さまざまな分野で顧客の体験を重視したものづくりが行われています。また、コロナ禍により空気に対する社会的価値が大きく変化しました。私たちを取り巻く環境が変わりゆく中、ダイキンはどのようなデザインを目指すべきなのでしょうか。デザイングループリーダーの関が語ります。
お客さまの体験をつくる、生活に寄り添ったデザイン
近年、プロダクトデザインにおいてのCX(カスタマーエクスペリエンス)の重要性が叫ばれるようになっています。私はそれを、お客さまの暮らしの変化に寄り添い、生活に溶け込むデザインであると捉えています。
例えば、花粉症で困っている人や子どものアレルギーで悩んでいる人がウェブで検索した結果、花粉やアレルギー対策について紹介するサイトにたどり着く。そこでは洋服についた花粉の落とし方などが紹介されていて、家の中の花粉やホコリをすべて取り去ることは難しいこともわかる。そのような前提を理解した上で、それらをさらに除去するためには空気清浄機が必要であると伝えれば、お客さまにとって最適です。製品だけでなく、そのような体験を含めて設計するのが本当のCXデザインです。
それはカスタマージャーニーとも呼ばれます。お客さまが空気に関する困りごとに気づき、それに関する情報に触れ、そこから自分の生活をどう改善してくれるのかを理解し、その結果としてダイキンの製品とめぐり合い、購入し、使っていただく。この一連の流れを意識して、お客さまが結果として製品を購入するためのフックになるようなコンテンツを考えることが必要なのです。
カスタマージャーニーを意識したデザイン
これまでの製品づくりにおいては、お客さまの感情に寄り添い、その購入体験にまで気を配ることは稀でした。市場競争原理の中で、他社と比較してどれだけ清浄能力が高いか、どのような特徴的な機能やスペックがあるか、まるで“星取表”を付けるように、口コミサイトの点数を競い合っていました。しかし、これから私たちダイキンが目指すべきは、そのようなスペック競争型のものづくりではなく、お客さま一人ひとりの困りごとに思いを寄せること。いかにしてお客さまの体験を中心に考えられるかが、デザイナーのシンプルなビジョンになってくるはずです。
例えば、ごく細かい部分でも、パッキンケースがごく普通のすぐに捨ててしまうようなものではなく、きちんとデザインされたものなら、その商品を手にした時のワクワク感や感動はまったく違うものになるでしょう。もう一つ、カスタマージャーニーの中でわかりやすい課題として、取扱説明書があります。期待を込めて製品の電源を入れようとしているお客様が、注釈が無数に並んだ分厚い取扱説明書を読む気になるでしょうか。こうしたディテールの積み重ねは、製品への愛着やメーカーに対する信頼感にも繋がるはずです。だからこそ、形だけの差異を追い求めるのではなく、製品を購入いただいたお客さまの体験の中にもデザインが入り込んでいけば、もっと私たちはレベルアップできるのではないかと感じています。
そのような観点から考えると、某リンゴマークのコンピューターの製品はUXの塊です。ストアでの購入体験はもちろん、ホームページで製品を選び、手元にパッケージが届くところまで、CXについて考え抜かれている。まるで自分専用にカスタマイズされた商品を手に入れたような最高に顧客満足度の高い製品だと思います。
CXの最大化と一貫したデザインポリシー
(ブランドコア)
そのために必要なのが、一貫したポリシーのある製品デザインです。空気清浄機でも、ルームエアコンでも、オフィス用の空調機器でも、何を見てもダイキンらしさが感じられるようにすること。その根幹をなすものが、2018年に定めたブランドコアです。
これはダイキン工業という会社の個性をそのまま凝縮したようなものです。ヨーロッパやアジアへとグローバル展開を志向する中で、私たちがデザインポリシーを共通認識化するために、ダイキン工業とはどういう会社なのか、改めて整理し、コアを見つめ直して具体的な言葉に置き換えたのです。
これはしかし、単なる規格の統一ではありません。ルールを反映させるだけならば、表面的なデザインになってしまいます。ダイキンのブランドコアは、100年の歴史を持つ奥深さであり、ホスピタリティのある安心感であり、新たな地平を探求する姿勢であり、熱意を持ってそれを実行していくことです。製品の表面のアールひとつをとっても、それが本当にお客さまに対して心を配るデザインになっているかどうか、考える必要があります。
それと同時に、企業の都合だけを押し付けるようなプロダクトアウトなだけのものになってもいけません。そんなものは評価されないでしょうし、私たちがつくりたいものでもありません。お客さまのCXを高めることと、一貫したポリシーのあるデザイン、この二つを掛け合わせたデザインを大切にしたい。それこそがお客さまの生活に溶け込むいいデザインなのだと考えます。
(欧州市場向けルームエアコン)
(日本市場向け加湿機能付き空気清浄機)
空気は365日、24時間、人々と触れているものです。でも、その存在が気にされていないのも現状です。一方で、Covid19によって空気の安全性が社会課題になったように、空気が変わるだけで人々の生活が豊かになるプラスの価値も沢山あると信じています。「空気で答えを出す会社」のデザイン部門として、お客様の生活を彩っていきたいです。