デジタル・ネイティブと呼ばれる1990年前後に生まれた世代が、今、社会で活躍しています。建築の持つストーリーを可視化する「建築ビジュアライズ」という新たな手法を用いてパースをデザインする竹中工務店の山口大地氏もその一人です。山口氏はダイキンと慶應義塾大学環境情報学部がコラボレーションした空気の流れを可視化するプロジェクト「Visualization of Air Conditioner」に興味を持ち、TICを訪れました。同世代のプロダクトデザイナーであるダイキンの山下と眞木が、これからのデザインやデザイナーの仕事のあり方について、山口氏と語ります。
大切なのは会話の積み重ね
眞木:
今日は山口さんにお会い出来ることを楽しみにしていました。宜しくお願い致します。
山口:
ありがとうございます。私も今日は山下さん・眞木さんとお会いできるのを楽しみにしていました。クリエイティブを仕事にする同世代の人たちが、何を感じ、どんなことを考えているか、とても興味があります。
山下:
山口さんは現在、建築ビジュアライザーとしてご活躍ですが、「建築ビジュアライゼーション」といわゆる「建築パース」との違いを教えていただけますか?
山口:
建築パースは、クライアントのニーズを可視化し、コミュニケーションを図るために、2次元の図面を3次元にしたものです。お二人も、建築物の背景に太陽と青空が浮かぶ建築パースをご覧になったことがあるのではないでしょうか。しかし、太陽と青空が、常に建築物をもっとも効果的に見せるとは限りません。建築ビジュアライゼーションは、よりクライアントの心に訴えかけるための表現です。そのため、自分でCGを作成したり、動画を制作することもあります。
山下:
新しい領域を広げるにあたっては、社内の仕事のやり方も変える必要があったのではないでしょうか。仕事を進める上で気をつけていることはありますか?
山口:
一緒に仕事を創り上げる人たちと普段から会話をすることを心がけています。時間がないからとおろそかにしない。そうするうちに、同じように「いいものを創りたい」と考えている人たちから、声をかけてもらえるようになりました。
建築はどうしても設計者が前面に出がちです。しかし、本当は管理や検査など、さまざまな職種のプロフェッショナルが関わっています。巨匠が一人いて、あれこれ指示を出されて動くのではなく、一緒にものを創っていく。だからこそ会話が大切なのです。
眞木:
プロダクトデザインも、きっと根本的な部分は同じです。自分たちの製品について異なる職種のプロフェッショナル同士が会話をする文化は一朝一夕には生まれません。普段からの積み重ねが大切だと感じます。
新しいものを創るチャンスが広がっている
山口:
DAIKINのプロダクトを見ていると、従来の空調機器のイメージにとらわれない、新しい発想がどんどん生まれているように感じました。
眞木:
そうですね。特にこのTICには、「新しいものを創りたい」という姿勢を持ったメンバーが集まっています。
山下:
また、社内ではアイデアコンテストがあり、積極的に応募しています。そこから新しい商品が生まれています。
山口:
そうした社内コンテストは「実施したものの商品化にはつながらなかった」ということも多いですよね。実際に製品化されるのは素晴らしいと思います。
山下:
特に最近は、製品のサイクルがとても早いです。そのため「世に出して、検証する」という動きが活発になり、企画の商品化もされやすくなっています。若いデザイナーにとってはチャンスが増えるので、やりがいがあります。
広がるデザイナーの仕事領域
山口:
デザインの仕事に携わる中で、他にも以前とやり方が変わってきたと感じる部分はありますか?
眞木:
例えば、雑誌の広告をつくるに当たっても、プロダクトデザイナーが写真の撮影場所に同行し、どのような見せ方にするのかを一緒に考える。「プロダクトに込めた想いをクライアントにどういう形で届けるか」というところまで、プロダクトデザインの領域は広がりつつあります。
山口:
アートディレクションも担当するのですね。
山下:
実際の誌面デザイン制作は専門の方が行うのですが、自分の意見は伝えています。ただプロダクトデザインをして終わりではなくて、もっと想いを外に表現していきたい。だからこそ私たちも他部署や外部の方とも積極的にコミュニケーションを図っています。
山口:
僕も同じです。設計者の中にも、設計はプロでも、そこに込めたストーリーの伝え方やイメージの共有はあまり得意でない人も多くいます。
眞木:
建築をストーリー化するにあたり、山口さんはどのくらいの期間、プロジェクトに関わっておられるのですか?
山口:
長くて1ヶ月、短くて2週間ですね。
山下・眞木:
短いですね。
山口:
そうなんです。だからその空間で何をしたかったのかや、クライアントの人柄、まとう空気感まで、コミュニケーションを取りながらどんどん引き出していく必要があります。瞬発力が問われます。
眞木:
上手くいったと感じるのはどんな時ですか?
山口:
ヒアリングした結果を元に、建築物にストーリーを吹き込んでビジュアルを作成し、それを目にしたクライアントや、建築にかかわるメンバーのテンションが上がった瞬間が気持ちいいですね。自分は「上げ屋」であるということを意識しています。
山下:
よくわかります。見せ方によって、みんなのテンションの上がり方が変わってくるというのは、プロダクトデザインに関わる中でも感じます。そしてそこから新しい依頼につながることもある。デザイナーの仕事領域も、人をつなぐ仕事として、広がりを見せていますね。
(後編に続く)