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空気とくらし

ヒートショックの困りごとと対処法
空気の困りごとラボ

住宅内の温度差で発生するヒートショック

ヒートショックは、冬のお風呂、脱衣室、トイレなどで体あるいは体の一部が急激な「温度差」にさらされ、局所的に血圧が上昇し循環器系の疾患が引き起こされるものです。
急激な「温度差」によるヒートショックが原因と推測される家庭の浴槽での溺死者は13年間で1.9倍に増加、その数は交通事故死者数を大きく上回っています。

ヒートショックが原因と推測される家庭の浴槽での溺死者数と交通事故死亡者数の推移

出典:
厚生労働省「人口動態統計」/内閣府「交通安全白書」より作成

住宅内の温度差

ヒートショックの原因となる住宅内の温度差はなぜ生じてしまうのでしょうか。一般的に、日当たりを重視した住宅では、南側に窓が設けられ、浴室(や洗面室・脱衣室)、トイレなどの水周りは北側に設けられます。そのため、冬場はトイレや入浴の度にあたたかい居室から寒い非居室(洗面室・脱衣室、浴室、トイレ)へ移動することになり、住宅内にいても日常的に寒さにさらされる機会が増えます。

実際に冬場の住宅内で、寒さを感じる空間・場所があるかについて聞いたところ、最も多かったのは「洗面室・脱衣室」(71.0%)で、続いて「廊下」(70.0%)、「玄関」(67.5%)、「トイレ」(59.5%)が続きます。これら上位はいずれも非居室空間で、住宅内でも約6~7割の女性が「寒さ」を感じているようです。

冬場に家の中で寒さを感じる空間・場所

ダイキン調べ・2018年(対象:一戸建て住宅に住む首都圏在住の女性200名)

非居室空間では暖房がほとんど使用されていない

エアコンの設置状況も日本の住宅における「温度差」の発生原因の1つになっています。日本の住宅では、エアコンはリビングや寝室などの「居室空間」には設置するものの、廊下や脱衣室などの「非居室空間」には設置しないのが一般的です。
空間・場所別に暖房利用実態を聞いたところ、非居室空間における利用はごくわずかで、衣類の着脱がある洗面・脱衣室でも約3割に留まっています。

主な非居室空間における暖房利用実態

ダイキン調べ・2018年(対象:一戸建て住宅に住む首都圏在住の女性)

「非居室空間」で「暖房器具は使っていない」と答えた方に、暖房器具を使っていない理由を聞いたところ、最も多かったのは「その空間・場所に暖房器具が設置されていないから」(45.9%)で、続いて「寒くても我慢できるから」(37.8%)、「必要性を感じていないから」(35.7%)が続きます。主な非居室空間で寒さを感じている人が6~7割も存在しているにもかかわらず、暖房器具は設置せず、我慢できると考えてしまう人が4~5割存在するという背景には、我慢は美徳であり、寒さは体を強くするという私たち日本人が持っている価値観が影響しているのかもしれません。

非居室空間で暖房を利用していない理由

ダイキン調べ・2018年(対象:一戸建て住宅に住む首都圏在住の女性196名)

ヒートショックの困りごとの対処法

では、冬の住宅空間でヒートショックや低温を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。住宅内の温度差やヒートショックの問題に詳しい、近畿大学教授 岩前 篤先生に対処法を教えてもらいました。

「採暖」から空間をあたためる「暖房」へ

まず、室内の「温度差」はもちろん、「低温」自体が私たちの健康問題であるという認識を持つことです。日本人はトイレや脱衣室、廊下などの非居室空間が少しくらい寒くても「我慢」して過ごしてしまいます。しかし、家の中で「寒い」と感じるということは、その時点ですでにストレスであり、「健康問題」といえます。海外では「ルームヒーティング」という言葉が示す通り、「暖房」は部屋や空間全体をあたためるものと考えます。これに対して日本の「暖房」は「暖を取る」すなわち「採暖」で、(空間ではなく)人をあたためるものと考えます。その結果、日本の住宅内には「温度差」「低温」が生じています。海外の研究によれば、日本人の死者のうち約 10%に相当する12 万人が冬の「低温」の影響で亡くなっているとする報告もあります。私たちが思っている以上にヒートショックは深刻な問題なのです。
今の時代、高気密・高断熱化や小空間用の空調等、住宅内の温度差や寒さを防ぐさまざまな選択肢があります。ヒートショックやそれに伴う健康リスクを防ぐためには「採暖」ではなく、空間全体をあたためる「暖房」を暮らしに取り入れることが必要といえます。

10℃以下の低温空間を作らない(寝室温度にも気を配る)

ひとつの目安として、住宅では10℃以下の低温空間を作らないようにしましょう。実は日本の戸建て住宅では 10℃以下の低温はごく普通にあります。私の研究室でおこなった日本における冬場の寝室温度に関する調査でも、10℃前後の寝室が多いことを確認しています。興味深いことに、東京から北上すると寝室温度は高くなり、反対に東京から西へ進むと低くなっていきます。つまり外気温と寝室温度には逆相関の関係がある(外気温があたたかい方が寝室温度は低くなる)のです。ヒートショックや低温の問題が決して寒い地域に限った話ではないことを示す結果で、温暖な地域に住んでいても注意する必要があります。

寒さを感じる前に予め空間の温度をコントロール

私たちは日常生活の中で、自分でも気が付かないうちに「低温」に体を晒してしまうケースがかなりあります。例えば家の中で、スマホやテレビ、本・雑誌などに夢中になって、いつの間にか体が冷えていたという経験は誰にでもあるのではないでしょうか。このようなケースでは、「低温」によるダメージを体に受けた後になって「寒さ」に気が付くことになります。これを防ぐためには「寒さ」を感じてから室温を上げるのではなく、空間全体の温度が低くならないように、予めコントロールしておくという心掛けが必要です。


近畿大学 建築学部長 教授

岩前 篤 先生

昭和 36 年和歌山県生まれ。昭和 60 年神戸大学院工学研究科を修了後、大手ハウスメーカーに 入社し、住宅の断熱・気密・防露に関する研究開発に携わる。平成 7 年、神戸大学にて博士号 を授与。平成 15 年春に同社を退社したのち、近畿大学理工学部建築学科に助教授として就任。 平成 21 年に同教授、平成 23 年に新設された建築学部の学部長に。

ダイキンからのアドバイス

非居室空間もあたため、家中の温度差を抑える

家中の温度差を抑えることが、ヒートショックの緩和のために重要です。多くの家庭ではリビングや寝室などの居室空間にはすでにエアコンを設置していると思いますが、エアコンが設置されていない非居室空間もあたためることを検討しましょう。

日本の住宅におすすめの方式は「全室空調」

ダイキンは、日本の住宅環境においては、欧米のような全館空調ではなく、生活スタイルに応じてその空間の状況に適した使い方で、洗面室や廊下などの小スペースでも取り付けられるエアコンを活用して非居室空間もあたためる「全室空調」をおすすめします。「全室空調」であれば、それぞれの部屋ごとに操作が可能なので無人のときには切っておけば、省エネ・低コストにつながります。たとえば廊下や玄関のようにエアコンが設置しにくい場所にも、床暖房やパネルヒーターを設置するなど、さまざまな暖房機器を上手に使い分けたり、組み合わせたりすることで、家中を快適に空調することができます。これまでエアコンが設置できないとあきらめていた場所にも設置できる、小空間用のエアコンなどもあるので、上手に取り入れて、家中をすみずみまであたためてください。

リビング

寝室や子ども部屋

廊下やフリースペース

キッチン

参考情報

省エネ重視で居室をあたためる日本、全館空調で家全体をあたためるアメリカ・ヨーロッパ

日本と海外では寒さに対する意識が大きく違うようです。欧米では「寒さは人を弱くする」という考えのもと、冬の間中、暖房をつけっぱなしにしているように、国や地域、また文化が違えば、空調に求めるものも変わってきます。アメリカでは1つの大きなエアコンで温度調節をした空気を居室・非居室にかかわらず、家中の隅々まで送る、全館空調システムが主流となっています。アメリカでは、日本よりも光熱費が安いため、暖房をつけっぱなしにしていても日本のように光熱費を気にする必要があまりないのです。また、ヨーロッパでは給湯器から家中の床暖房や、ラジエーターに一斉にお湯を流して暖房しています。アメリカでもヨーロッパでもリビングや寝室だけでなく、冬の寒い期間中は住宅内の隅々まであたたかくする全館空調システムが一般的な空調文化となっているのです。
一方、省エネ意識が高い日本においては、家中を常に空調するという考え方はあまり受け入れられておらず、日本では一般的にエアコンは居室向けの設備として、リビングや寝室、子ども部屋などで使用されています。そのため、リビングや寝室などエアコンのある場所と廊下やトイレ、脱衣室などエアコンのない場所に温度差が生じてしまっているのが現状です。

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