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空気をデザインするということ

コンテクストデザイナー・渡邉康太郎氏が語る『空気の可能性』

東京とロンドンに拠点を置くデザイン・イノベーション・ファーム・Takramで、コンテクストデザイナーとして活躍する渡邉康太郎さん。コンテクストデザインとは、ものづくりによって一人ひとりの小さな『ものがたり』が生まれるような取り組みを指します。さまざまなプロジェクトに携わる渡邉さんに、空気についてお話を伺いました。

空気の定義とは

東京・表参道にあるTakramのスタジオ「Takram Omotesando」は、温かみのある木調の床と、壁に配されたステンレスの質感が、シンプルで心地よい空間。大きな窓から明るい光が差し込む部屋へ、タブレットとメモを携え、笑顔でやって来た渡邉さん。話し始めると、このサイトのタイトルに興味を持たれていたようで──。

「ぼくはこのweb(DAIKIN design)の「inspire」という連載名を見て、思わず震えました。このコンテンツをとても良く表していると思ったからです。inspireはラテン語の、中へ(in)と息をする(spirare)を語源としていて、「息を吹き込む」から転じて、知や刺激を授けるという意味です。空気と気づきを同時に表した言葉で、このページの内容にとても合っています!

空気を考えるにあたって、まずは空気という言葉について調べてみましょう。英語の「air」には、3つの語源があります。1つは“気体”を表す、古代ギリシャ語の「αηρ(アエール)」。2つ目は“場所”を表すラテン語の「ager(アゲル)」、3つ目はイタリア語で“歌”や“空気”を意味する「aria(アリア)」。この3つに共通するのは、“場を満たすもの”であるということ。すでに場を満たしている「もの」に着目するのが西洋です。

一方、日本語の空気という漢字は、“空”は大気を、“気”は命を吹き込むものを表しています。この「空」という言葉は「から」とも読みますね。つまり“何かで満たされる可能性”のことです。「空虚」、すなわち余白を表しています。これから満ちる「何か」の不在に着目するのが日本です。

この空虚を満たすのは、人間の想像力だと思うのです。デザイナーとしては、人の想像力が入る余地がある、日本語の空気という言葉、すごくいいなと感じています。」

茶道と空気

空気は空っぽだからこそ、そこに満たされる可能性が生まれる。まさに日本の情緒を見た気がします。日本の伝統文化である茶道を嗜むという渡邉さん。茶道と空気の関係についても語ってくれました。

「茶の湯を行う建物のことを、数寄屋と呼びますが、これは空屋とも書きます。なぜ空屋なのかというと、茶室にあるのは、掛け軸、釜や花器、お茶を楽しむための茶碗など、必要最低限の道具のみ。故意に空間を仕上げずに、「空虚」を残して、受け取る者が想像でそれを完成させる。これは空気という言葉の“人間の想像力で満たす”という語感に通じています。

明治に活躍した美術評論家の岡倉天心は、著書『茶の本』の中で、茶道とは「不完全なものを崇拝する」ことだと書いています。足りないということは、何かがないのではなく、可能性に満ちているということ。すべてを語らず、人の心の中で想像することによって完成するという日本独自の美意識が、空気という言葉の中に見え隠れしているのです。」

コンテクストデザインの世界

人間の想像力によって完成する。まるで使い手が手を加えることで完成する、コンテクストデザインのようです。渡邉さんが考えるコンテクストデザインとは、どんなものなのでしょうか。

「コンテクストとは文脈を意味しますが、語源を辿ると「共に編む」という言葉です。コンテクストデザインは、作者が込めた強い文脈をきっかけとして、使い手によって新たに加えられた弱い文脈が表出することを意図したデザイン活動です。作り手が込めた意味とは別に、使う人が多様な意味を見いだす。ここでのコンテクストは、無名の個人から生まれる物語のことも表しています。

アマゾンや食べログのレビューなども個人の物語と言えなくもないですが、それはコンテクストデザインが目指すクリエイティビティとは違う。レビューとは、平均値や一律の評価指標を生み出すためのもの。平均ってサンプルが多いほど良いですよね。でも、サンプルが多いということは、個人が無名化することにつながってしまうし、そもそも一つの価値軸であらゆるものを測っても面白くない。

ぼくの目指すコンテクストデザインの世界は、サンプルは1人でも良いんです。その1人が語る物語が、想像を誘うものであればいい。平均化された尺度よりも面白い世界を切り取ることができるのは、そこの個の力が備わっているからです。消費者自身が表現者になったり、使い手が作り手になったりしながら、今まで聞こえてこなかった、一人ひとりの心の中にある物語が、世の中に表出すればいいと考えています。

クリエイティブは、デザイナーなど一部の人だけのものではありません。例えば今後、ベーシックインカムが導入されるようになったり、AIが台頭するようになると、人間の仕事が減って自由な時間が増えると言われています。そんなとき、みんながクリエイティブになって、自分なりの表現ができるような世の中だと楽しい。空気も、”満たされる可能性”なわけですから、物語や意味を見い出す対象になるかもしれませんね。」

空気をデザインするということ

空気にも物語や意味を見い出す渡邉さんが考える空気の意味、空気をデザインするということについても聞いてみました。

「空気について考えるとき、ぼくはまず、空気が何によって“満たされる可能性”があるのかを探ります。空気以外の概念や言葉を深掘りして、リサーチに時間をかける。空気をデザインするというところに入るまでに、自分自身やチームメンバーの空気に関する既成概念を壊す。これは大きくジャンプするために、深くかがむのと同じこと。問いの質が答えの質の上限を決めます。問いを磨くためには、深く考えなくてはいけません。ソリューションを一足飛びに目指す前に、きちんとした足がかりが必要なのです。

ぼくの好きな言葉に、江戸時代の哲学者 三浦梅園の『枯れ木に花咲くを驚くより、生木に花咲くを驚け』というものがあります。「人は枯れ木に花が咲く奇跡に驚くが、生きた木に花が咲くことも、決して当たり前のことではない」という意味なのですが、私たちの身の回りに、当たり前に存在する空気にも、同じ事が言えるのではないでしょうか。

普段、空気のことを意識して考える機会はあまりないと思います。でも、当たり前のものほど、より深い思索の対象になりうる。当たり前のことに驚きを見つけられることが、本当の知性だと思うんです。気づきを通して、今までの世界観を一変させてしまうわけですから。」

空気とコミュニケーション

空気について考えることは楽しいと語る渡邉さん。最後に渡邉さんが考える、空気の可能性についても語ってくれました。

「ぼくは香水が好きなのですが、コレクションするだけで、あまり使いません。香水をつけた人が通り過ぎる時に、ふわっと香るのが好きなんです。それは別に好みの香りでなくても良くて。香水(perfume)の語源は、ラテン語の“煙を介して”(per‐fumum)という言葉なんですが、ぼくは香水の香りを嗅いでいるのではなく、空気中を漂う香水を介して、その人の存在を感じているのだと思います。

煙と言えば、情報通信の始まりは狼煙なのだそうです。狼煙は遠方とのコミュニケーションを媒介するものとして、雨乞いや仲間への合図などにも使われてきました。煙とコミュニケーションの関係は、情報通信から神話の世界までをつないでしまう。こういった考え方をヒントに、空気の新しい可能性を、なにか形にできれば面白いですね。」

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