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エアコンをKireiに保つためのカビ画像解析技術
~Kireiチェック誕生秘話~
FEATURE
2023.03.24
 いまやエアコンには多くのAI技術が使われるようになった。部屋の壁や床の温度を検知する機能や、過去の運転内容を学習して最適動作を実現する快適自動運転、ビッグデータによる故障予知など、幅広い分野に導入されている。ダイキン工業では、さらに新しい領域として、既設エアコンのメンテナンス業務をサポートするために汚れやカビを迅速に判定できる「Kireiチェック」を開発した。今回は、その開発に携わった3人の技術者に話を聞いた。

化学、薬学、光学。様々なバックグラウンドを持つ異分野融合チーム

――入社するまでの経歴と入社後の担当を教えていただけますか?

並川:学生時代は理学研究科で、有機化合物にレーザーを照射したときの移動速度や、電子の移動の計測などをしていました。専門的には有機化学、レーザー化学です。

現在入社17年目で、これまで化学研究開発センターや商品研究部の機能材料グループで研究してきました。2015年のテクノロジー・イノベーションセンター(TIC)発足と同時に新機能開発グループに異動し、2018年に分析評価技術高度化グループのリーダーとして主任技師で着任し、化学だけでなく空調部門の仕事にも関わるようになりました。2022年6月に化学先端技術グループに移り、現在は半導体材料・半導体プロセスの開発に取り組んでいます。
 
前田:大学は薬学部で大学院まで進み、がん細胞の生存に関わる酵素の働きをミクロレベルで研究していました。ダイキンへは機械系で入社し、並川さんがリーダーをされていたTICの分析評価技術高度化グループに配属になりました。

換気商材の分析や、薬学部という経歴から空気中のウイルス、花粉、カビといった生物由来の粒子の可視化に取り組んでいました。いま入社5年目ですが、2022年8月に異動になり、IAQ技術グループで、引き続き生物粒子のセンシング技術開発に携わっています。

川合:入社5年目の29歳です。大型放射光施設SPring-8の隣にあるX線レーザー施設SACLAで、X線の強度をより強くする研究に取り組んでいました。

ダイキンに入社後は、まず社内の人材育成制度で「ダイキン情報技術大学」に入り、AI講座を2年間受講しました。その後、2020年度にTICの分析評価技術高度化グループに配属となり、カビ検査ツールの開発や、工場の臭気分析、アンケート官能評価とAIを関連付けるシステムづくりを主に担当しています。

新たな画像解析技術によって、カビの検出時間と精度が飛躍的に上昇!

――今回のカビ採取・分析サービス「Kireiチェック」はどんなきっかけで開発が始まったのですか?

並川:私がある別のテーマに取り組んでいるときに「カビの形はそれぞれ違う。AIで識別できるのでは?」と気付き、新テーマとして立案しました。2019年の初めから「AIによるカビの識別」をテーマとして開発をスタートさせました。「ダイキン情報技術大学」の設立とほぼ同じタイミングですね。

前田:カビは湿気が多く、栄養分の多い場所に生えやすいです。水場で湿気が溜まりやすいなど、部屋の使用環境によって、カビの繁殖しやすさが変わってきます。既設エアコン向けのメンテナンスを担うサービス本部では、数年前からカビの採取と分析サービスを行っていました。しかし当時は外部の専門機関に分析を外注しており、カビの培養期間を含めるとお客様への結果報告まで約4週間かかることが課題になっていました。これをAIでその場で検査できれば、その場ですぐにお客様に報告ができます。


エアコンから採取したカビの顕微鏡画像をスマートフォンで撮影し、クラウドに上げるとAIで分析・判定したレポートが現場で確認できる。
検査期間は約4週間から30分に短縮され、空調機汚れの進行度に合わせたサービスソリューションをタイムリーに顧客提案できるように。
川合:Kireiチェックでは、カビを採取してから、スマートフォンで撮影、クラウドで解析をして結果レポートが戻ってくるまで、約30分です。カビの解析だけなら1分もかかりません。分析時間の短縮により、お客様の関心が高まっているタイミングで即座に結果を伝えられるので、室内機の洗浄をはじめとしたメンテナンスのご提案チャンスに直結することになります。そのほか5段階で汚れのレベルを表示できるため、そのエアコンがどのような状況かひと目で確認することができます。

――短時間で正確にカビを判定できる方法とは、具体的にどんなものなのでしょうか?

川合: 2種類のAIを活用することによってカビの解析の精度を向上させることができました。まずは、画像内部のカビの位置を特定するAIと、カビを判別するAIを組み合わせました 。
具体的な室内機の汚れチェックのイメージ。レポートで5段階の汚れ判定もしてくれるので、メンテナンスの判断指標になる。

カビ採取・分析サービスを無償で展開、お客様への提案チャンスが広がった!

――カビ汚れの分析結果に対し、どういったソリューションを提案していますか?

並川:室内機の洗浄を基本として、汚れレベルに応じてフィルターやコーティング剤も併せて提案しています。空調のプロである当社のサービスエンジニアが分析結果を照らし合わせながら自社メンテナンスを提案できるというのは大きなポイントになると思います。

以前のカビ採取・分析サービスでは、外部機関での分析費用をお客様にご負担いただいていました。しかし実際にカビで汚れているかどうかは分からない時点で費用がかかることに躊躇するお客様も多くいらっしゃいます。その点、Kireiチェックは自社のAIシステムでコストを大幅に削減し無償の分析サービスとして提供しています。それもあって、お客様も「無償ならお願いしよう」となって、結果のレポートがすぐに出て汚れているとなれば、関心を持っていただけますよね。ダイキンとしても「きれいな空間を一緒に目指しましょう」と言える機会が増えたと思います。

――実際にお客様からはどのような声をいただいていますか?

前田:これまでは、エアコン内部の汚れを写真でお見せしていましたが、Kireiチェックも実施することで汚れレベルやその中に潜むカビについても、お客様に目で見える形でイメージいただけるようになりました。お客様からは「定期的なフィルタ清掃はしていましたが、ここまで汚れていたんですね。」という声や「目視の場合に比べて、洗浄の効果に納得感がある。」と評価いただいております。

人とのつながりが、困難を乗り越えるきっかけに

――開発までに、技術面以外でも何か転機はあったのでしょうか?

並川:このプロジェクトは、最初は私1人でスタートしました。まだそれほど精度が出ていなかったのですが、どういう形で使っていくのか、そのアウトプットのイメージを作るために、2カ月に1度、大阪にあるサービス本部まで出向いて進捗を共有していました。そのうちサービス本部の担当課長が代わり、「興味を持っていただけなかったらどうしよう」と思ったのですが、「面白そう!!」と可能性を感じていただき、サービス本部側にも担当を付けていただけるようになったのです。人と人とのつながりが、やはり転機になったと思っています。

これを機会に格段にヒアリングがしやすくなり、現場の声を多く拾えるようになりました。データはクラウド上で全部把握できますから、物件データもたくさん受け取れて、精度も上がり、それによって興味を持ってくれる人も増え、どんどん良いサイクルが回るようになりました。最終的に2022年度、社長賞までいただくことができたのは嬉しかったですね。

前田:私は今回のプロジェクトが初めての開発体験でした。技術だけでなく、どうやればサービス本部とタッグを組み、リリースまでたどり着けるのかを探ることが大変でした。サービスとして使いものになるかどうかは、やはり現場で試してもらわないと分かりません。動画やマニュアル、講習会も用意しました。それでも現場から出てくるエラーもありました。川合と一緒に戸惑いながらも、なんとかプロジェクトを走り切ったことで成長できたと思います。

社内・社外を問わず周囲の人を巻き込むことが良い製品につながる

――他の開発者や、就職を希望される将来の後輩に向けてメッセージをお願いします。

川合:研究者は、理論や可能性ばかりを考えてしまうことがよくあります。それも大事ですが、実作業とのバランスを取ったほうがよりよいと思います。考えるだけでは事態は何も動きませんし、その状態は他人から見れば何もやっていないのとほとんど同じです。手を動かしてトライアンドエラーを1つすると、失敗であったとしても成功への道から1つ選択肢を減らせます。理論をなおざりにすると失敗の理由が分からなくなりますが、理論だけ追求しすぎると何も進まないということを伝えたいですね。

前田:周囲の人を巻き込んで、チームで成し遂げていくことが、実現が困難なことを切り拓く力として大事だと思います。一人でできることには限界がありますから。学生時代は個人に対して課題が与えられることが多いのですが、やはり個人では個人で作れることの延長線上のものしかできません。自分がやりたいテーマを周囲に発信したうえで、周りを巻き込んでチームで動くことが、社会人になって経験した中で重要なことだと考えています。頭の隅にでも置いてもらえるとよいかなと思います。

並川:技術開発と人という観点でお話したいと思います。まず、目の前にある技術テーマが完成した後に、どのように使われるのかを意識することが大事です。良い技術として作っても、使われない技術ではモチベーションも上がらないですし、頑張ったことが成果につながりません。この技術は「誰が喜ぶのか」や「何が嬉しいのか」を意識し、先取りした課題として認識して解決した結果が、成果につながると思っています。

また、人とのつながりは会社に入ると本当に大事です。社内で話を聞いてくれる人や、困ったときに手を差し伸べてくれる人など、人脈を築くことで、このプロジェクトが加速しました。外部の人脈を作ることも重要です。例えば今回はカビを扱いましたが、カビの専門家は社内にいません。カビの分析機関の方と、カビの性質について話して仲良くなったことを思い出します。社内・社外の人とつながりを持ち続けたことが今回の成果に結びついたと思います。
Takashi Namikawa

テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師(※2023.3.24 時点)

2006年4月入社。大阪府出身。化学先端技術開発を担当。
化学の力で世の中に新しい価値を届けるために、環境・半導体分野で新技術や新材料・プロセス開発にチャレンジし続けたい。

 

Shotaro Maeda

テクノロジー・イノベーションセンター

2018年4月入社。兵庫県出身。空気環境の可視化技術を担当。
身の回りにいつも存在する空気の「見えない」を可視化する技術に挑戦し、人々の暮らしに安心を届けたい。
Shogo Kawai

テクノロジー・イノベーションセンター

2018年4月入社。大阪府出身。AI技術を担当。
AI技術を空調機の技術を融合し、世界中に快適な空気を提供したい。そのために日々2つの技術について学び続ける。
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