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デジタル時代における製造業の変革~ダイキン情報技術大学におけるAI人材の育成と卒業生の活躍~
FEATURE
2025.01.15
ダイキン工業(以下ダイキン)は、デジタル時代における製造業の変革を目指し、2017年12月に社内大学のダイキン情報技術大学(以下DICT)を設立しました。本記事では、DICTの設立経緯と人材育成の取り組みについて、テクノロジー・イノベーションセンター(以下TIC)の都島良久副センター長に話を伺うとともに、DICT卒業生の井阪健氏から、これまでの経験について語っていただきました。また、DICT設立から6年間の具体的な成果や、ダイキンが推進するDXの現状、そして今後の展望についても詳しく紹介します。

DICTの設立背景とその目的

ーー大学院相当の2年間で実践的スキルを習得

都島:ダイキンでは、戦略経営計画(FUSION) にもある通り「カーボンニュートラルへの挑戦、顧客とつながるソリューション事業の推進、空気価値の創造」や、設計開発・サプライチェーンのプロセス変革に向けて挑戦しています。そのような背景の中、データ活用が事業により密接に関わりを持つようになっていき、ソフトウェア技術が益々重要なキーテクノロジーになっています。

今までダイキンは伝統的な機械メーカーとして歩んできましたので、社内に情報技術者が不足していました。さらに、データサイエンス、クラウドなどの情報先端技術の人材はほとんどいませんでした。外部からの人材獲得も難しく、事業会社で動けるIT人材もいないとの理由から、経営トップ(現名誉会長)より、人材獲得が難しいのであれば社内でダイキンならではのデジタル人材を育成するとの方針が出され、社内人材育成制度として「ダイキン情報技術大学」が2017年12月よりスタートしました。

 

特徴的な点として、既存社員向けの教育だけでなく、新入社員を毎年100名規模、また1人当たりの教育期間は大学院に入り直すことと同じ2年間の専門人材の教育を行っています。今までにない規模の教育であり、人事本部と都島の所属するテクノロジー・イノベーションセンターと合同体制で企画・運営しています。

また、大阪大学には包括連携の取組みの一環としてご協力いただくこととなり、先生方に企画や講義、テーマ指導いただきながら進めることとなりました。これが、ダイキン情報大学設立の経緯となります。

DICTが目指す人材育成プログラムの特徴

ーー事業課題解決に必要な3つのAI人材像

都島:設立にあたって、社内で求められるデジタル人材の要件について議論を重ねました。その過程で、AIの本質的な理解や数学的知識の必要性など、具体的な要件が明確になってきました。これらの議論を踏まえ、実際の事業課題を解決できる人材には、以下のような能力が不可欠であるとの結論に至りました。

①AIを活用できる人材 ②AI技術を持って課題を解決できる人材 ③AIアルゴリズムを理解して具現化する人材

例えば、2つ目のタイプは、井阪君のように、AIアルゴリズムの本質を理解し、それを活用した課題解決の道筋を考えられる人材を指します。また、3つ目のタイプは、空調機から収集したデータを収集・蓄積する仕組みや、お客様への提案から制御システムの実装などAI技術をシステム化できる専門人材です。

ーー職種・役割に応じた特化型カリキュラム

都島:教育カリキュラムは、この人物像やスキルレベルに応じて、企画・実行し、毎年、新設・改廃を行いながら展開しています。例えば、「AI活用人材」のカリキュラムでは、現在の業務を進めている既存の業務部門メンバーがAIの講義を履修し、身に着けたスキルを活用し、自部門、自業務の業務課題を解決するようなプログラムです。「AI技術開発人材」はこれまでいなかったような人材であり、新入社員を一から育成していくような内容になります。「システム開発人材」は、製品ソフトウェア、IoTシステム、業務システム、社内ITインフラなどソフトウェア開発に従事する既存部門のエンジニアにクラウド・AIの最新技術の教育や体系的なシステム開発工程の教育を行っています。また、新卒で入社した社員もこのカリキュラムを受講します。
AIのビジネス活用、問題解決、具現化力の3つの領域で強い人材をつくる

DICTの成果:IT Japan Award 特別賞 受賞

――IT Japan Award受賞の背景:独自の人材育成とAI実装の先進性

都島:ダイキン情報技術大学が設立して7年が経過し、AIやクラウドなどの最新技術を扱う人材が各職場に拡がり、データ活用も進んでいく中、日経コンピュータ主催「IT Japan Award 2024」受賞の連絡をいただきました。これは主催者からの推薦に基づくもので、受賞理由として、主催者側より以下のコメントをいただきました。

 

「ダイキンの人材育成の特長は、事業会社の中でIT教育を内製化したこと。また、自社ならではの取組みを進めたこと」

「生成AIブームが到来した際に、ChatGPTベースのチャットボットをいち早く立ち上げたこと」

 

また、OpenAIとのChatGPTエンタープライズ契約は日本の製造業の中で一番早いものでした。さらにまた、IT Japan AwardのようなIT業界からの表彰はこれまで経験がなく、ITに従事する社内メンバにとって励みにもなり、社外に対するPRとしてもとても喜ばしいことです。

DICT卒業生の活躍

――グローバルリーダーとしてのダイキンとの出会いと理想の研究テーマと出会えたIAQという専門分野

井阪:ダイキン入社前は、大阪大学でディープラーニング用のハードウェアの研究に従事し、多様な分析手法を用いた研究開発を行っていました。ダイキンへの入社を決めたきっかけは、大学院生時代のシンガポール国立大学への研究留学にさかのぼります。留学中、ダイキンが多様な製品ラインナップを持つグローバルな空調機メーカーであることを実際に目にし、強い関心を抱きました。この海外での経験が、就職先としてダイキンを選択する決め手となりました。 

 

井阪:現在、私はダイキンの中でIAQを対象とした研究開発に従事しています。IAQとは、インドア・エア・クオリティの略で、日本語では「室内空気質」との意味となります。空気の専門家が集まったグループです。私の業務内容は、超音波を用いて測定したデータを基に、室内空間上の温度分布や気流分布を予測することです。また、入社段階から空気とAIを組み合わせて何か業務貢献をしたいと考えていましたので、今の業務には非常にやりがいを感じています。

――充実した研究環境

井阪:学生時代にディープラーニングは学んでいましたが、DICTの研修では、それ以外の機械学習などを含めAIを体系的に学ぶことが出来ました。また、使用できる計算機のスケールが、以前の大学時代と比べて非常に高いため、大企業ならではの技術投資の規模に感銘を受けました。さらに、DICT研修を通じて、先輩エンジニアや若手エンジニア、同僚などの人間関係を作れたことは、自分にとって大きな財産になっています。

――学びと成長を支える職場環境

井阪:自分でやりたいことは、何でもできる職場環境です。特に私の所属しているグループには、空気の専門家が多いのですが、社内全体を見渡すとITの専門家も多数在籍しています。そのため、社内の勉強会などのコミュニティを利用して、技術的な計算方法などについての学びを得ることができました。また、上司と話す機会もたくさんあります。その際、今「どのようなことに興味があり、何をやりたいのか」を気軽に伝えられる環境にあります。話し合いの場で、上司から私の思いを汲んで様々なサポートをいただいたり、反対に私から提案したりすることも多々あります。

――同僚との対話から始まったKaggleへの挑戦

井阪:Kaggle(カグル)とは、2000万人以上のデータサイエンティストやAIエンジニアが技術向上のために参加する世界的なオンラインプラットホームです。参加の経緯ですが、最初はKaggle自体をデータサイエンスのオンラインコースと捉えていました。AIや新しい技術を学べる機会と聞いていたために参加したのです。またKaggleへの参加時期は、ダイキン入社後の社会人1年目となります。参加の動機ですが、同僚にKaggle に興味を持つ方もいましたので、面白そうだと考えて参加しました。


――LLMコンペでの成功がもたらしたKaggle Master受賞

井阪:Kaggleでは、ChatGPTのような生成AIを使用した「LLMコンペ」と呼ばれる活動があります。LLMコンペは、主に大規模言語モデル(LLM)を題材として、特定のタスクの解決を競う大会(ゲーム)です。「LLM 20 Questions」と呼ばれるコンペに参加して832チームの中で9位となりました。その結果、金メダルを取得し、過去に獲得していた銀メダル2枚と合わせてKaggle Master受賞につながりました。

「LLM 20 Questions」の進め方は、最初に「秘密のキーワード」が設定されます。次いで「秘密のキーワード」を探すために、「質問と回答」が数回繰り返されます。そしてその「質問と回答」に基づいて、生成AIが「秘密のキーワード」を推測します。
このLLMコンペで苦労した点は、実際に自ら作った生成AIを使用して事前の評価では良い推測結果を得られたとしても、本番の評価では推測性能が下がる場合があることです。専門的には、その現象を「汎化能力(※1)が低い」と表現します。したがって、汎化能力が高いAIを創るために、様々なチューニングを重ねたことが一番大変でした。


※1:汎化能力とは
生成AIは、特定の情報(データセット)に対しては優れた推測性能を発揮しますが、他のデータセットについては、正しい性能を発揮できない場合があります。汎化能力とはどのようなデータセットに対しても、正しい推測結果を導くことができる(推測に安定感がある)能力と定義されています。

DICTが描く未来像

――DICTのミッション:先端IT人材の育成と現場への技術展開

都島:DICTでは、2023年度末までに1,500名の育成計画を達成しました。その後、2025年度末までの目標として、2,000名の育成教育を計画しています。現在、事業企画部門やTICなどいろいろな部門で卒業生が活躍しています。しかし、DICT研修を2年間で終わらせるのではなく、その先でも中核人材に成長してもらうよう、教育カリキュラムの質を上げる取組みを推進予定です。さらに、教育と実践をセットにしたDICTの取組みは現在、国内中心となっていますが、活躍の場を国内から海外に展開していきたいと考えています。

――IT技術で業界を先導する企業へ

都島:今回のIT関係の受賞(IT Japan Awardなど)に関連しますが、IT人材育成では、他企業からも評価されつつあります。しかし、IT業界でのプレゼンスはまだ十分ではないと考えています。今後は、画期的な成果を上げ、「IT技術の活用において業界をリードする」という会社のブランドイメージを確立することが、私の目標です。

――AI活用で実現したい、より良い暮らしと環境の未来

井阪:ダイキンの中で成し遂げたいことは多くあります。例えば、空気とAIの組合せでは、大規模言語モデル(LLM)の知識を活用し、人々の生活や環境を改善する革新的なAIソリューションを創出したいと考えています

 

情報技術者へのメッセージ

――挑戦する仲間が集う、イノベーションの舞台

都島:ダイキンは、継続的な成長と革新的な挑戦を続けている企業です。今後の更なる発展において、デジタル技術の活用は最重要な戦略の一つとなっています。当社では、社員一人ひとりが多様な領域で挑戦できる機会を提供しています。そして、その挑戦を確実な成果へと結びつけるため、充実した教育プログラム、活発な技術コミュニティ、きめ細やかなフォローアップ体制など、包括的なサポート体制を整えています。私たちは、自己実現への強い意欲を持ち、共に成長していける仲間との出会いを心待ちにしています。

――成長と挑戦を支える、ダイキンの企業文化

井阪:ダイキンでは、社員一人ひとりの成長をサポートする多様な学びのコミュニティが活発に活動しています。都島副センター長をはじめとする幹部陣も、社員の成長に関わりバックアップしてくれています。空調技術とAIの融合は、私たちの暮らしに新たな価値を生み出す無限の可能性を秘めています。「空気の価値」という未知の領域に、私たちと共に挑戦していただける方からの応募を心よりお待ちしています。

※記載内容とプロフィールは取材当時のものです。
Yoshihisa Toshima

テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長(IoT・AI担当)

2007年4月入社。神奈川県出身。
IoT・AI関連技術、データ活用推進、デジタル人材育成を担当。
新たな挑戦と学びを重ねながら、デジタル分野で先進的な企業へと進化し、社会や産業の発展に貢献していきたい。
Tsuyoshi Isaka

テクノロジー・イノベーションセンター

2020年4月入社。大阪府出身。空気データを用いたAI開発を担当。
AI・データ分析のスペシャリストとして、人々の空気環境を良くする革新的なAIを開発します。
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