人と馬がともに寒さをしのぐ知恵
岩手県・南部地方は“南部駒”で知られた農耕馬の産地。早池峰山から寒風が吹き下ろす遠野では“曲屋”と呼ばれる住まいで、大切な馬を守ってきた。L字型の母屋の下手に厩を設け、4頭から10頭前後を飼う。囲炉裏の火と馬の体温で家全体が暖まり、人も馬も寒さから逃れられるのだ。
この地に伝わる説話を集めた『遠野物語』には、河童や天狗の奇譚などと並んで、農家の娘と牡馬の悲恋話が紹介されている。動物や物の怪さえいつくしむ豊かな心が育まれたのは、人と馬が一つ屋根の下で暮らす曲屋での生活があったからかもしれない。
参考文献「北の住まい-日本列島民家の旅⑨
東北・北海道」INAX出版