒(作動流体)が必要ですが、現在の冷媒に使われている物質(HFC)が地球温暖化に大きな影響を与えるため、使用制限を掛けられるようになりました。大きな方向性としては、地球環境に優しい、環境負荷の小さいものにしていく必要があるわけです。

重要なヒートポンプ技術の仕組みをバケツリレーで例えると……

――なるほど。より環境性能の高い圧縮機が求められているのですね。コアとなる技術の新しいアイデアには、どのようなものがあるのでしょうか?

西村:エアコンには、少ない投入エネルギー(電力)で、外の空気から集めた熱を室内のエネルギーとして利用する「ヒートポンプ」という重要な技術があります。最新のヒートポンプを採用したエアコンでは、投入エネルギーの7倍のエネルギーが得られます。このとき、室内外の空気の間で熱の受け渡しをするのが冷媒の役目になります。

冷媒は(室外機の)圧縮機により昇圧・昇温され、室外機と室内機を接続する配管内に流れて、(室内機の)熱交換器を通じて熱を室内の空気に伝えたり、奪ったりすることで熱を移動させます。圧縮機と熱交換器で冷媒が蒸発・凝縮する際の気化熱・凝縮熱によって、より大きな熱を移動できるのです。
エアコンで利用されるヒートポンプの役割。ヒートポンプは名前の通り、熱をくみ上げたり、出したりする役割を果たし、暖房や冷房のエネルギーとして使われる。
――ヒートポンプの原理について、もう少し詳しく教えていただけますか?

西村:冷暖房するためには、熱を運ぶ冷媒を循環させることが必要です。ヒートポンプの冷暖房能力は、冷媒の熱をバケツリレーで運ぶことに例えると理解しやすいでしょう。ある熱量を運ぶとき、熱を入れるバケツの容量を小さくして、バケツを運ぶ数を増やせば、同じ熱量を運べることになります。例えば10㎏のバケツを5回転/秒で運んでいたとして、それを5㎏のバケツで10回転/秒で運べば、同じ熱量を運べることになります。
ヒートポンプの原理はバケツリレーで例えると理解しやすい。同じ熱の量に対して、半分の容量のバケツに入った熱量(冷媒ガスの熱量)を移送するには、バケツリレーの回数(循環する冷媒速度)を倍にすればよい。
冷媒は、圧縮機のモータの力によって圧縮・循環していきますが、一度に圧縮する量(=バケツ)を少なくすると圧縮機に必要な力も小さくなるため、モータを小型化できます。すると、モータの構成要素である磁石や電磁鋼板の使用量が減り、全体コストも削減できるというメリットがあります。この高速圧縮技術によって、磁石などを省材料化することが可能になった点も、我々の大きな強みといえるでしょう。

寒冷地でもヒートポンプを機能させるダイキンの独自技術とは?

――ヒートポンプで熱を移動する場合には、外気温度が低いと熱効率が悪くなってしまうのでありませんか?

西村:ご指摘のとおり、ヒートポンプは外気の熱を利用するため、外気温が下がりすぎると、バケツに入る冷媒ガスが希薄になり、熱を十分に運ぶことができなくなってしまいます。そこで圧縮時に高密度の冷媒を増加させて暖房能力を補う「インジェクション」と呼ばれる技術や、バケツリレー回数(循環)を増やす高速回転技術などを導入することで、低い外気温でも効率が落ちないような新しいエアコンを開発しています。特にインジェクション部は、(冷媒の)気体や液体、油などの三相の複雑な流れをシミュレーションすることで、その解析や評価の手法を高度化させる工夫を凝らしました。

――ほかにも高速化を実現する要素技術として、何か工夫された点はありますか?

西村:ダイキンの圧縮機は、独自のスイング機器を採用しており(※1)、モータを高速化すると圧縮機の性能が低下したり、音や振動が発生したりするという課題がありました。高速回転時に遠心力によってモータ軸がたわむので、軸受部に負担が掛かって摩耗しやすくなります。そこで冷凍機油の採用と、自社開発の滑り軸受(ジャーナル軸受)採用による信頼性の確保、音と振動を抑えるピストンのトータルバランシング設計技術などにより高速化の課題を解決し、他社に実現できない圧縮機として仕上げてきました。

このほか、圧縮機のモータとインバータを組み合わせた効率化を工夫している点も特徴です。圧縮機のモータの制御部は、電源周波数(50/60Hz)によって回転数が決まる非インバータ機と、回転数を自在に制御できるインバータ機に分けられます。我々は独自のインバータ機を開発しており(※2)、エアコンに必要な空調能力に対して適切な出力で圧縮機を稼働させることで、速冷速暖、温度変化の抑制といった快適性や省エネ化を実現しています。

 ※1「差別化の技術が支える、ダイキンの圧縮機」> https://www.daikin.co.jp/tic/topics/feature/matsuura  
 ※2「地球環境に貢献する電解コンデンサレスインバータ」> https://www.daikin.co.jp/tic/topics/feature/taguti  
モータをコントロールするインバータと非インバータの違い。インバータはモータの回転数を自由に制御でき、エネルギー効率も良く、省エネに貢献する技術だ。ダイキンは独自のインバータ技術を持っている。
インバータ機は非インバータ機にくらべコスト高になるため、北米、アジア、中東、アフリカ諸国などでは、まだ非インバータ機のほうが好まれる国が多いのですが、ダイキンの場合はインバータに含まれる電解コンデンサーを減らす独自技術などを開発しており、インバータ機を普及させたいと考えています。圧縮機などの機構部も、インバータの開発に合わせて設計し、低コストかつ高効率なパフォーマンスをトータルで発揮できるように努めています。

まだ開発の道程は長いが、苦労してこそ優れた製品が生み出せる

――インバータ機による省エネ化は、地球環境にも優しい技術ですね。カーボンニュートラルにも寄与すると思います。

西村:そうですね。それから冷媒も大きく影響します。基本的に冷媒はエアコンの配管を循環していますが、配管の折損や施工不良、エアコン破棄時に外気に放出されてしまうことがあります。いま多く使われている「R32」という冷媒は、実はCO2よりも地球温暖化への影響が大きいのです。地球温暖化の影響の大きさを示す「GWP」(Global Warming Potential)という指標があるのですが、CO2を1とするとR32は675にもなります。
そのためR32などの「HFC(代替フロン)」というカテゴリーの冷媒は、世界で規制されることになっています。そこで従来の冷媒から新冷媒に切り替えていく必要があります。今後、利用できる冷媒が限られる中で、現行のエアコンと同等以上のパフォーマンスを出せるように技術を磨いていくことが大切になります。
――開発中で公開できないことも多いと思いますが、開発の現況やご苦労されている点などがあれば教えてください。

西村:具体的な開発状況については言えないのですが、高速化技術などは、すでに量産化して一部の機種に搭載しております。現在の開発状況については、富士山の登山で例えると、だいたい5合目に差し掛かったところでしょうか(笑)。エアコンの開発は個々の要素技術の改良や進化によってトータルで実現するものなので、まだまだ山高しといったところですね。新しい冷媒についても、変更後に今までのパフォーマンスが落ちないようになったという段階で、プロトタイプで効果を検証しています。

――最後になりますが、ダイキンに就職を希望される将来の後輩に向けて、何かメッセージをお願いできますか?

西村:ダイキンの社風は「フラット&スピード」にあります。フラットの意味は、経営幹部が技術に詳しく、現場との距離が近いため、何度も議論や相談ができるということ。これは他社と大きく異なる点だと思います。TIC内でも、インバータや熱交換器、ファンなど、圧縮機以外を開発するグループ間で風通しもよく、ボーダーレスでやりとりしています。すぐに相談できる相手がワンフロアーに集まっているので心強いですね。

研究開発は、誰もがやったことのないことにチャレンジしなければならない仕事です。とても苦労することも多いと思います。しかし苦労するからこそ、他社とは異なる製品、差別化した製品を生み出せると思っています。ダイキンには、そういった新しい挑戦ができる環境があります。逆にチャレンジせずに、何もしないことのほうが社風的にはいけないという雰囲気があります。ですから私自身、何か壁にぶつかっても、楽しみながら開発できるように努めています。すると必ず誰かしら周囲の人が相談に乗ってくれたり、後押ししてくれたりします。難しいことに挑戦したい人は、ぜひ仲間になって欲しいですね。
Kosuke Nishimura

テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師

2012年4月入社。兵庫県出身。圧縮機技術開発を担当。
誰にも負けない技術を磨き続け、高い技術目標に挑戦し続ける。あらゆる人の英知を結集し、他社が「やられた!」と思う技術を世の中に届けたい。
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