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世界初のナノファイバー多孔膜を用いたエアフィルタはどのように誕生したか
FEATURE
2024.02.26
ダイキンは、空気の質を改善する空調機器メーカーとして、空調機器を構成するさまざまな要素部品を開発している。その1つが、世界で初めて開発に成功したというフッ素樹脂を用いたナノファイバー多孔膜のエアフィルタだ。グローバルに展開しているフィルタ事業において、この最先端エアフィルタを一から開発してきたTICの渋谷 吉之氏、乾 邦彦氏、清谷 秀之氏にお話を伺った。開発当初にまでさかのぼり、当時のご苦労や開発の醍醐味など、TICならではのエピソードを交えて語っていただいた。

空調メーカーのダイキンがエアフィルタ事業に参入した訳

――現在までの皆さんの経歴について教えて下さい。

清谷:1995年に入社して以降、ずっとエアフィルタ関連の開発に携わってきました。一時期、Oリングを開発したり、チーム自体が出向したりしましたが、そこでもフィルタ関連の仕事を一貫して行ってきました。

乾:私は1992年入社で、プラスチックの特性などを調べる研究・開発部門に配属となり、フッ素樹脂を加工するタイミングでフィルタグループに異動しました。現在は開発部隊から離れ、特許出願の窓口業務のサポートをしています。

渋谷:私は1980年に入社しまして、フィルタ以外の仕事を担当していましたが、1996年からエアフィルタの濾(ろ)材開発の担当になり、2008年から2年間ほどグループ会社のAmerican Air Filter 社(以下AAF社と記載)でフィルタ製造装置の立ち上げに関わりました。以降、ろ材・フィルタの共同開発を続け、2019年に定年退職しましたが、再雇用となり現在も開発を続けています。
――そもそも、なぜ空調メーカーがエアフィルタ事業に取り組んできたのでしょう?
      専門性が高い事業部を置く意義、求められる知識についても教えて下さい。

清谷:高性能の細い繊維のエアフィルタはクリーンな環境が必要な半導体や医薬品の分野で活躍していますが、空気環境の浄化という観点で多様な分野に応用できます。ダイキンは、空気清浄を目的にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルタの開発を行ってきました。フィルタを使うと空気抵抗が大きくなり、ファンの電力をそれだけ消費します。いかにして清浄効率を維持しながら、空気抵抗を下げて省電力化するか? という課題に高効率・低圧損であるPTFEフィルタを開発するという形で取り組んできました。開発には専門性は重要ですが、幅広い知見も求められます。


繊維の微細化による低圧損化。ナノファイバーろ材であるPTFE多孔膜が低圧損・高効率エアフィルタの主流になっている。
乾:専門性という点では、素材に使うフッ素樹脂の知識はもちろん、加工から、エアフィルタの知識、空気品質の評価テストまで、さまざまな分野でメンバーが連携しながら協力していくことが大切になります。TICにおいても、実際にフィルタの開発に関わるグループは、化学系だけでなく情報系やセンシング系などが得意なメンバーも含めた組織体制で日々研究開発を行っています。

世界初! 他社に先駆けてPTFEのHEPAフィルタを開発し、特許取得

――世界で初めてPTFEのHEPAフィルタを開発に成功しましたが、その特徴を教えて下さい。
  他社と比べ、どこにダイキンの強みがありますか?


清谷:ダイキンは1995年にPTFEのHEPAフィルタを発売しました。それまでのHEPAフィルタは粒子の捕集にガラス繊維を使っていましたが、これを世界で初めてPTFEに置き換えました。フィルタ素材を速く延伸してエアフィルタに適した微細なPTFE繊維による多孔膜になることを我々が発見したのです。そこでナノファイバーレベルのエアフィルタとして商用化しました。ダイキンの強みとしては、以前から化学事業部で樹脂素材を販売していたので、いろいろなアレンジや加工に対応できる点ですね。またグループ企業のAAF社や日本無機社との協力関係により、最終製品のフィルタユニットまで一貫体制で生産できる点もアドバンテージと言えます。
PTFE多孔膜の微細繊維構造。フィルム延伸によって形成されたPTFE多孔膜はナノファイバー微細繊維構造を持つ。
――開発中の苦労やそれを乗り越えたエピソード、秘話などがありましたら教えて下さい。

清谷:私が入社した当時は、まだ量産体制が十分に確立されておらず、製品にゴミが混入し、検査時にNG品となって廃棄したりすることもあり、生産には苦労した記憶があります。

乾:PTFEの延伸膜には目詰まりしやすいという弱点があり、これを克服するために膜を厚くしようとして難儀しました。最終的にいろいろ工夫して厚膜を生成したのですが、初めてのことなので、均一な素材にする際に引っ張りすぎると壊れてしまう。そのあたりのノウハウが得られるまで試行錯誤しました。従来の2倍以上の厚さにできた時は、やった! と思いました。

渋谷:中国の蘇州に製造工場があり、現地の従業員とのコミュニケーションは中国語や英語だったので最初は苦労しました。現場では中国語が中心になることが多く、通訳を介すと会話に時間がかかってしまいます。そこで中国語を独学で勉強し、仕事で意思疎通ができるぐらいまで身に付けました。日本人が中国語を話すと現地の人も喜んでくれ、よい関係が築けたように思います。

――フィルタ開発は他の化学メーカーと競合するため、協創が難しいのではないでしょうか?

 

清谷:確かにそういう側面はあります。どの企業と手を組んで共同開発すればよいのか? という点で悩ましいところはありますね。「この分野は我々が担当しますが、こちらはやりません」というように棲み分けをした上で協創する必要があると思います。ただ、もともとPTFEでエアフィルタを開発しようと考えたときに、ダイキン自身で川下の製品を持ちたいという意図がありました。

最先端のナノスケール技術への挑戦や、グローバルに活躍できるフィルタ事業の魅力

――フィルタに関して今後の展望を教えて下さい。

清谷:今後の展望としては、やはりダイキンの空気の質をさらに向上させるという目的で、さまざまな分野で我々のフィルタを役立てていきたいと考えています。

乾:PTFEフィルタは現在のところ一番圧損が低いため、エネルギーのロスを抑えられ、省エネ的にも環境的にも役立つので、地球規模でも貢献できるようしたいと思います。

渋谷:さらにPTFEフィルタの圧力損失を下げて、エネルギー的に貢献できるように開発を続けていきます。PTFEフィルタは不純物を出さないので、半導体装置の一部分やクリーンルームなどでも使われています。とはいえ、まだ市場は大きくないので、樹脂加工メーカーさんと共に切磋琢磨しながらもっと技術を磨き、市場のパイを広げていきたいと思います。
――最後になりますが、ダイキンへ入社を検討されている方に向けて何かメッセージをいただけますか?

乾:私は化学畑の出身でフッ素樹脂の素材開発から始まり、いまは特許の窓口業務を行っています。ダイキンは技術者が本当に幅広い分野で活躍できる場があります。今後はフッ素樹脂だけでなく、いろいろな高性能素材を開発してもらいたいですね。これから半導体関連分野も伸びてくると予想されるため、最先端技術を支える土台として期待できるでしょう。

清谷:基礎研究でいうと、PTFEフィルタはナノスケールなので、従来のマクロ領域の常識とは異なる物理的な現象が起きます。例えばナノレベルでは空気が滑って抵抗が小さくなりますが、その現象の理論的な解明はできていません。これからさらに新しい発見がたくさんあると思います。そうした研究に興味のある方の参加を待っています。

渋谷:ダイキンは、空調事業だけでなくフィルタ事業もグループ会社を通じてワールドワイドに展開しています。そのため、いろいろな国で面白い仕事ができると思います。実際に私もEU圏やアジア圏など、これまで計13カ国に技術打合せやテクニカルサービスなどで出張を経験してきました。海外で活躍したい、語学が堪能で活躍の場を求めている方々にも十分に魅力のある職場だと思います。興味のある方は、ぜひ我々と一緒に仕事をしましょう!
※記載内容とプロフィールは取材当時のものです。
Yoshiyuki Shibuya 

テクノロジー・イノベーションセンター 

1980年4月入社。大阪府出身。
エアフィルタ用PTFE濾材開発(成形・延伸加工技術) を担当。
競合他社と切磋琢磨し、常に業界最先端のフィルタ濾材を開発し続ける事により、PTFE濾材の認知度と市場(用途)を広げて行きたい。

 

Kunihiko Inui

テクノロジー・イノベーションセンター

1992年4月入社。大阪府出身。
知財窓口の技術知財、エアフィルタ加工技術、評価技術を担当。
ダントツのものをつくって、好ましい環境を実現し、人々に伝え、届けたい。世界第1位のエアフィルタ!
Hideyuki Kiyotani 

テクノロジー・イノベーションセンター

1995年4月入社。福井県出身。
エアフィルタ用PTFE濾材開発(ろ材生産、評価技術)を担当。
様々なニーズに応じたフィルタを開発して、インフラを支えたり快適空間を実現したい。
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