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好奇心がアイデアを拓く

デザイナー・山中俊治さんが語るデザイン

腕時計や調理器具といった日用品から、自動車や鉄道車両、さらには最先端技術を駆使したロボットやパラアスリートが使用する義足まで、ありとあらゆるジャンルのデザインを手がけてきた山中俊治さん。東京大学生産技術研究所では、プロトタイピングによって研究段階の最新技術を社会化することを通じて、さらにデザインの領域を拡大しています。プロダクトはもちろん、さまざまな事象を捉える鋭い観察眼に多くのファンを持つ山中さんに、現代のデザイナーにとって必要なものとは何かをお聞きしました。

デザインとは知識の統合

山中さんはデザインについて語った著書の冒頭で、「デザインする時に最初に行うのは『見ること』『聞くこと』です」(『デザインの骨格』日経BP社)と説いています。それはなぜなのでしょうか。

山中:
何かを生み出すということは、新しい組み合わせを考えるということです。そのための一番ホットなアイデアが生まれる方法は、新しく見たり聞いたりしたフレッシュなアイデアと、以前から持っている知識を組み合わせること。何もないところからは何も生まれません。そういう意味で、入力すること、すなわち「見ること」や「聞くこと」はとても大事なのです。

デザインに関わる人ならば誰でも感じていることですが、デザインとはさまざまな知識の統合作業です。それを行うためにはデザインの対象物についてはもちろん、使う人のことやそれを取り巻く社会状況、生産技術、職人の働き方など膨大な知識の中で最適な組み合わせを見つけ出す必要があります。しかし、しばしばそれらは矛盾します。こちらを立てればあちらが立たないという状況に陥る。ただ、多くの物事を見聞きしていると、ふと両方を活かせるアイデアが生まれる瞬間が存在する。そこに至るためには、やはりさまざまな知識に触れておかなければならないのです。

僕は新しいアイテムをデザインする時には、それを生み出している技術者に話を聞き、製品工場を見学し、街へ出てそれが使われている状況を見て、使っている人の元を訪ねます。そうして周辺情報のフィールドワークを重ねていくうちに、なんだか引っかかるもの、拾えるものがある。有用なのはみんなが「こうするのが当たり前だ」と思い込んでいるものに対して、そうではない組み合わせを発見することです。隠れた不便さや、実はこういうものが欲しいんじゃないかというところに突き当たるためには、そのプロジェクト全体を頭の中に常駐させながら、それ以外の新しいものにたくさん触れることが大事なのです。

歴史的に考えれば、科学的な目で観察することと芸術的にアーティストとして観察することは同じでした。レオナルド・ダ・ヴィンチの時代は、アーティストであり、科学者であり、エンジニアでもあるという人はたくさんいました。ある時代から専門家がそれぞれの目で見るようになりましたが、今デザイナーに求められているのはそれらのものの見方の統合です。だからこそ、デザインの対象以外に常に興味を持つことがとても大事なのです。

好奇心をモチベーションに

山中:
最近は義足のデザインをよく手がけています。それは人間の身体の一部を考えることですから、当然、脚のことや生物についてたくさん学ぶわけです。一方で、それとはまったく関係なく3Dプリンタという機械をすごく興味深いものだなと感じていました。すると、ある時ふと「そういえば生きものは組み立ててつくられないな」と思ったのです。私たちはさまざまな素材からパーツを一つ一つ加工し、それらを集めて最後に組み立てます。しかし生物は、細胞が少しずつ増えることで、複雑な機能も繊細な構造も一つのものとしてつくられる。そう気づいた時に、もしかすると一層ずつ積み上げて完成させる3Dプリンタは、従来の加工機械による製造方法よりも生物の方法に近いかもしれないと気づいたのです。だとすれば、人の体の一部である義足を3Dプリンタで作る方のはとても理にかなったことかもしれないと。

このアイデアは「義足製作にはどんな技術が必要か?」というような順番で考えたことではありません。「3Dプリンタって面白いな」という好奇心と、義足のデザインに関わっている経験によって、ある時、「ひょっとするとこの二つは相性がいいんじゃないか」というアイデアが導かれる。そういう瞬間がとても大事なんです。こうしたアイデアは好奇心ベースでなければ辿り着かないものです。必要な知識だけを手に入れようとすると、偶然のアイデアに出会う確率が減る。ある分野について徹底的に知ることも大切ですが、それとは別に好奇心をモチベーションとして幅広く動いていくこともすごく大事なのです。

3Dプリンタによる検証サンプル
左:重心位置の設計
右:荷重負荷試験の様子

「役に立つかどうか」は後回し

自分が「面白い」と感じる好奇心をベースに動くこと。山中さんは、研究の柱の一つであるプロトタイピングでもその姿勢を大切にしているといいます。

山中:
プロトタイピングとは、基本的には「未来の生活のプロタイプ」です。研究中の技術や新しい発見など面白いことを考えている科学者のアイデアを形にすると、未来の生活が見えてくる。ただ、自分でも心がけているのは、その新しい技術が面白いと感じた時に、「何の役に立つかな?」と考えるのは後回しにしようということなんです。

例えば、ロボットの研究者に「ロボットが何の役に立つんですか?」と聞くと、「未来の生活を支えてくれます」とか「介護に役立つロボットです」とか「レスキューにも役に立ちます」と答える。でも、研究者たちがロボットをつくる理由はそんなところにはなくて、「人間みたいな動きをするものをつくれたら面白いから」という純粋な感覚であったりするわけです。本音で話せばみんな素直にそう語るのですが、僕はそこを無視して役に立ちそうなものを目指すべきではないと思います。あなたたちは何にワクワクしているの?何ができた瞬間に「ああ、人間ぽい」って思うの?そういう部分を丁寧に考えていくと、実は形が人間に似ているかどうかは重要ではなかったりする。そうではなくて、ちょっとした仕草や反応によって「おお、人間みたいだ!」と思う瞬間がある。その正体を見極めようという気持ちをベースにしてデザインをしてみるわけです。

人間に反応するロボット

2019年に山中さんの研究室が行った「ぞわぞわ展」は、まさにそんなワクワクする気持ちを追究しようとする展示会でした。そこに並んだのはちょっと不思議な動きをするロボットたちです。

山中:
見る人に反応してビクッとしたり、ぐにゃっとしたり、ふわふわ動いたり。我々が「生きものっぽい」と思う瞬間だけを抽出したオブジェクトをつくりました。なぜそんなロボットをつくろうとしたかと言えば、我々人間は他の生物とコミュニケーションをする時に、「忙しそう」とか「自分に興味を持っている」とか、あるいは「こちらを理解している/していない」とか「退屈そう」とか、いろいろな情報をノンバーバル(非言語的)に感じているからです。

ロボットをつくる時、我々はついついコマンドをベースにしてしまいがちです。しかし、実はそうではないコミュニケーションの方が遥かに重要なのです。こちらに反応した動きを見せるように人工物をデザインすると、リモコンでコマンドするのとは別のコミュニケーションが生まれるかもしれない。これは、インテリジェントなマシーンと人間のコミュニケーションにおいて最も重要なパートの一つになり得る可能性を秘めています。

家の中を掃除して回っているロボットに対して、近寄ったら危ないのか、蹴飛ばしても大丈夫なのか、あるいは退屈そうだから何か新しいことをさせた方がいいのか。そういうものを感じ取れた方が、いちいちその状況をモニタリングして把握するよりも効率がいいわけですよね。こうしたアイデアが未来を考えるきっかけになるのです。

技術の「面白さ」に浸ることから

「ぞわぞわ展」のロボットについても、「何の役に立つんですか?」と聞かれれば、「ロボットのインターフェイス上の重要なキーを探している」と説明するでしょう。しかし、それは後からそうかもしれないと思っただけ。実際は「ゾクゾクしたりワクワクするロボットってどんなものだろう?」と考えた結果、本物そっくりにするのが正しいわけではないという点を確かめていたわけです。

ただ、半ば根元的な部分には触れているような気はするのです。安易にロボットを人に似せていいのか?目鼻を付けるのが正しいのか?液晶画面に笑顔を浮かべるようになっているけど、本当にそれがコミュニケーションとしてやりたいことなのか?それが「ぞわぞわ展」の不思議なロボットたちの根底に横たわっているテーマでした。そんなことを丁寧に問いかけるところから出発するのはとても大事なことですが、これもやはり好奇心ベースでしか発見できない。「役に立てよう」という合理的なスペースからは出てこないアイデアだと思います。

何か新しいことを考える時に、3Dプリンタやバイオなどの技術を使って…という風にテーマを先に決めることもありますが、まずはその技術の面白さにどっぷり浸ってみる。そして30年後くらいの未来を見つめて、そこから逆算して考えると、意外に今やれることがある。そんな風に「なんだか面白そう」というところから出発してみるのもいいと思います。

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