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世界を旅してわかった植物と空気のこと

地球上のさまざまな植物を収集し、依頼主のもとへ届けるプラントハンターとして、世界を飛び回って活躍されている西畠清順さん。今回から4回にわたり、世界のさまざまな気候で生きる植物について語っていただきます。その西畠さんの拠点は、国内でも有数の造園業の盛んな地域である大阪府池田市「そら植物園」の農場です。そこには役割の異なる4種類もの温室があり、約1,000種の植物が育てられています。連載の始まりとなる今回は、まるで世界の植物の展示場のようなそら植物園大阪農場の特徴についてお聞きしました。

生産・流通・工事まですべてを手がける

「そら植物園」の本社と農場がある大阪府池田市には、500年にわたる植木生産や造園業の歴史があります。その担い手の一つである隣町の家に生まれ、私自身もこの場所で仕事をしながら知識を蓄え、技術を磨いていきました。そうした中で、21歳の時から国内だけでなく世界中を旅するようになった経験から、今までのやり方とは異なる方法を試してみたくなりました。
植物を扱う仕事には明確な役割分担があります。いわゆる「植木屋さん」と呼ばれる植木の生産者が畑で木を育てて出荷し、庭をつくる工事を行う造園業者がそれを購入する。その中間には問屋さんがいて、仕入れた植物をストックしている。でも、私の場合はそういう誰かが決めたカテゴリーに囚われたくなかったのです。

私は植物を育てる生産者であり、お客さんの求めに応じて植物を見つけて届ける問屋であり、現場での造園工事も行います。この3つを両立させるためには、どんなリクエストにも応えられるように常に植物をストックしておくための大きな農場が必要です。そうして必然的に約1.6ヘクタールの農場を構えることになったのですが、これでもまだまだ足りないくらいです。

植物の力を利用して、心地よい空気をつくり出す

そら植物園では、温帯圏、砂漠、寒い地域など、世界中のさまざまな環境で生きる植物を管理しています。そこで欠かせないのが温室です。現在、温室は4種類あります。1つめは熱帯植物用の温室です。日本では観葉植物として流通することが多いのですが、オフィスや商業施設や店舗に出荷する前の植物をストックしておくための場所です。

温室というと、冬の寒さから植物を守るイメージがあるのではないでしょうか。それはもちろん必要ですが、夏の暑さや紫外線から守ってあげる役割もあります。熱帯植物とはいえ、30℃を超えると、その多くは成長を止めてしまいます。人間と一緒で20℃~25℃くらいが一番心地よく、成長するのに適していて、夏場は温室の周りに木陰をつくる植物を置いてあげたり、天窓を開けて熱を持った空気を逃がしてあげます。そうすると放射冷却によって温室内は外部より涼しくなる。植物自体の力も利用しながら、心地よい空気をつくり出すのです。

また、植物を養生させるための大型の温室もあります。例えば、どこかの地域からコンテナで仕入れてきた植物をしばらくここで寝かせて、イベントのために出荷される前にしっかり根っこをつくり、枝葉を茂らせてあげるのです。反対に、一度現場へ行って帰ってきた植物を回復させてあげるための場所でもあります。温室は大きければ大きいほど温度が安定するため、養生用の温室は2棟を連結させた大型のものになっています。

普通の花屋さんのように完成された植物を仕入れて売るのではなく、私たちはまだ素材の状態のものを仕入れてくるため、植物の状態も一つひとつ違います。だからこそ、こうした養生のための温室が必要なのです。

植物の特性に応じて最適な環境を

サボテン専門の温室はちょっと変わっています。サボテンという植物はとてもユニークで、目が付いているわけでもないのに、頭上にどれぐらいの高さの天井があるかわかるんです。天井が低いとあまり背を高くしようとせず、丸く締まった形になる。そのぼってりとしたフォルムが値打ちがあるため、サボテン用の温室は天井が低く、小さくなっています。小さな温室は急に温度が上がったり、日が落ちるとすぐに寒くなるのですが、そういう環境はサボテンが育つ乾燥地帯の気候とすごく似ていて、理に適っているのです。

温度管理において、空気の流れは本当に大切です。先ほど話したように、冷たい空気は徐々に下へ、暖かい空気は上へ向かいます。だから、夏は暑い空気を逃がすように天窓を開ける。冬場に加温する時には、ボイラーから出た暖かい風を下に落とすような装置を使っています。また、植物に均等に日光が当たるように、温室の向きは南北に長くなるように設計します。そうやって常に空気の流れを意識し、温度を管理しています。

これら3種類の温室とは逆に、4つめの温室は東西に伸びるように設置しています。この温室はかなり特殊で、北側の山の斜面をそのまま壁のようにして建っています。土は太陽光の熱を吸収するため、蓄熱材の役割を果たし、冬場の夜でも温室内の温度が下がり過ぎることはありません。中国などではよく使われている技法ですが、国内ではここだけではないでしょうか。ここで管理しているのは、巨大な植物で、なおかつ寒さにある程度強く、温度管理を厳密に行わなくていいものです。そのため、熱放射を利用した方法でも大丈夫なのです。

山の斜面をそのまま活かした温室

このように4種類もの温室を使い分けているところは、国内ではおそらく私たちだけだと思います。温室以外に路地栽培もあり、さらにその中でも植木鉢に入れるもの、湿気を含んだ土の畑に植えるもの、乾燥した畑に植えるものなどに分かれます。植物業界では大量・少品種が基本ですが、私たちは反対で少量・多品種。だからこそ、いろいろな環境をつくってあげる必要がある。季節によって異なりますが、植物の種類は約1,000種類で、約20,000株前後を育てています。春先の開花シーズンはもっと増えるでしょう。

世界を旅してわかった植物と空気のこと

植物に関わる仕事をされている方はたくさんおられますが、国内ではおそらく私が一番世界を旅していると思います。そうした経験の中で学んできたことを、これから連載形式でご紹介していきたいと思います。暑い国、寒い国、砂漠の国、そして四季のある国……。地球には本当にさまざまな環境があります。また、同じように「暑い」といっても、ボルネオやブラジルの蒸し暑さと北アフリカの乾燥地帯の暑さではまったく異なります。四季のあり方も、日本のように冬場が乾燥する国もあれば、反対にヨーロッパのように冬の方が湿度の高い地域もある。グローバルな観点から、植物と空気の関係性についてわかりやすくお話ししていければ。

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