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世界を旅してわかった植物と空気のこと

第4回 四季のある国だからこそ感じる、季節の移ろい

これまで、寒い国や暑い国の植物について話してくれたプラントハンターの西畠清順さん。連載シリーズを締めくくる今回は、四季のある国や地域の植物がテーマです。その話題は人と植物と空気の関わりにとどまらず、地球や環境に対してこれから私たちは何ができるのかということにまで広がりました。

同じ四季のある国でも植生は大きく違う

いろいろな地域の気候や植物についてお話をしてきましたが、今回の「四季のある国」は、気候的に言えば温帯圏ということになります。緯度が極端に北や南に偏っていない地域のことで、日本はまさにそれにあたります。アメリカやヨーロッパ諸国の一部やオーストラリアも日本と似た気候です。

一概に温帯圏と言っても、その植生はさまざまです。他の温帯圏の国々では常緑樹が大半を占めているのですが、日本では落葉樹が多い。そのため四季によって植物たちの表情の変化や空気感の変わり方が非常に顕著です。日本人は昔から季節の移ろいを感じたり、それを和歌に詠んだりしていますよね。植物や空気感の劇的な変化が、日本人の文化やライフスタイルに大きな影響を与えているのではないでしょうか。

元々日本に自生していた植物については諸説ありますが、7,000〜8,000種類と言われています。
一方、日本とほぼ同じ緯度にあるイギリスにはその10分の1しかなく、非常に植生に乏しかったようです。大きさもそんなに変わらない2つの島国であっても、これだけ植物の多様性が違っているのは面白いですね。

イギリスの針葉樹による森林

四季のある国で言えば、オーストラリアも特徴的です。日本では春になったら桜前線が沖縄から北上していきます。同じように、西オーストラリアではワイルドフラワーが暖かいところから順番に咲いていくんです。自然の中に生えるフトモモ科とかヤマモガシ科の植物や野草たちが、北の方から南下しながら咲いていく。南半球なので日本とは南北が逆になるのですが、同じような自然現象が見られます。

オーストラリアのワイルドフラワーの群生

人も植物も、気候に寄り添いながら生きている

四季折々という言葉がありますが、日本の季節感も変わってきているように感じています。私がこの仕事を始めた22年前、冬の東京で外に置いても育つ観葉植物はほとんどありませんでした。それが今では「えっ、こんな植物も外で大丈夫なの?」と驚かされることがあります。毎年通っている山へ行くと、これまでずっと雪の中を作業していたのに今年はまったく雪がないということもありました。四季のサイクルの中でちょっとずつ何かが変わってきているなと感じます。

人間や植物を含めた地球上のすべての生き物は、気候に影響され、それに寄り添って工夫しながら生きています。これまでいろんな地域や国の植物についてお話ししてきましたが、それを思い返せばよくわかりますよね。植物たちもそれぞれが生まれた場所、今いる環境や気候に影響を受け、寄り添いながら生きている。それを私たちが少し工夫することで心地良くしてあげることもできるし、健やかに育つということもあるわけです。

同じように、人間も服やエアコンがない時代から生きてきました。免疫力や抵抗力のポテンシャルはあるにしても、暑い国の人も寒い国の人も温帯圏の人も、それぞれが自分のいる環境の気候に寄り添いながら、工夫しながら生きてきたということだと思います。私の場合は、それを植物にしてあげることが仕事になっているわけですが、ダイキン工業という企業が人に対して考えようとしていることにも似ているなと感じます。

植物のある空間がもたらす意外な効果

気候に目を向けると、近年は地球の温暖化なども気になります。私たちがCO₂削減のためにできることは木を植える以外にもあって、例えばランドスケープ用の舗装材にコンクリートを使わないものを選べば、それだけで作る時のCO₂排出量が半分ぐらいに減らせます。
人工芝などのフェイクグリーンは石油が原料である上、マイクロプラスチックの原因を作ることにもなり、地球にとって何の役にも立ちません。自分が関わったプロジェクトではこうしたものを一切使わないのはもちろん、減らすようなアクションも行っています。
他にも、テーマパークや公園などの大規模な施設で使用する水の量をどうしたら減らすことができるかということを提案したり、実践したりしています。

身近なところでは、オフィス空間に植物を入れると二酸化炭素を固定して酸素を出すことができます。消臭効果もありますし、見た目がオシャレとかキレイといった情緒的な部分のメリットもあるでしょう。一方で、室内空間に植物があることで人間はストレスが軽減されたり、集中力が増したり、生産性が上がると言われています。

これまでにも居心地の良い温度や湿度は人間も植物も同じだというお話をしてきましたが、植物は風通りの悪い空間にあるとすぐに枯れてしまいます。つまり、植物が育たない環境は人間にとってもあまり居心地が良くないというバロメーターになるわけです。私たちはクライアントから求められる空間の最適化のために、環境に合う植物を提供していますが、それは意匠ではなく機能としての植物。私はこのことを自然の風景、自然体系、自然の環境から学んで応用しているのです。

地球環境のために私たちができること

大きな視点で考えると、今は気候変動などに対する危機感があります。私たちはそれにどう向き合っていくのか。地球のことを考える一方で、日々の暮らしを考える自分もいる。この2つが常に存在するわけです。環境問題に興味がない、知識がないという人はたくさんいるでしょうし、逆にそういった社会活動を熱心にされている方もいます。その両方を感じながら「どうしたらいいのかな」と思っている人もいますよね。極端にあっちでもなければこっちでもないという人たち。

実は私もそんな一人なのですが、ひとつだけ言えるのは、農家であっても、アーティストであっても、食品を売る仕事であっても、自分のいる場所、ジャンルで何ができるかを考えるしかないということ。それは全員が考えたらいいと思います。世の中に1万通りの職業があったら1万通りのできることがあります。一人ひとりが何かの仕事について、専門職をやっているのであれば、そこでできることを考えるというのが私は一番だと思っているんです。

そういう意味で、私はすごくラッキーでした。カーボンインセットをするために木を植える。こういったことをみんなが意識し始めた時期に、私のライフワークが直接的につながっていました。そして今もいろんな企業の相談に乗ったり、ご一緒したり、お手伝いをしたりという機会に恵まれています。だからこそ、この仕事を通して自分に何ができるのかということを日々考えているのでしょうね。

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