多くの観光客が訪ねる松江市北堀町の小泉八雲旧宅。縁側で耳を澄ませば、八雲が聞いた風の音が今も私たちにささやきかける。
自然を感じ、
人が自然に溶け込む暮らし
日本の文化と自然を愛し、「雪女」など、日本の説話に題材を得た叙情あふれる小説で知られる小泉八雲。ギリシャで生まれたアイルランド人の彼は39歳で来日。英語教師の職を得て、島根県松江に移り住んだ。生涯の伴侶を得た八雲は、北堀町の古い屋敷に居を構え、来日2年目の初夏から初冬までの間をここで過ごす。代表作の一つ「知られざる日本の面影」に収められた「日本の庭」で、彼は松江の家を取り囲む庭の美しさを称えている。その庭を眺め渡せる縁側の一角は、八雲が好んだ場所だった。
外との境界をあえて設けない。庭越しに吹く風に自然を感じ、人が自然に溶け込む暮らし。それが縁側の思想だ。暑さも風も、自然の営み。古事記などにも造詣が深かった“日本人・八雲”は、一本の木、一つの石にも神が宿るとされる日本の自然を、この庭に見出したのだろうか。