萩市呉服町に残る菊屋家。国家指定重要文化財に指定されている。
断熱性と適度な吸湿性をもった土の壁
19世紀の日本を揺り動かし、近代国家の礎を築いた幕末の雄。彼らの多くを育てた山口県萩の町には、吉田松陰ゆかりの松下村塾をはじめとする古い建物が今も残り、訪ねる人々に歴史の息吹を伝える。なかでも豪商・菊屋の屋敷は、城下町のたたずまいを色濃く漂わせる。主屋、本蔵、金蔵、米蔵と並ぶ西側には、なまこ壁をめぐらせた白壁。割り竹を組んだ木舞を芯に、「すさ」と呼ばれる繊維質を混ぜた粘土を厚く塗り固めた土の壁だ。空気を多く含み断熱性に優れているだけでなく、適度な吸湿性で室内の湿度もコントロールする。
江戸期には、幕府の巡見使の本陣としてにぎわった菊屋家。蝉時雨を背にひんやりとした土間に入ると、烈日に疲れた目にひそやかな薄暗さが心地よいばかり。