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ウイルスを30分で99%以上抑制できるUV-LED搭載空気清浄機はいかにして生まれたか?
FEATURE
2023.12.25
コロナ禍のなか、従来よりも除菌効果の高いUV照射を行うUV-LED搭載型の空気清浄装置を開発すべく始動した新たなプロジェクト。その清浄機能を向上させるために必要な要素技術を担当し、生産本部と連携して新しい空気清浄機の開発に成功したのがTICの小山千佳氏だ。開発時において越えるべきハードルや、課題解決に向けて工夫した点などについて聞いた。

新型コロナウイルスの蔓延を機に、新しい空気清浄技術の開発に着手

小山:学生時代は生物学専攻で、ヒトの細胞を使って、ガンなどの病気につながる環境ストレスの細胞応答メカニズムを解明する研究を行っていました。ダイキンのような電機メーカーとは無縁の研究で、それまでエアコンは空気を暖めたり冷やしたりするための機械としか見ていませんでしたが、就職活動を進めるなかで、マクロな視点から見れば環境中の微生物や有害物資に対する清浄技術は、自分の研究内容にも通ずるものがあると感じ、入社を決心しました。

 

 

入社後は滋賀製作所の商品開発部に配属されました。専攻が生物学だったので、機械系の設計知識はなく、1年目から設計の基礎を徹底的に勉強しました。その後、現在のTICへ異動し、生体センサーの開発や、健康に関連した新規事業の技術調査、香りを使った空気清浄技術の開発など、室内空気質「IAQ(Indoor Air Quality)」に関わる技術開発に幅広く携わってきました。そして今回のテーマである除菌領域の研究を始めたのです。

 

――UV-LED搭載の空気清浄機を手掛けることになったきっかけは何でしょうか?

小山:契機になったのは新型コロナウイルス蔓延によって、新たな空気清浄のニーズが高まったことです。もともと当社には除菌対策として独自の「ストリーマ技術*」があり、それと組み合わせて効果を発揮するUV除菌技術を開発するプロジェクトが立ち上がりました。そこで除菌の確実性・即効性・安全性を考慮した新しい空気清浄技術の研究開発を担当することになりました。

当時のコロナ禍で高まる市場のニーズに迅速に応えるため、技術をいち早く開発し、製品を提供しなければなりませんでした。そこで商品開発を行う空調生産本部と連携し、TICはUV技術の確立に加えて、それらを他商品にも展開できるように設計基準を作ること、この2つを目標としてプロジェクトを進めていきました。

※ストリーマ技術:プラズマ放電の一種であるストリーマ放電から発生する電子が空気中の酸素や窒素と合体し、その強力な酸化力によってカビやダニ、花粉、ホルムアルデヒドなどを抑制する技術。

従来技術との併用で相乗効果を発揮するUV-LED搭載型の空気清浄機

――UVの除菌技術に着目した空気清浄機能とはどのようなものでしょうか?

小山:除菌技術と一口に言ってもいろいろな要素技術があります。そのなかで当社のストリーマ技術と、UV技術を棲み分けることが差別化の大きなポイントになりました。空気清浄機にはフィルターもあるので、それらを組み合わせて、空気中のウイルスを効率よく不活性化できる製品を目指しました。

 

UV-LED搭載型の空気清浄機は、まずフィルターによって空気中のウイルスや有害物質を捕集し、そこにUVを照射して捕集したウイルスを不活化します。UV光の照射によりウイルスの遺伝子情報が破壊されるため、従来型よりも速く、確実にウイルスを不活化することができます。当社では、DNAやRNAへの破壊効果がより高いとされる波長265nm付近のUVC LEDを採用しました。

 

ウイルスを捕捉したフィルターに深紫外線(UVC)を当て、ウイルスや菌を抑制する。ダイキンでは波長が265nm周辺で、除菌効果の高いUVC LEDを採用。

UV照射に適した新フィルターの配置設計と安全性を徹底的に検証

――UV-LED搭載型の空気清浄機を開発するうえでの課題や、工夫された点を教えて下さい。

小山:従来の空気清浄機には、ウイルス粒子を補足する「HEPAフィルター」(0.3μmの粒子を99.97%以上捕集可能)を採用していますが、プリーツ形状になっているためUV光が照射されない箇所が発生してしまいます。そこでUV専用フィルターを新たにHEPAフィルターの上段に配置し、フィルター上に捕捉したウイルスを30分で99%以上抑制することが可能となっています。さらに、当社独自のストリーマ技術によって、空気中の酸素や窒素を励起させ、それらの分子をHEPAフィルターまで送り込むことができるため、従来と同様にHEPAフィルター上でも菌や花粉などの不活化効果を発揮できるよう工夫されています。
UV照射に最適化した新しいフィルターと配置設計。専用フィルターを設計して、HEPAフィルターの前段に配置することで。UVが全面に照射されるように工夫した。
ただし、UV専用フィルターに対してもUV光の照射ムラが発生することが開発の課題となっていました。最もUV照射の弱い箇所でもしっかりと除菌効果が発揮されていることを定量的に示すために、TICではその効果検証やUVによる除菌メカニズムに基づいた基準づくりを進めてきました。

UVは人体にも影響を及ぼすため、UV光が空気清浄機の外に漏れないようにするための安全設計と、厳しい社内基準を作った。
また、UV光はDNARNAを破壊するため、ウイルスだけでなく人体にも有害です。しかも目に見えないので、空気清浄機からUVが漏れていても人間には検知できません。確実にUVを外部に漏らさないために、生産本部にて安全保護機能や吹き出しグリルの特殊形状を設計するとともに、TICでは国際規格に適合しているかどうかを検証する測定方法や判定基準といった厳しい社内基準の設定を行いました。

これまでUV技術に関する基礎的な知見の蓄積が社内にあったからこそ、コロナ禍でも迅速に開発できたと思っています。

 

――ほかにも、開発の際に乗り越えてきたハードルやご苦労などはありましたか?

小山:UVはヒトの目に見えないし、リアルタイムにウイルスへの不活化効果もわかりません。そこで具体的な効果を検証するために、どのように試験を実施し、どんな効果が出せるのか、評価系を作ることにも苦労しました。UVを利用するうえで、新たな設計基準を作るために、世の中にある基準を調査しガイドラインを策定しました。また安全性に関しても、目に見えない光を正しく測定することに苦労しました。専用の治具を作って繰り返し実験を行うことで、自信を持って安全だと言える厳しい基準を検討してきたのです。当時は、コロナ禍で緊急事態宣言が発令され、出社や出張が厳しく制限されていましたが、感染対策に厳重な留意をしながら社外の試験機関に乗り込んで実験と評価を繰り返すなど、いまから振り返ると泥臭い仕事をしていましたね(笑)。

現在もUV技術の開発に携わっていますが、日々勉強の毎日です。初めての機器に触れるコトも多く、取り扱いも含めて検討していく必要があります。たとえば発熱の影響や光の方向性などを考慮したうえで、どの位置で試験を実施すれば、目的の条件を満たすのかということにも気を使いました。

さらに安全かつ高性能なUV除菌技術を開発、幅広い製品展開を目指す

――いろいろな困難を乗り越えて、新しい空気清浄機を開発されたのですね。今後の方向性や展開はいかがでしょうか。

小山:今回確立したUV技術では、まだまだ搭載できる製品や機種が限られているのが現状です。空気清浄機だけでなく、その他の製品にも幅広く展開していくことを狙っています。その上で、ユーザーの安全性を担保することは最優先課題です。構造が異なる様々な製品での安全設計技術やUVの見える化といった技術は重要になると考えています。シミュレーションを行っても、あくまで机上計算の結果でしかないので、実際の機器での正確な状況は把握できません。UV-LEDをうまく使いこなして、それらの課題をどのように解決していくのか検討を進めています。

また同時に、さらなる除菌性能の向上についても取り組んでいます。UV-LEDからの紫外線を無駄にしない安全で効率的な除菌技術を開発し、より多くの製品に適用できる要素技術の確立を目指しています。
――最後に、TICの研究環境や風土、ダイキン入社を考えている読者へのメッセージなどを一言お願いします。

小山:TICには様々な技術分野に精通した人が多く在籍しています。入社当時、私は機械系、電気系に関しての知識が全くなく、右も左も分からない状態でしたが、諸先輩方から学び、助けてもらって、今の自分があると感じています。反対に、自分の専門領域に関しては周りから頼ってもらえることもあり、やりがいを持って仕事ができる環境だと思います。

また、ダイキンには「フラット&スピード」というキーワードがあり、トップダウンの関係だけではなく、「自分のしたい」を自由に平等に発信できる風土があります。現在の業務においても、光という経験のない技術分野で分からないことや大変なことも多いですが、立場に関係なく自分の思いを伝えられて、新しい技術をみんなで作り上げていくことに挑戦する楽しさを感じています。ダイキンに入社される方々には、自らの専攻や専門分野にとらわれることなく、自分のやりたいことを実現するために、ぜひいろいろなことにチャレンジしてほしいと思います。

 
Chika Koyama

テクノロジー・イノベーションセンター(※2023.12.25 時点)

2015年4月入社。兵庫県出身。除菌領域の要素技術開発。
世の中にない新しい空気清浄技術を生み出し、世界中の人々に安心・安全な空間を提供したい。
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