生まれたての「圧電シート」に心動かされる
このプロトタイプをつくるきっかけになったのは、化学部門の研究者に見せてもらった、まだ開発されたばかりの「圧電体」のシートでした。
「圧電体」とは、電気を加えるとひずみが発生し、ひずみ(力)を電気に変えることができる素材です。この材料自体は他社にもあるのですが、ダイキン工業のものは素材の透明度が高いという大きな特徴がありました。
初めて見た時、「こんなすごいものができたのか!」と驚きました。そして、デザイナーとしての創作意欲に火がついて、何かこの素材を楽しく訴求できるものをつくることができないか考えはじめたのです。
風流な音色と懐かしい情景を思い浮かべて
ふと頭に思い浮かんだのは、風鈴と風車(かざぐるま)という、ちょっと懐かしい日本的な2つのアイテムでした。ダイキン工業の技術=ジャパンテクノロジーを、日本らしいかたちで世界に伝えたいという想いがあったのです。風鈴の風流な音色や風車のまわる情景は、空気が生みだす癒やしや心地よさにつながるはずです。日本で生まれた新しい技術を日本人の感性で伝えたいと思いました。
風鈴の短冊や風車の羽根には「圧電シート」を使用。ここに風が当たったり息を吹きかけたりすると、センサーが反応し、風鈴を吊り下げた柱や風車の台にセットされている音源にスイッチが入り、「圧電シート」にひずみが発生し、音を奏でるという仕掛けです。
空気の存在価値を表現するために
「圧電シート」が音を出すわけですが、風車は形状の問題でこもった音や割れた音になってしまい、製作時には苦労しました。羽根のひずませ方や音源を変えてみるなどして、ようやく形にあった音が実現しました。
このプロトタイプは、言ってみれば風や息の強さに合わせて奏でる「空気の楽器」です。空気のように透明なシートだからこそ、まわりの空間を損なうことなく不思議な音世界をつくりだすことができます。高機能材料技術が見えない空気の存在価値を表現する——ダイキン・デザインとして伝えたかったメッセージが、この風鈴と風車に込められているのです。