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室外機を景色の一部ととらえる

海外との意識の違いから生まれるニーズ

ふだん自分たちが当たり前だと思っている「常識」を取り払うこと。デザイナーにはそのような思考が求められる時があります。ダイキンヨーロッパが発売した「アルテルマ室外機」の開発は、まさにそれが求められる場面でした。

「アルテルマ」は暖房給湯商品の室外機です。エアコンで培った電気で空気を温める技術を応用し、水を温めてシャワーや床暖房、空調に活用するシステムです。日本では珍しい大型サイズですが、この能力帯ではコンパクトであるにもかかわらず、圧倒的な性能が出るのが特徴です。

室外機をめぐるヨーロッパと日本の違い

開発のきっかけは、ヨーロッパの販売会社から、「室外機のデザイン性を考えてほしい」という声があったことでした。ヨーロッパでは、ルームエアコンやヒートポンプ式暖房は日本ほど普及しておらず、そのため室外機を屋外で見かけることはあまりありません。生活している人にとっては、見慣れない物体を自宅の庭や玄関に置くことに違和感があるのです。

一方、日本では当たり前に存在するもので、漫画などを見ても風景描写に電柱や室外機が描き込まれています。これは室外機が景色になじんでいると感じているためです。しかし、普及段階にあるヨーロッパにおいては、室外機に求められるものも日本と同じではありません。室内への配慮と同様に、室外機にもまた「美しいもの」「誇れるもの」がほしいというニーズがあるのです。そこで室外機を「景観の一部」と捉え直し、室内機と同様のクオリティを持たせようと考えました。

室外機のデザインに求められるクオリティとは何なのか? そのような問いを自分の中で発しながら、室外機に対する意識を変え、デザインのクオリティを高める意義を広めたいという思いで取り組みました。「ダイキンの室外機をすべて変えたい」。開発メンバーとは、そんな強い気持ちをも共有していました。

設置環境を意識し、デザインに落とし込む

これまでの製品との大きな違いは、室外機を製品単体としてではなく、設置環境の視点で捉えたことです。ヨーロッパの住環境を観察してみると、広い庭があり、当然ですが窓やドア、玄関があります。それらがつくり出す「面」には必ず陰影があり、コントラストがついている。これを意図的に使えないかと考えました。


  • 影の面、スクエアで窓、ドアなどがより黒くうつる。=住環境においてはすべての建物に当てはまること。=アイデアの着想(ヨーロッパに限らず、日本でも)
  • 建物の影の面
  • 室外機の影の面

一つは家屋の周りに存在している「影」について。窓やドアなどスクエアな部分はより黒く映ります。設置環境である住宅が持っている陰影の効果をうまく利用できないかと考えました。もう一つは、そこに設置される室外機本体に宿る「陰」について。格子を活用して、本体に深い影ができるように演出し、カラーもそれを際立たせるよう選びました。この二つの陰影を効果的に取り込もうとしたのが今回のデザインのキーコンセプトです。

実用性とデザインを兼ね備えたグリル

デザインコンセプトである「陰影」を生むために、一番のポイントとなったのは前面の大型グリルでした。室外機を丸ごと覆い隠すなど、他の製品では見たことがありません。圧倒的なデザイン性の違いを生んでいます。

しかし、開発に当たっては苦労しました。この部分は樹脂製のため、成型の際に金型設計が必要になります。部材が大きくなると、樹脂を流す箇所が増え、金型設計が複雑化し、必要圧力も増加するなど、通常以上に品質確保の難易度が増していきます。社内でも経験のないサイズで、
当初は「本当にできるのか?」という意見も出るほどでした。微妙な格子のラインなどのデザイン性はもちろん、音・性能・雪対策・安全性などさまざまな機能への配慮が必要となり、試験基準をパスしなければなりません。多くのプロトタイプをつくり、エンジニアと一緒になって修正・検討を繰り返しました。

そのようなプロセスにおいて感じたのは、やったことがないからこそやる価値があるということ。室外機のデザインを美しくすることで、ヨーロッパから空気を変える。そんなストーリーを開発チームとも共有できたからこそ、大きな壁を乗り越えられたと感じています。

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