ダイキンは、知的財産を重要な会社財産であると認識し、その知的財産を適切に保護するとともに事業を進めるために有効に活用すること、また、他社の知的財産を尊重し、侵害しないように努めることを基本として活動しています。これらは「グループ行動指針」に明記しております。
グループ行動指針また、「グループ行動指針」を受け、より具体的にコンプライアンスのポイントを示した「コンプライアンス行動指針」においては、研究開発の責任者は特許の責任者であることや、研究開発者は「特許活動は開発行為そのもの」と認識して特許の取得・活用・侵害回避を主体的に取り組むことなどを明らかにしています。
新製品・新技術の開発にあたっては、デザインレビューの一環として、特許の取得・侵害回避の観点から検証を行うしくみを整えています。また、他社との協業にあたっては、開示する技術と秘匿する技術とを峻別し、秘匿する技術についてはブラックボックス化するなどの取り組みを進めています。
ダイキンは、知的財産権の取得・他社知的財産の回避に加えて、産産・産学の協創による知的財産創出や、特許の無償開放による仲間づくりにも注力することで、事業に貢献する知的財産活動を推進しています。
知財活動を戦略的に推進するため、研究開発部門・営業部門と一体となって事業に貢献する知的財産ポートフォリオの構築・強化を行っています。知財情報および市場動向を分析した結果を研究開発部門や営業部門、経営層と共有し、知財戦略の立案に反映させています。更に、バックキャストによる事業戦略・知財戦略の構築のための「IPランドスケープ」の活動を広げています。このような活動を海外でも広めるべく、各拠点での知的財産体制の構築を進めると共に、グローバルな知的財産ポートフォリオの拡充・強化に取り組んでいます。
今後においても、戦略経営計画「FUSION25」において掲げる成長戦略テーマ「カーボンニュートラルへの挑戦」「顧客とつながるソリューション事業の推進」「空気価値の創造」を実現するべく、次の各取り組みを推し進めてまいります。
省エネ貢献技術、次世代冷媒技術、ヒートポンプ技術および空調・低温ソリューション技術等に係る知的財産を中心に、グローバル規模で積極的な知的財産の創出・活用および知的財産権の取得。
産産・産学協創の一層の推進による将来の持続可能な社会を支える新たな知的財産の創出・活用および知的財産権の取得。
国内および海外の開発拠点において、開発者を対象とするe-learningや知財担当者が講師の知財講座(演習を含む)などの知財教育を行い、開発者の知的財産に関する意識を向上させ、知的財産活動の強化を図っています。
国内・海外の営業・マーケティング担当者を対象として、商標に関するセミナーを行う「商標キャラバン」のほか、各事業部門のニーズに合わせた研修を随時実施しています。
国内の知財部門では、これまで社内で蓄積された経験をもとに、知財経験年数に応じて求められるスキルを見える化した独自のスキルマップを作成し、知財部員が自身のキャリアアップについて上司と対話をする際のツールとして活用しています。経験の浅いメンバーに対し、経験豊富なメンバーがメンターとなり、個々の能力および目標に応じた指導(OJT)を行っています。
開発部門 |
・e-learning ・知財講座 (国内・グローバル) |
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営業部門 | ・商標キャラバン |
知財部門 |
・OJT ・スキルマップを用いた 上司との対話 ・外部の弁理士試験講座の受講支援 ・外部研修 (JIPA、AIPE認定 知的財産アナリスト認定講座など) ・英会話レッスン ・海外開発拠点の知財担当との交流 |
また、知的財産に関する知識の向上を図るため、若手知財部員を中心に、外部の弁理士試験講座の受講支援を行っています。
その他、知的財産に関する情報の収集・分析等を強化するため、AIPE認定 知的財産アナリスト(特許)の資格取得、英会話レッスンの受講を推進しています。
当社のグローバル化に対応すべく、海外においても各地域の実情に応じた知財体制の構築を進めています。戦略経営計画「FUSION25」のスタートにあたり、当社の知財ポリシーを海外グループ会社の知財関係者と共有し、各拠点の知財情報集約を開始しました。当社では、グローバルの知財連携強化をはかるため、グローバル知財会議を定期開催しております。今後は必要に応じて地域別の連携強化会議も実行し、さらなる連携体制の強化を推進してまいります。
2023年度は、アジア・オセアニア拠点と連携強化会議を実施し、協力体制を強化しました。拠点同士の連携強化にも努め、各拠点の知財活動の活性化を推進しました。さらに、欧州拠点における開発部門への知財教育を実施し、開発者の知財意識向上を推進しました。
2024年度は、戦略経営計画「FUSION25」の後半にあたって、当社の知財戦略を改めて海外グループ会社の知財関係者と共有し、各拠点の出願強化に向けた施策に関する意見交換を行い、協力体制を強化していきます。また、グローバル拠点における開発者への知的財産教育を実施し、グローバル全体の知財力強化を推進します。
地球温暖化抑制と事業成長を両立させるため、オープン戦略を実践してきました。
2016年「モントリオール議定書」キガリ改正により、HFC冷媒の温暖化影響を85%削減することが定められ、これを遵守するためにダイキンはGWP(地球温暖化係数)が従来の冷媒よりも3分の1であるR32に注目しました。ダイキンはR32に関する特許を多く保有していましたが、R32は微燃性の冷媒で、「可燃」にまとめて分類されていました。そこで、ダイキンはISOにおいて燃焼性の新たな区分の設立を、業界を巻き込んで注力しました。
ISOの安全規格においてこの区分に合った機器の安全基準を盛り込むべく、改定活動を進めていました。しかし、当社が保有するR32に関する特許を問題視する意見も多数出たことから、当社は地球温暖化抑制に資する冷媒の普及を目的に、特許の無償開放を段階的に進めました。
2011年9月に、R32空調機の製品設計における必要性が比較的高いと考えられる延べ93件の特許を契約により無償開放することを発表しました。これを契機にR32を採用するメーカーが集まりましたが、それを更に加速するため、2015年9月には、無償開放の対象を先進国にも広げました。
ダイキンは、第1ステージの無償開放後もR32空調機特許に関して新たな出願をしており、当該特許により権利行使されないか心配するメーカーもありました。そこで、2019年7月、第2ステージの無償開放として、その後に出願した延べ176件の特許を無償解放し、さらに2021年7月に123件、2022年7月に120件を追加しました。
このような知財の先進的な活用によって、市場を拡大するとともに、R32のような温暖化係数の低い冷媒を推進することで、地球温暖化抑制に大きく貢献することになりました。現在R32を使用した家庭用エアコンは2022年6月時点で50%以上となっており、さらに拡大しています。
環境負荷低減に貢献する冷媒の基本的な特許を全世界で無償開放2009年当時、省エネ型のインバータを搭載した空調機の普及率は日本では100%でしたが、中国市場では7%とほとんど普及していませんでした。このままでは省エネ型の空調機が世界の主流になれない、このまま省エネに反するノン・インバータの空調機が中国から世界にひろがると、空調機が地球温暖化の原因にされ兼ねず、このままでは将来の世界の空調市場が伸び悩むことを危惧していました。
ダイキンは、中国系企業を巻き込んでそれを打破すべく、格力電機にインバータ技術を供与し、共にインバータ空調機を広めていく協業を行いました。この協業により、中国市場をダイキンの得意分野である高価格帯の性能勝負に誘導することができました。
実際には、汎用レベルのインバータ技術はオープンにしたものの、高度な擦り合わせを伴い、より省エネ性の高いインバータ技術はブラックボックス化した状態でクローズにしました。
また、空調機に搭載されるインバータ以外にも多くの差別化のポイントがあり、例えば、小型化や静音化、快適性や清浄度の向上など、インバータ以外の様々な部分でクローズにして差別化しました。
オープン戦略による仲間づくりを通じた市場の拡大と、クローズ戦略による差別化を維持した上での事業利益の拡大との両立ができ、さらには、この協業を通じて省エネ技術を世界に広げ、地球環境保護にも大いに貢献できたものと考えます。